どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

171

好きなタイプは残念で強い女性、僕はアヤネにそう言った。

「らっ君」
「なに?」

睨みを効かせながら横腹を肘でげしげし小突いて来る、くすぐったいからやめてほしい……。

「それ、バカにしてるでしょ……」
「いやいや、バカにしてないよ」

流石にこの場で嘘は言わないよ、だから信じてもらうように笑ってみる。
だけどアヤネは信じてくれない、むすっとした顔で僕を睨んでくる。

「ほんとだって、僕はしっかりした人より残念な人の方が好きなんだ」
「本当に?」
「そうだよ、さっきからそう言ってるじゃないか」

まだ睨んでくるね、そんなに信用ないかな? と思っていると、アヤネがぷくっと頬を膨らます。

「それ、私と違う」
「ん?」

違う? なんの事だろう?

「強いのは違わないけど……私、残念な娘じゃない」

あぁなるほどね……それで睨んでるんだね、納得したよ。
そりゃそうだよね、自分の事を残念だって言われれば怒るよね。

「くふふ、そうだね……アヤネは残念と言うよりアホの娘だね」
「私はアホじゃない」

べちっ! グーパンチされた、痛い……そんなに怒らなくえもいいのに、僕は褒めてるんだけどなぁ、でもここはアヤネに合わせて謝っておこうか。

「……そうだね、アヤネはアホじゃないね」
「本当に思ってる? 今、変な間があった」

しまった、本音を隠すのを忘れてた……誤魔化そう。

「気のせいじゃないかな?」
「………」

にこやかに笑ってみるけどアヤネには響かないのか黙ったまま睨みを効かせている。

「今は見逃してあげる、帰ったらとっちめてやる」

あっ、諦めた……のかな? 助かったよ。

「帰った後も見逃して欲しいんだけど……」
「それはダメ」

指でばってんを作って見せ付けて来る……根に持つなぁ。
アホなのは良く言えば素直って意味で僕は好きなんだけどなぁ……あっ、初めからそう言えば良かったのかな?
……まぁ良いかな? そう言う事言うのって性に合わないしね。

まぁそれはさておき、僕はアヤネに何をされるのかな? 酷い事はしないだろうけど……とても気になるね。

「という事でらっ君、帰ったら……甘い物を奢って」
「……わっ分かった、約束するよ」

僕が苦笑しながら応えるとアヤネは微笑んだ。
うん、正直言って大した事なかった。
アヤネはとっちめるって言葉を調べた方が良いかも知れないね……。

「ん、約束だよ? 忘れたら殴る」
「うん、約束しようか……」

まっ良いか……そう言うのがアヤネって感じがするし。
そう思いながら壁に持たれ掛かる。

アヤネと一緒にいて大分時間が経った……まだ助けがこない。
同じ事を思ったのかアヤネは、じぃ……と海の方を見つめる。

「ねぇ、らっ君……私、気付いた事がある」

そしたら急に僕を見て話し掛けてきた。

「え? 気付いた事ってなに?」

やけに目が輝いてるアヤネ、なんか……気味が悪い、また変な事を言うのかな? これ以上恥ずかしい事言いたくないから言葉には気を付けて欲しいんだけど……まぁ願うだけ無駄だよね。

「この状況……」

ぐっ! と僕との距離をつめて言い寄って来る。
これ以上はキスしてしまう距離なのでアヤネのおでこを持って押し退ける。

「クローゼットの時と同じだ!」
「……クローゼット?」

ビックリした、何かとんでも無い事を言われるって思ったんだけど……そんな事はなかった。

「むっ……また分かってない顔してる」
「ごめんね、全然思い付かないんだ……」

だって、クローゼットって言われて思い付く事は…………っ! あった、あったじゃないか。

「あれだよ、らっ君……私を街案内した時」
「うん、分かった……その時の話だよね?」

思い出した瞬間顔が真っ赤になってしまう、確かアヤネが言ってるのはクーに謝りに行って数週間程経った時、僕がシルク君と姉上を2人きりにしよう、そう思ってアヤネをありとあらゆる理屈を並べて魔王城下町を案内した時の話だ。

「そう、あの時私がシルクとロアが2人きりだと気付いてらっ君に頼んで急いで帰って貰った」

そうだね、その頃は確か……そう、喫茶店が立ち並んでる所を案内してた時だね。

そしたらアヤネが言ったんだよ「シルクが危ない」って……僕に必死な形相で言い寄ってきたから断れなかった……で、女性にあんなに言い寄られたのは初めてだから僕らしくもなく慌ててワープしてしまった……その結果、転移先が変な所になってしまったんだよね……。

その転移先がクローゼットだね、アヤネはその事を言ってる。

「でもさ……あの時とこの状況は違いすぎるんじゃない?」
「そうだけど……2人きりなのは同じ」
「そう……だね」

ぐぐぐっ……。
認めろ! と言わんばかりに顔を近付けてくる、だから必死で押し退ける。
アヤネ、シルク君が好きなら他の男にこう言う事しない方が良いと思うよ?

「そう言えばあの時のらっ君……慌ててたね」
「そっ! それはアヤネの息づかいが……何でもない」
「あっ……らっ君が慌てた、ふふふっ」

くっ……調子に乗ってるね、ここで形勢逆転したいけどまた変にこじれて押し倒すって形になるのは嫌だから……耐えよう、この精神的なダメージはシルク君と姉上をからかう事で発散しよう。

「ねぇ……私がどうしたの?」
「どうもしない、そろそろ離れたら? この状況で助けが来たら変に誤解されるよ」

いやらしく笑うアヤネに言ってあげるけど退かない……なんで退かないのさ。

「あぁ……らっ君も男の子だから女の子と狭い所で一緒にいたから興奮した?」
「……してないよ」

不意にあの時の事を思い出してしまう。
狭く暗いクローゼットの中、扉を開けてこっそりシルク君と姉上の様子を見るアヤネは小さな息づかいをしていた。

少なくともその時の僕は……可愛い、そう思ってしまった。
熱の籠る密室……密室と言うのは違ってるけど、その場でのアヤネの肌は少し火照ってて……なんと言うか、その……っ!

これ以上はいけない! 考えてる事を振り払うかのように顔を振るう。

「でもね、らっ君」
「なっなにさ……これ以上変な事言ったら……」
「私、好きな人はシルクだから……私で変な想像したらダメぃたぁっ!!」

べちんっ!
思いっきりデコピンしてやった、そしたらアヤネは後退りした後オデコを押さえる。

「……ふんっ」

アヤネから視線を反らし海を見る。
その時、そこから変な音が響いてくる……なんだろう、こんな状況で助けが来たの? えっ、なにそれ助かるけど超困る……。

けど、そんな事は言ってられないよね? 助けに来てくれたのなら喜ぼうじゃないか。

ヒタッ……ヒタッ……。
まるでびしょ濡れた人が歩いた時の様な音、そんな音が響いてる、取り合えず声を掛けておこうか……。

「おーい、僕とアヤネはここだよ」

手を振りながら言ったら人影らしき物が見えて「誰か……いますの?」と聞き慣れた声が聞こえてきた。

ヒタッ……ヒタッ……。
またこの音が鳴ってくる、確実に近付いてきてる、と言うか僕は気付いた。
この声、この口調……来たのは……あいつ以外ありえないね、そう確信して数秒後、姿を現した。

「……あら? 誰かと思えばラキュ様とアヤネさん、どうしてこんな所にいますの?」

現れたのはラムだった、暗闇にきらきらと小さく光る液体の身体、ぷるんぷるんと身体を震わして首を傾げる。

「それはこっちの台詞……と、今はそんな事は置いといて……ラム、実は……」

色々言いたい事はあったけど取り合えず今は置いて置こう……。
今の状況をラムに伝えた僕、そしたら驚いた様子で「そっそんな事がありましたの?」と言った後、体内がゴポッ……と泡立った、なに想像したのさ……。

「大変でしたわね、ですがあたしが来たからには安心なさい! ここから出して上げますわ」
「頼もしい限りだね、お願いするよ」

そう言った後、僕はアヤネの方へ向かう。
やれやれ……やっとここから出られるのか。


ザザァン……。
海の側まで近寄ったラムは斜め上を向く。

「ラムちゃん……冷たくて気持ちいい」
「ねぇ、ラム……これ以外方法無いの?」

状況は一変した、突然何言ってるか分かんないと思うけど……とにかく状況が一変したんだ。

「文句は受け付けませんわっ、いきっますっわっよぉぉ!」

まぁ……簡単に言うと僕とアヤネはラムの身体に取り込まれてる、と言っても捕食とかそう言うのじゃなくて……兎に角ラムの身体に取り込まれてるんだよ。

これはあれだ、スライム族に伝わる移動方法……だね、ジェット噴射だ……。

「ちょっ……」

と待って、言い終わる前にラムは……翔んだ。
「いっきまっすぅぅぅ」と声を上げて……。

そのまま、方向を変える為に噴射を繰り返し灯台の方へと飛んで行く……。
助けてもらって何だけどさ……この助かり方、なんか……嫌だな。

と、なんやかんで僕とアヤネの2人きりの空間は終わった。
あぁ疲れた、正直言って短時間なのにとても濃い時間だったね……。

まっ、助かったから……細かい事は言わないでおこうかな……。

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