どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

205

時間が止まった感覚が訪れる。
周りの景色はロアしか見えなくて、聞こえる音も、ロアの吐息と自分の心音しか聞こえない。

静かな雰囲気の喫茶店の一角だけが、妙に熱く恥ずかしい雰囲気に包まれていた。
ささる周りの視線に気付かない俺は、高鳴る心臓のせいで何も考えられなくなっていた。

あっ……えっ、こっこれは……その、あの、どっどうなって……え?

考える事は、意味不明な事ばかり。
早くこの体制を直す、と言う簡単な事が考えられなくなっていた。

ロアの方は、顔を真っ赤し、唇を震わせ、うるっとした目で俺を見つめている。
その時、サラッとした紫の髪の毛がソファから、さらっ……と垂れた。

その落ちる様が美しく写ってしまった。
そう言えば、ロアの髪の毛は綺麗だ、それはちゃんと手入れしている証拠だろう。

あっ……ロアは何か言いたげに口を開けている。
俺を見ては視線を反らすを繰り返してる。

……。
くっ、なっなんなんだ、かっ可愛い、物凄く可愛い。
なんなんだ、今のロアは! 変な気持ちが込み上げてくるっ。

おっ落ち着け、落ち着くんだ……俺!
焦りまくる俺の頬に一筋の汗が伝う。

……それが、ぽたりっと床に落ちた時だった。

「おっお客様? なっ何をしているのですか?」
「うわぁっ!?」
「うぎゃぁぁっ!?」

店員が話し掛けてきた。
俺は、今の体制から跳び跳ねる様に、きちんとソファに座る。
ロアも俺と同じように座る。

「いや、ははは……その、色々と……その、バランスを崩して、その、はい」
「え? はっはぁ……」

キョトンとした店員に苦笑いしながら頭をかきむしる。
くっ……ぐぬぬっ、周りの視線が痛い、さっきからずっと見られて注目されまくりだから今更だが、視線が痛い!

「えっえと、ちゅっ注文決まったから……その、良いか?」
「あっはい、よろしいですよ?」

こっここは、多少変に思われ様が強引に話を変える!

「えっえと、じゃぁ……あっアイスティとチーズケーキ2つずつで頼む」
「かっかしこまりました」

店員は、苦笑しながらもペコリっと頭を下げてさがっていく。
ふぅ……なんとか乗り切れた様だ、いやぁ、焦った。
あの後、ずけずけと何か言われたらどうしようかと思った。

周りの奴等も良く黙っててくれた、お陰でこれ以上気まずい雰囲気にならなくてすんだ。
まぁ、まだ視線は感じるんだけどな……くっ、やっぱりあんなのを見れば見たくもなるよな。

つんつんっ……。

うぉっ、ビックリした。
ロアが俺の横腹を突っついて来た、ばっ! と身体の向きを変えて見てみると……ロアが顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。

何か言いたそうに口を小さく開けている。
だっだろうな、そんな顔されるとは思ってたよ、でもな? あれは決してわざとじゃないから見逃して欲しいんだが……ダメか?

と、そんな意味を向けて微笑んでみると……。

「何を笑っておる?」
「あっはい、すみません……」

テーブルをドンッ! と叩いて怒ってきた。
こっ恐い、背筋がピンっとなってしまった。

「シルクよ」
「なっなんですか?」

無意識に敬語になってしまった、普段なら軽い口調で喋るのにな……。
だが今のロアは恐い、こんなロアを見たのは初めてだからな、萎縮してるんだろう。

「あっあれはどう言う事じゃ?」

あっ……下を向いたな。
確実にさっきの事を思い出してるんだろう。
こっここは、正直に言った方が良いだろう、特にやましい気持ちがあったとかではないからな。

あれは、焦った故に起きた事故だ、それ以外の何物でもない。
そう言う風に言ってしまおう。

「えっえと、あれはだな……その、たっ体勢が崩れて……その、あの……押し倒しふべっ」
「はっハッキリ言うでないわっ、ばっばきゃもにょっ!」

ぐっ……グーパンされた。
頬が、めちぃってなった……痛い。
と言うか、本当の事を言ったら大丈夫だと思ったらダメだった。

「もっもう一度聞くぞ? あっあれは、その……どう言う事じゃ?」

ロアは、ふぅ……ふぅ……と獣の様な呼吸をしている、ふっふむ、どう答えたら良いんだろうな。
全く分からない……だったら、少しだけ表現をボカしてみるか? ロアは、ハッキリ言うなって言ったしな、よしっ、そうしよう。

「えと……あれはだな、体勢が崩れて……その、うん、あれだよ……うん」

……と思ったのだが、ダメだ‼良い感じにボカす言葉が思い付かない。
どうする? 何て言えば良い? 試行錯誤しながら、髪の毛を弄ると、ロアは怒った顔から徐々に申し訳なさそうな顔に変わっていく。

「あ、えと……その、すまぬ、なんか困らせてる見たい……じゃの、すまぬ」
「あっあぁ、困ってる」

……なっなんか知らんが謝ってきた。
でもそのお陰で、少し落ち着いた。

「そっそうか」
「そっそうだ」

ロアは、ふぅ……とため息を吐き、そっぽをむいてしまう。
その後、黙ってしまった。

あっあれ? なんか気まずくなってる? なっなんか喋らないと、この空気に耐えられないんだが?
俺……その空気の性で変な汗をかいてるんだが。

「なっなぁ、ロア」
「………」

耐えきれなくなって、話し掛けて見るが、ロアは何も喋らず下を向いている。

おっおい、頼むから無言は止めてくれ。
取り合えず何か喋ってくれ!

そんな俺の思いも虚しく、ロアは黙ったままだった。

どうやら気まずい時間は暫く続くみたいだ。
と言うかこれ……元の調子に戻すの、暫く不可能じゃないか? そう思う俺は……どうしようも無いと悟り、じっと頼んだ品を待つのであった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品