どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

190

ヴァームのド怒り事件から数日経ったある日の昼前、俺はラキュと城の廊下を歩いてた、空は晴れてて少し涼しい、夏の暑さはどこへやらって感じだな。

「あぁ面倒くさい……なんで犯人探しをしなくちゃいけないんだ」
「そうだよね、盗まれたのはヴァームが作った服なんだから自分で探せば良いのに」

と、こう言う風に文句を良いながら歩いていく。
理由はあれだ、ヴァームに遠回しに「犯人を探せ」と言われたからだ。
別に探さなくてもいいんだが、多分探さないと後が怖い、きっと怖い、絶対恐い。

だから嫌々探してる。
はぁ、NOと言える人になりたいものだ。
あぁ因みに、廊下に掛かってた謎魔法は解かれている。
お陰で2本の足で廊下を歩んでいる、やはり歩くって素晴らしいと思う。

「ねぇ姉上は?」
「寝てる」
「そう、アヤネは?」
「寝てる」
「……」

今は朝、起きなきゃいけない時間なんだけどな、朝が弱いあの2人は寝ている。
それを聞いたラキュは若干眉をピクつかせる。

「あの2人にも探す様に言われてたのにね」
「そうだな、だがあの2人は多分」
「多分?」
「ヴァームに叩き起こされるんじゃないか?」

今のヴァームならやりそうだ。
恐らく「寝てる暇はありません、起きて犯人を探してください」とか言って2人を起こすだろう。

で、俺がいない事に気付いた2人は慌て、俺を探す為に廊下を走り回るだろう。
そして俺を見付けて飛び付いてくるに違いない。

「えと、シルク君? いきなり疲れた表情になってるけど、大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ、ちょっと考え事をしてただけだ」

そう言って軽く笑っておく。
はぁ、2人はもう少し距離をとって欲しいんだけどな……俺の身が持たないんだよなぁ、 と、少し不満を心の中で言っていく。

「ふぅん、そう……」

ラキュはそう言った後、立ち止まった。
ん、どうしたんだ? 気になって俺も立ち止まる。

「姉上とアヤネの事考えてた?」
「……ノーコメント」
「くふふふ、その表情は図星って事だね」

悪戯な笑み、くそっ、からかわれてしまった。
ほんとラキュは好きだよな、からかうのが、こんな時は素っ気ない態度を取るのが一番だ。

「くふふ、もぅ、そんな顔しないでよ、悪かったよ」
「悪いと思ってるなら直してくれ」
「善処するよ」

絶対にしないだろうな。
だって、にやにやしてるからな、心の中では「こんな面白い事放っておけるか」とか思ってるに違いない。

……というか、たまには仕返ししてもいいんじゃないか? ラキュにはからかわれて少し酷い目にあった事もあるし。

「ん? どうしたの、急に難しい顔して」
「いや、なんでもない」

おっと、悟られる所だった。
バレないようにしないとダメだ、と身構えてもからかうネタが無い。
……ふむ、隙がないな、やはり人をからかうのが好きな奴は簡単に弱味を出さないのか。

いや、ラキュにも弱味がある。
それはズバリ猫だ、猫を見ると騒ぐ慌てる叫ぶ、だから猫が側にいると普段とは違ったラキュを見れる。
だがしかしだ、これは、からかうネタとしては弱い気がする。
きっと「そうだけど、それが何か問題でもあるのかな?」とかあしらわれる、で、またからかわれてしまうだろう。

「……っ!」

ラキュに悟られない様にネタを考えていたら、ふと、ある事を思い出した。
あった、あれならラキュの慌てる表情か見れるかも知れない。

よし、ならばこれをネタにラキュをからかおう。
だが、がっついてはダメだ、さりげなーく言おう。

「なぁ」
「なに、なんか企んでる顔してるけど……何言うつもり?」

……疑われた、俺ってそんな顔してたか? 隠し事は苦手らしいな、だが、適当にはぐらかせば大丈夫だろう。

「いや、気のせいだろう」
「……まぁ、そう言う事にしといてあげるよ、で? 話ってなんなの?」

くすりっ、と笑った後、ラキュは両手を後頭部に当てる。
うわ、これ絶対に見透かされてるな、分かってて言ってる……くそっ、余裕ぶった顔しやがって、その余裕に満ちた顔、凍り付かせてやる。

「アヤネとはどうなったんだ?」
「……アヤネ? なんで?」
「アヤネが来る前、どんな奴かを聞いただろ? そしたら好みだとか言ってたからさ……気になったんだ」

それを聞き終わるとラキュは立ち止まった、なので俺も立ち止まる、そしたら何か目を細めて睨んできた。

え? なに? 俺なんか言ったか?

「……そう言えば、そんな事言ったね、あれはその場の雰囲気で言ったんだよ、実際に会ったら冷静になって少し話しただけ、好みのタイプだけど、好意とかは無いよ、今はね」

ふっふむ、なるほど……なぜ睨んでくるのかは分からないがラキュの言う事は分かった。

「と言うか、それ、シルク君が言うんだね」
「え?」
「アヤネが可哀想だよ」
「え?」

おっおぉ、なんか良くわからんが……睨みが強くなった気がする。
なぜだ?

「まっ、今はその話しは置いとくよ」

はぁ、とため息を吐いて、ぶらんっと手を下ろす。
少し微笑んだ後、またラキュは話始める。

「実はさ、肝試しの時に……と、これ勝手に言ったら怒られるか、今のは忘れて」
「え、いや、めっちゃ気になるんだが?」

笑顔で誤魔化せないからな? そこまで言ったら気になって仕方ない。
だが、問い詰めてもラキュは言わないだろう、だから我慢しよう。

「シルク君」
「ん?」

そう決心したら呼ばれた。
何だろうか?

「アヤネは頑張り屋だからさ、今度会ったら頭でも撫でてあげなよ」
「いや、いきなり何を言ってるんだ?」

訳が分からない、確かにアヤネは色んな事を頑張る人ではある。
だが、なぜ頭を撫でなきゃいけない?

「ね? お願い」

っ、ラキュが手を合わせてお願いした……だと? その様子に驚いて目を見開く。
なっなんか得たいの知れない感じがする、ゾワゾワしてきた……。

って、失礼だぞ俺、ラキュだって、手を合わせてのお願い位するだろう。

「まっまぁ、その……少しだけならしてやるが」
「うん、それで良いよ」

にこっと微笑んだラキュは歩き始める、そして背を向けたまま呟く。

「これくらいなら姉上も怒らない……よね?」

ん? 良く聞こえなかった……なんて言ったんだ? 良く分からないが、問い質して聞く事でも無いだろう。

「シルク君、そろそろご飯食べにいこっか」
「あっあぁそうだな」

俺の方を振り向いて話し掛けて来た。
そう言えば、腹が減った……朝食を食べてから犯人を探し詰めだったからな、仕方無いだろう。
と言う訳で、俺とラキュは食堂へと向かった。

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