どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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今思えば……俺は一目見た時からメェさんの事が好きだった。
いや、今思わなくても、その事実は変わらない。

だぼだぼな白衣を着て、笑うと素敵で……少し邪な感じがするが、ふっふくよかな胸を持つメェさんが俺には女神に見えた。

大袈裟ではない、本当にそう見えたんだ。
だから、メェさんの前にいると、身体が震え、言葉も震えてまともに顔を見れない。

そんな俺をメェさんはどう思ってるのか? そう思った事も何度もあった。
つまらない男だ、気持ちが悪い男だ、顔を真っ赤にして意識して……何を考えているのか?

俺の前ではそんな事を思う素振りは見せないが、俺のいない所でそんな事を思ってるんじゃないのか? 何度も思う事があった。

だが……そんな考えはとても馬鹿な事だったと、今思い知った。
何故なら、今まさにこの瞬間、メェさんにキスをされたからだ。

小さな唇で、優しくも甘い、純粋な好きと言う気持ちが乗ったキスを俺に与えてくれたからだ。

胸が高鳴る、まともに前が見れない、呼吸が荒くなる。
だからなのか……言葉が出ない。

メェさんは「次は……きぃ君の答えを聞きたいです」そう言ったのに……言えない。

その答えを気持ちだけで言うならば、即答で「俺も好きだ」と答える。
だが……言葉が出ない。
出るのは、荒くなった息と、焦りで吹き出る汗だけ。

肝心の言葉が出ない。
「好きだ」と言う言葉が出ない。

突然だ、突然の事だ。
いきなり好きだと言われた。
俺があれこれ悩んでる内にメェさんは気持ちを伝えてくれた。
勇気が100%になったら言う、そんな言い訳を言っていた俺よりも先にメェさんは俺に告白をした。

俺は……出遅れた。
それに加えて告白を受けて、何も言えずに椅子に座ったままでいる。

口は開いたまま、身体は震えたまま、赤くなった顔でメェさんを見つめる俺は……とっても惨めに写っておるだろう。

情けない、本当に情けない……。
何も言えない俺は……物凄く弱い、腕っぷしが強くとも度胸は無い。

肝心な所で何も言えなくてメェさんを待たせてる。
アホか、バカか、勇気を出さんかい! 心の中で鼓舞をしても……俺の身体は動かない。

俺が喋らないでいると、メェさんは心配な目を向けてくる。
……おい、鬼騎よ。
メェさんの気持ちを無下にするのか? 向こうも相当恥ずかしかった筈だ。

それなのに告白してくれた。
それに答えるべきじゃないのか? 動け、立ち上がれ、声を出せ!

ぷるぷると震える足を押さえて、俺は……ゆっくりと立ち上がった。
それをきょとんとした表情かおで見つめてくる。

……好きだ、だとか。
愛してる、だとか……その言葉を出すのは、物凄く勇気がいる。
ヘタレで情けない俺にはそれを言う勇気がない。

ならばどうする? だったらどうする?
言葉じゃなきゃ気持ちは伝わらない。
言うしかない、言うしか道はない。

色んな考えが頭を過るなか、俺は……メェさんとの思い出を思い返した。

「……くくっ、どうやら俺は……言葉では気持ちを伝えられんらしい」

ぼそっ、そんな呟きが出たしまった。
それを聞いたメェさんは悲しい顔をした。

……いけない、そんな顔をしないでくだせぇ。
俺は、メェさんのそんな顔を見たくはありません。

「メェさん……」
「はっはい」

震えた声で話し掛け、真っ赤になった顔をバチンっ! と叩いて気合いをいれる。
その行動に、身体をビクつかせて驚くメェさん。

「はっハッキリした言葉で、もっ申し訳ない……ですが、おっ俺の気持ちを食してくれさい!」
「くっくれさい? あっ、下さいって事……ですか?」
「はっはい!」

肝心な所で噛んでしまったが、メェさんは分かってくれた。
まっまぁ何はともあれ……言えた。

後は俺なりの答えを出すだけだ。
俺が言った通り、メェさんに俺の気持ちを食して貰う!

俺は言葉では気持ちを伝えられんヘタレ。
だがその前に俺は料理人、メェさんとの繋がりは料理にある。

だから……通常とは違って、世界一可笑しな告白になるとは思うが……今から料理を作って、メェさんに気持ちを伝える!

それが俺の告白の仕方、可笑しな奴だと思うならば笑え。
それが俺に出来る、気持ちの伝え方だ。

ゆっくり歩いて厨房に立つ俺は、ふぅ……と深く息を吐き出した。

「よし、やるか……」

俺は鋭い目付きになり、料理を開始する。
メェさん待っててくだせぇ……今から俺の気持ち、貴女に伝えます!

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