どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

181

「ふっそうか、貴女はブレイブ家の者か、中々の有名人に出会ってしまったな、これも風の導きか」
「違いますよぉ、ただの偶然ですぅ」

にこにこ笑うシズハはケールの胸部分を撫でる、そしたら気持ち良さそうにクルクル唸る。

「だがあれだな、良く首が3つある犬に恐れずに近付けるな、しかも既になつかせてるではないか」
「あぁそうですねぇ、首が3つあるわんちゃんって珍しくて可愛いですぅ、ふふふぅ」

この2人、なんか変だ。
普通、首が3つある犬を見たら驚く。

「聞いても言いかな?」
「良いですよぉ」
「貴女はなぜここに? おれは風の導きでここに来た」
「あぁ、えとぉ……んー……アヤネちゃんをね、探してたのぉ」
「アヤネ、ふむ、さっきも聞いた名だがその娘は何者だい? おっと、初対面でぐいぐい聞きすぎだな、悪いね」
「いえいえ、良いですよぉ」

ふふふぅ、とシズハが笑うと神の息吹もつられて笑う、突っ込みがいないから少し妙な事を言ってもまとまらない会話が続く。
そんな事、気にもとめないシズハは話していく。

「えとですねぇ、アヤネは私とふぅちゃんの娘なんです」
「なんとっ、娘がいるのか、おれにも息子がいるぜ、飛びっきり可愛いのがな」
「可愛い息子さんですかぁ、男の娘さんですねぇ、羨ましいですぅ」

誰かシルクを呼んでこい、じゃないと、どんどん話が可笑しくなっていく。

「話を戻しますねぇ、そのアヤネちゃんがですねぇ、家出したんですよぉ」
「ほぉ、穏やかじゃない話だな」
「そうなんですぅ、もう長い間会えなくて寂しいんですぅ」

え、そこ? そこですか……ずれてる、考えがずれているぞ、普通はもっと別の想いを抱くものだろうに。

「だから探しに来たんですよぉ、ここに辿り着いたのは勘ですよ勘」
「なるほど……勘か、その勘当たると良いな」

ニヒルに笑う神の息吹はシズハにウインクする、別にここで格好つけなくてもいいのに、どごどのイケメンドラゴンとキャラが被るから止めてほしい。

「そうですねぇ、当たってほしいですぅ」

そう言った後、シズハは俯く。
実はその勘、当たっているんだが今はアヤネはここにはいない、帰ってくるのはロアが海に飽きる頃だろう。

「あっ、それでですねぇ」

その時だ、突然思い出したかの様に顔を上げてぽむっと手を叩く、そして今は誰もいない城を指差す。

「このお城の中にアヤネちゃんがいそうなんです、でもぉ……留守みたいで扉が開かないんです」
「それは不運だな」
「そうなんですぅ、不運なんですぅ」

はぁ……、ため息をつくシズハは再びケールを撫で回す。

「わんちゃん」
「わぅ?」
「アヤネちゃん、ここに来てませんか?」
「ばうわうっ」
「え、いるけど今はいないですか?」
「わんわぅっ」

凄い、会話している。
その様子を見て、神の息吹も拍手している。

「……すまないが、そろそろおれは行くよ、一緒に探してあげたいが風が己を呼んでいるんだ」
「あっ、気にしないでくださぁい、風さんによろしくでぇす」

カウボーイハットを深く被り直し颯爽と立ち去って行く、それを見たシズハは、ぶんぶん腕を振るってお見送り。
風さんによろしく……か、多分意味合い絶対に間違っている。

「……さて、これからどうしましょうかぁ、ここまで来てお金は無くなっちゃいましたぁ」

懐に手をいれて財布を取り出す、中を見るとお金がない……。
まさか帰る時の事を考えてなかったのか?

「あぁっ、良いこと思い付きましたぁ、このお城に泊まりましょうっ」

おっおぉ、なんでその考えに行き着いたか知らないが……中々にぶっとんだ考えだ。

「ふふふふぅ、不法侵入じゃありませんよぉ、わんちゃんにちゃんと許可を取りますよぉ」
「わっわぅ……ばぅばうっ」

いや、その理屈は可笑しい。
と、突っ込む人はいない……ケールは「だめ」と言わんばかりに首を横に振るう。
が、しかし「意地悪言っちゃダメですよぉ」と言ってまた撫で回す、それを長時間繰り返しケールは……お腹を向けた、つまり屈服したのだ。

「わっわふんっ……」
「ふふふふぅ、よぉし、じゃ侵入……じゃなくてお邪魔しちゃいますよぉ、ちゃんと綺麗に過ごすので許して下さいねぇ」

そう言ってシズハは城の入り口前に立ち拳を振りかざす。

「えぇい」

なんとも気の抜けた掛け声で扉に向かってパンチする。
バキィンッーー
その結果、扉が壊れた……それを放置してシズハは「お邪魔しまぁす」と言って城の中に入っていく。

勿論、ロア達はこの事は全く知らない。
後に起きる出来事も……勿論知るよしも無かった。

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