どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

207

周りの会話、飲み物を飲む音、食器を使う音、それ等がやけに鮮明に聞こえた。
それを打ち消すかの様に、ロアは今までに見た事がない位に微笑んだ。

なっ! なんでそんな顔をする? 俺はロアに好意を寄せていないのに、今この瞬間、違う人を好きだと言ったのに……。
驚きを隠せない俺をよそに、ロアが口を開く。

「そうか」

自分の髪の毛を、さらっと掻き分けた後、俺の頬に触れた手を自分の膝に置いて深くソファーにもたれ掛かった。

「いやぁ、なんと言うかあれじゃな、シルクが住んでいた喫茶店でも偉く甘酸っぱい事を経験したんじゃな」
「え、あっあぁ……甘酸っぱいと言えば甘酸っぱいが、その……なっなんで平気なんだ?」
「平気とは、どう言う意味じゃ?」

いや、どう言う意味もなにもないだろう。
答えは分かりきっているだろ? まっまさか、それが分からない……のか?

「え、あ……その、おっ俺が……その」

そんな事を考えて口ごもっていると、ロアはふぅっ……とため息を吐いてきた。

「シルク」

それに対して、何かを言おうと思ったが、それを言う前にロアに言葉を阻まれてしまった。

「シルクはその者が好きなんじゃな」

そして言われたこの言葉、俺はその言葉に対して、黙って頷いた。
……なんだこの気持ち、正直に答えたのに、この胸の痛みはなんだ?

疑問と困惑が一気に俺に襲い掛かる、俺はどうする事も出来ずにただ黙るだけ。
その時だ、ロアが突然、くすりっと笑った。

「全く、毎回思うが……シルクは優しいな」
「それ、どう言う意味だ?」

何故笑ったのか気になったが、まずその事を聞いてみる。

俺が優しい?
いや……俺は優しくない、色々と考えは出て来るが迷ってばかりだし、上手く結団出来ない。
ロアとナハトの事は速く解決しなくちゃいけないのに、全く進展していない。

俺に優しいと言う言葉は使っちゃダメだ。
俺は迷ってばかりの酷い奴だよ。

……一旦落ち着こう、今この場で自己嫌悪するべきでは無い。
今は、しっかりとロアの話を聞くんだ。

そしたらだ、ロアが妖しい笑みを浮かべてきた。

「さぁ、どう言う意味だろうね?」

どきっ……。
髪をかけわけながら言ったロアのその言葉を聞いた瞬間、俺の心が強く揺らいだ。

なっなんだ、今の……。
目の前にいるのはロアなのに、ナハトと完全に重なった。
あの笑み、その言葉の言い回しが……ナハトの喋り方そのものだ。

「まぁそれは、この世界の何処かにいるナハトも分かっている事じゃろうな」
「……」

くふふふ、と笑うロア。
俺は困惑した。
ロアとナハトは似てる所が多い、綺麗な褐色肌、艶のある髪、顔、雰囲気……いや、ちょっと待て。

今思ったんだが……似てる所が多い所じゃないんじゃないか? 似てない所は喋り方と人間じゃないだけ。

それを抜きにしても……こんなに容姿が一致してる奴がいるなんて……有り得なくないか? そっくりさんって事もあるだろうが……いや、それはない。

何故ならナハトは人間だ、そしてロアは魔族、しかも魔王と来た。
この時点で別人に決まってるんだが、俺の脳内ではある1つの結論が浮かんでいた。

その結論は、ロアとナハトは同一人物じゃないか? と言う事……。

…………。
いやいや、何を考えているんだ、普通に考えてそんな事は有り得ない。

だっだが、1度そう思ってしまったら……確認せずにはいられなくなってしまった。

「ろっロア!」
「うぉっびっくりしたぁっ、なっなんじゃいきなり!」
「わっ悪い、えと……聞きたい事が出来たんだ」

その言葉を聞くと、ロアは、かくっと首を横に傾ける。

「なんじゃ? なんか知らぬが真剣な顔をして……なんか恐いのぅ」
「……」

恐い、か。
俺もこれを聞くのは、恐いよ。
だが聞く、今そう決めた。

だから、俺は意を決してこの言葉を話す事にした。
よしっ、言うぞ……あの結論が出た時、固く閉じていた口を開いて、俺はロアに言い放った。

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