どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

15

城下町は青空の下で何時も通り活気に溢れている、現在ロアと城下町を散歩中…ヴァームによって仕立て直おされた服を着る俺をロアは微笑みながら見てくる、くそっ! 俺の女装なんて見ても面白くないだろ! なんで俺に女装させるんだ! と言うかこの服装、自分でも似合ってると思う事に腹が立つ! 目を覚ませ俺! こんなの俺じゃないぞ!

「シルク、あの店の酒は旨いのじゃ! 今度一緒に食べに行くのじゃ! あの店は……」

隣の魔王は元気いっぱいだな…あぁ気が滅入る。

「ん? どうしたのじゃシルク?」
「いや…別に何でもない」
「そうか…」

そう言って周りの景色を見てみる、この城下町は何時も通り沢山の人…いや魔物が賑わっている、今日は石の巨人がいる、確かあれはゴーレムだってロアが言っていた、本当に大きな身体だ…身長3mはあるんじゃないか? 他にも色んな奴がいる、これが魔王城の城下街の光景……これがここの普通の光景だ、一々驚くのは俺だけだ。

「此処は素晴らしい街じゃろ?」

正面に来て顔を覗かせてくるロア、白い歯を見せて子供の様に笑ってくる、ロアの笑顔は何度も見てる、無垢な笑顔をする綺麗な女性…ん? なっなんで綺麗だなんて思うんだ? おっ可笑しいだろ……自分の心の変化に少し戸惑いつつロアの方を向く。

「あぁ、本当に良い街だな、ロアが統治しているとは思えない」
「なっ!」

俺は微笑んでロアの頭を軽く撫でてやる、するとロアの顔が急にぼんっと赤くなる、恥ずかしげに一歩下がりつつ、ぷるぷる震えながら俺にびしっと指を指してきた、若干目が涙ぐんでる様に見える。

「ぶっ無礼もにょっ! それはどう言う意味じゃ!」
「言葉通りだよ」

ん? ロアちゃんと喋れてないな……いつもと違っておどおどしている、どうしたんだ?

「あむっ」
「にゃっ!!」

こんな顔もするんだな……そう思った時だ、いきなり飛び付いて来て右耳を甘く噛まれる、その瞬間俺は変な声が出て全身に鳥肌が立ち、軽く跳ぶ! こっこいつ……やってくれたな! 俺はロアを振り払いロアを睨む、何だよ今のは! はっ恥ずかしい事を街中でするんじゃない! ここはびしっと言ってやらないといけない!

「いっいきなり何をするんだ! 皆見てるんだぞ!」
「それはこっちの台詞じゃ馬鹿者!」

するとロアが目を潤ませながら言い返して来た、ずんずんーーと俺に近寄りぽかぽかと胸を叩き出す。

「あの笑顔は反則じゃろぅ! あっあとあっ頭わしゃわしゃは……そのっきゅっ急すぎるじゃろ!」

俺の胸を叩くのを止め、もじもじと身体をくねらせる、なるほど……さっきのが恥ずかしかったんだな? まぁいきなりやられたら恥ずかしいよな、ははは……。

「お前だっていきなりキスとかするだろ!」

だからと言ってロアが恥ずかしがるのは可笑しいと思う、今までの事を思い出せ! 散々俺に恥ずかしい事をしたんだからな! じとーっーーと睨みを聞かせていたらロアが「うぅぅ」と唸りだし俺に飛び付いて来た。

「わらわがスキンシップするのじゃ! シルクからするのは禁止じゃ!」
「いっいきなり飛び付くな! 降りろっ!」

自分からするのは良くてされるのが駄目なのか……可笑しな奴だ。

「全く…」

ぶつぶつ何かを呟きながら俺から離れるロア…いや、何俺が悪いみたいになってるんだよ! ロアは俺を置いてずんずん前に進む。

「待てよ、俺を迷子にする気か?」

追い掛けて俺はロアの手を掴む、するとロアは身体がびくんっと跳ねる、2回目だな……ロアが恥ずかしそうに睨んで来たのは。

「いっ1度ならず2度までもぉ……」
「そう睨むなよ……俺はこの街を知らないんだ、迷子になりたく無いんだ、まぁ……いきなり手を握ったのは悪かったよ、すまん」

そう言って俺はロアの手を離す。

「っ!」

とその瞬間、ロアは俺の手を直ぐに掴んだ、そして髪の毛を弄り恥ずかしげに口を開く。

「てっ手は…離さんで良いじゃろ」
「……そっそうか」

どきっーー
なんだ? 今、心が揺れた? またロアの事が綺麗だって思った? いっいや! ロアはいつも綺麗だが……って俺は何を考えている! すると目の前に大きな噴水が見えてくる。

「少し休憩するのじゃ」
「あぁ……」

俺とロアは、近くにあったベンチに腰掛ける、多分疲れてるからこんな事を考えるんだろう……少し休憩すれば何時もの俺に戻るだろう、ふと横をみるとロアが横目で俺をチラチラと見てくる、俺の方を向く度にロアの長い髪の毛が揺れ良い匂いがする、綺麗な紫の長髪、柔らかな褐色肌、そして、ちらりと見えるへそ……なっ何みてんだ俺は! こっこんなのいっいつもの俺じゃない! おっおち…落ち着け! ん? いつもの俺ってどんなだっけ?

「シルク……そなたには好きな人がいるのかえ?」

1人でパニックになっている時ロアが突然口を開いた、若干表情は悲しげだ、これは良い機会かもしれない……此処ではっきりと言っておくべきだ、そしたら今のパニックも収まる筈だ。

「あぁ、いるぞ……」

俺ははっきりと言った、そしたらロアの身体がピクッーーと反応する。

「そっそうか……その者はどんな奴か聞いて良いか?」

下を向くロア、その言葉は悲しげに聞こえる、ここで中途半端に答えたらロアの為にならない、俺を愛してくれるのは嬉しいが諦めて貰うしかない、だから俺は語る事にした。

「あぁいいぞ? と言っても実は15歳の時に会って以来、もう会ってないんだ、だから今はどんな風になっているのか分からない、だが初めて会った時のあの娘は褐色肌で大人びていて綺麗な人だったな……!」

と、俺が語り終わった頃、俺はある事に気付く……いや何故気づかなかった? 褐色肌で大人びていて綺麗…ロアと似てないか? いっいや……気のせいだよな? そう思う俺の目の前でロアはにたぁと妖しく笑う。

「くふふふっ……そうかどんな風に成長しているか分からぬか」
「なっ何がそんなに可笑しいんだよ」

さっき悲しんでたのに突然笑顔になった? 何でだ? まっまさか…本人? いや! そっそんな事ある筈ない!

「シルクよ、わらわはそなたを愛してる」
「なんだよいきなり……それは何度も聞いた」

あっ改めて聞くまでもない、なのになぜ今改めて言ったんだ?

「確かに言ったのぅ」
「俺には好きな人がいるんだ……」
「それはさっき聞いたのぅ」

くすくすと笑うロア、何でそんなに笑う? 俺はお前をふったんだぞ? もっとはっきり言わないと分からないのか?

「おっ俺は! 好きな人に愛されたい!そう……思ってる」

いっ言ってて恥ずかしくなる! だけどこれで諦めてくれる……筈だ! って! なっなんでお前が照れてるんだよ! ロアは照れる仕草をして、くすりっーーと微笑む。

「一途なんじゃの……そんなに想われてその者は嬉しいじゃろうな」

からかう様につんつんとーー俺の身体を突っついてくる。

「やっやめろ! と言うかロア、俺はお前をふったのに何で笑っていられるんだよ?」

恥ずかしげに俺はそっぽを向いて言う、つい言ってしまった、だがこれは聞いておくべきだ。

「さぁの……何故じゃろうな?」

とだけ言うと微笑んで黙ってしまう、何だよその言葉は……遊ばれたみたいじゃないか、訳の分からない思いで頭が一杯の俺、どうしてロアは俺を諦めてくれないんだ? そう考えた時だ。

「ちゅ…」

俺の頬に柔らかい感触…ぷるんとして瑞々しい心地良い感触…こっこれは! 慌ててその方向を向くと悪戯っ娘の様に歯を見せて笑っていた、まっまたキスしたのか?

「さて、そろそろ帰るのじゃ」
「あっあぁ……」

普段の俺ならロアにキスされたら何か言ってやるのだが…なっ何故言わなかった?

「……」

今日は変な事が起きすぎてる……城に帰ったらゆっくり休もう、あっ駄目だ! 城に帰ってもロアがいるから休めないじゃないか! どっどうすれば良い? 色々と考え込みつつ立ち上がる、するとロアが腕にしがみついてくる、むにっと柔らかくて大きな胸の感触が当たる、そんな事されたら考える事が出来ない! ぐぬぬ……考える暇も無い!

「もう少し離れろ……歩き難い」

横目で睨みつつロアに言うが、何処吹く風……離れようとしない。

「シルクが格好良すぎるから嫌じゃ」
「なんだよそれ……」

深いため息をつき、俺は魔王城へと帰っていく、さてこのよく分からない思いをどうすべきか……解決するのには時間が掛かりそうだな。


シルクとロアが散歩をしていた頃とある深い森で1人アヤネが食事をしていた。

「あむあむっ、もぐもぐっ、ここはどこ?」

ぴよぴよと小鳥が鳴くなか切り株に腰掛け焚き火で先程軽々狩った猪肉を炙ってかぶりつき、きょろきょろと辺りを見る、時折ポニーテールを弄りつつ心配そうに呟く。

「むしゃむしゃっ、ごくんっ……シルクどこいったの? 心配し過ぎて私は……迷った」

真昼の森…新緑の木々が生い茂る森、まだ危険性は無いものの夜になれば野性動物達がアヤネを襲う事は明らか…まぁ、心配は無いだろう、これでも名の有る剣士の家計なのだから腕は立つはずだ、どうやらシルクに会えるのはまだ先になるかも知れない……。

「もぐもぐっ、ごくんっ……お肉美味しい」

この余裕の見せ方は強者の証…アヤネはもぐもぐと肉を食べた後、焚き火を消して森の奥へと消えていく、シルクの安否を心配するアヤネ、しかし何故であろうか? さほど心配していない様に見えるのは気のせいであろうか?

「シルクぅ……」

小石を持ち上げてみたり。

「おーい…」

木を揺すってみたりと、どう見ても人の探しかたでは無い、もしやどう探せば良いか分かっていないのか? ありえる話かも知れない、クールな顔立ちで「むー……」と唸るアヤネは暫くシルクを探し続けたのであった。

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