どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

188

「実はわらわは服を盗まざるを得なかったんじゃ!」

ロアの話は始まりから凄かった。
そうか、盗まざるを得なかったのか、なるほど……一応突っ込ませて貰おう、それどんな状況だ?

「あらあら、ふざけた事をいいますねぇ、それはどんな状況なんですか?」

俺と同じ事を思ったヴァームはニコニコしながら問い質す、そろそろ威圧を止めてやれよ……。

「そっそのな……実に奇妙な事なんじゃが」

正座状態のロアはお尻をモゴモゴ動かしながら話していく、それは事件が起きる前に遡ると言う……。



どうもわらわじゃ、何やら海に帰って来て早々盗難事件が発生し、被害者のヴァームが決死の大捜索を行って大変そうじゃ。
なので今ヴァームに近付くと服を盗んだ犯人を一緒に探せとか言われ手伝わされてしまう、なのでわらわはヴァームの気配に注意しながら廊下をテクテクあるいておる。

「くふふふ、ヴァームの奴、部屋に鍵を掛けんから大切な物を盗まれるのじゃ」

暫し散歩した後シルクがいるであろうわらわの部屋に行って、ぬっとりぬっちゃりスキンシップするのじゃ、ぐふふふふ……。

と、そんな感じで色々考えつつ笑うわらわ。
あぁ、今ここでそんな事考えたらニヤケ過ぎて困ってしまうのぅ。

「取り合えず部屋に入ったと同時に胸に飛び込んで見よう、その後は押し倒してキスする! そして今回は服を脱がして舐めるまでやってみるのじゃ!」

まさに完璧、と言うか何故今までやらなかったか疑問に思う程の計画を思い付いてしまったのじゃ。
よし、そうと決まれば素早く部屋に向かうのじゃ!

ダダダァって走るわらわ、もう廊下に魔法は掛かっておらぬが走る。
ん? 魔法ってなんの事だじゃと? 忘れたのかえ? 時速時速80キロで走らないと迷い続ける魔法の事じゃよ。

解いたのはシルクが「逃げない」っていったからの、解いておいたのじゃ。
くふふふ、あれを言われた時は嬉しかったのぅ、色々と期待してしまうのじゃ。

「くふふふふ……んう?」

と、嬉しさで頭が一杯の時に不自然な物が目に映ってしまった。
それ即ち半開きのドア……ふむ、なんとも不用心な、盗難事件が起きたと言うのにドアも閉めんとは、部屋の主にはガツンっと言ってやらないとダメじゃな。

それがわらわの部屋だったら……まぁそこは追々気を付ける事にするのじゃ。

と、そんな事はおいといて……今の問題はあれじゃよな。

「怪しい……」

誰がどうみても怪しい、あんなもの見たら調べずにはいられないのじゃ。
という訳で調べてみる、小走りでそこに向かってみる、扉には『衣装部屋』と掛かれておった。
と言うことはここはヴァームの衣装が置いてある部屋と言う事になる。

「服を盗まれたと言うのに、学習しない奴じゃな」

はぁ……、盗まれたら盗まれたで戸締まりをしっかりするとか、防犯を強化するとかあるじゃろうに。
それを見直さずに鍵の閉め忘れ、挙げ句の果てには扉の閉め忘れ、これではまた盗まれてしまう。

「仕方ない、わらわが戸締まりをするか……と、その前に部屋の中が気になってしまった」

これはあれじゃ、生き物故の心理じゃ、山があったら昇る、怪しげなスイッチがあったら取り合えず押す、好きな人が目の前にいればキスする、それとおんなじじゃ。
と言う訳で扉を開けて中に入る、そして閉める。

ふむ、クローデットが沢山あるのぅ、中にはさど可愛らしい服があるのじゃろうな、今度そのどれかをシルクに着てもらおう。

てくてくーー
ゆっくりとヴァームの衣装部屋を歩く。
ここの景色は一枚の窓と沢山のクローデットだけじゃ、半開きのドアを見て、つい中が気になってしまったが……なんにもないのぅ、期待して損した。

「じゃ、さっさと出るのじゃ………ん?」

帰る事を決意して入り口の方に振り替えると、キィィ……と音がなった。
何かが軋む音、そんな音が聞こえた。

当然、気になったわらわは音の元へ近付いていく。
確かこの辺で聞こえた……っ! このクローデット、扉が半開きじゃ!

「ヴァームの奴、流石に警戒心無さ過ぎじゃ」

これは会ったら説教せねばならんな、ガツンっと一発いってやるのじゃ。

「むぅ……」

とか考えつつクローデットを見る。
半開き……また中が気になってしまった、何も無いと思うが見てしまおう、このクローデットの中にはどんな衣装が入ってるのか気になるしの。

「では、開くのじゃ」

そう言った後、取っ手を持ってガチャンっと開ける……そしたらわらわは驚いた。

「っ! なっ……なっなんじゃこりゃぁぁ!」

驚きのあまり尻餅をついてしまった。
こっこれは、こっこれはぁ……このクローデットの中、ふっ服が、服が……グッチャグチャじゃ! 整理整頓されずに詰め込まれておる!

「あっあわわわっ」

わらわは戸惑った。
服を作るヴァームがクローデットに服を入れる時こんな入れ方はしない、何故ならヴァームは服を作る事に命を掛けておる! その服をこんな粗末に扱うなんてする筈がない。
つっつまり、この服の収納をやったのはヴァーム以外の誰かと言う事になる!
そう考えると戸締まりされてなかったのも頷ける。
良く良く考えてみればヴァームはこの部屋には厳重に鍵を掛ける……それは城に住む者なら誰もが知っている事じゃ。

「まっまずい、こんなのヴァームに見付かったら……八つ当たりだけでは済まぬ!」

そう言う訳でわらわは戸惑っている。
おっ落ち着くのじゃ、わらわでも服の整理は出来る、ここはわらわがささっと整理してしまえば何の問題もない。

くっくふふふ、天才的発想じゃ、天才過ぎて自分が恐いのぅ。

「くふふふふ……ぅがぁっ!」

格好良く笑っていると、ある事に気が付いて変な声が出てしまう。
あっあぁぁ……あぁっ! グッチャグチャに放置された服の一番上、それはシルクがここに連れて来た時に着ていた服、それをヴァームが女性物に仕立てた服なのじゃが……それが盛大に汚れておった。
何かのソースの汚れがベットリとついとおる、それどころかスカート部分が少し破れておった。

その時、わらわは最悪を想定してしまう。
これをヴァームが見たらこの星が滅んでしまう……と。
顔が真っ青になったわらわは直ぐにその服を手に持ちクローデットの扉をバタァーンッと閉めてさっさと部屋から出ていく。
そこからは何気無い感じを装いシルク達と過ごした……ヴァームよ、どうか見逃してくれますように。
そして一生あのクローデットを開けてくれません様に。

よっよしっこうなったら、この事は忘れてしまおう、ズバリ現実逃避じゃっ!
見ていない、わらわは何も見ていない、見ていないったら見ていないぃぃっ!

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