どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

140

海の中で入る風呂、それは海の中をくり貫いた様な空間に石で囲った所に湯を沸かした風呂だった。

「なんとも可笑しな風呂だな……」
「そうだね、僕もそう思うよ」

石の床、身体を洗う場所、そして水風呂なんて物もあった、因みに風呂の隣には砂利、そこに珊瑚や岩、そこにヒトデが飾られてあった、その先には薄い茶色の板の壁の仕切り、リヴァイ曰く向こう側にも風呂場があるらしい。
景色は海中、恐らく景色が良い風呂場はここより上は無いだろう。

「引き締まるっ、俺の肉体っ、はっはっはぁっ!」
「うるせぇぞ、イケメンドラゴン」

とか思ったらさっそく水風呂で騒ぎが起きた、ヘッグがそこに立ち大事な所を上手く桶で隠して格好良いポーズを取っている、その横で頭にタオルを乗せたリヴァイが鬱陶うっとうしい奴を見る様な目線をヘッグに向ける、ヘッグのいつもの異様な光景……だが俺はヘッグよりリヴァイの方が驚きだ。
何故ならリヴァイは水風呂に肩まで浸かってるからだ、水風呂は勿論冷たい、隣の湯に浸かった後なら兎も角、リヴァイはそのまま入っている、しかも顔色1つ変えていない、むしろ気持ち良さそうだ……どうかしてる。
その横で鬼騎は鼻唄を楽しみながら眼を瞑って風呂を楽しんでいる、さっき鼻血を出していたのに風呂に入って大丈夫か? まぁ本人に変わった様子は見られないから大丈夫なんだろう、あぁ因みに今俺とラキュは身体を洗っている最中、鏡を良く見て身体の隅隅を洗っていく。
と言うかこうして男だけで風呂に入るのは生まれて初めてだな……さて問題だ、何か可笑しな事は無いだろうか? いつもと違う所に気づいただろうか? そう、おかしいのだ……ここは男湯、本来なら俺がここに来るのは可笑しな事なんだ、いや待て! この言い方だと誤解を招いてしまうな……えと、つまりだ。

「なぁラキュ……」
「なに?」
「ロアは何で俺と一緒に風呂に入らなかったんだ?」

当然の疑問を口にした筈だった、なのにラキュはくすくすと笑いだす、なっ何か変な事を言ったか?

「くふふふ……一緒に入りたかったの?」
「ちっ違う!」

誤解されてしまった……そうじゃない、何時もならこんな事あり得ないのだ。

「ほら何時もだったら……」
「分かってるよ、姉上ならシルク君が泣こうが叫ぼうが問答無用で一緒に入りたがった筈だよね」

そう、いつもならな……だがどうした事か? 今日に限ってそれは無いのだ、海に来たと言うのなら俄然「一緒にはいるのじゃ!」とか言って来そうなのに今日は言ってこない。
不気味だ、物凄く無気味すぎる……いや、嬉しいんだぞ? 今日は普通に入れるぞ! とか思ってる……だけどな、何時もと違う日常を送ると変な気分になるんだ。

「まぁ今は深く考えないでさ……お風呂入ったら? 身体が冷えちゃうよ?」
「そう……だな」

ラキュの言う通りだ、深く疑問は残るが今はこの普通の入浴時間を楽しもう、そう思って俺は湯に浸かる……あぁ、身体の芯から芯まで暖まるぅ、直ぐに肩まで浸かっていい気分になる。
ここで全員の様子を見る事にした。
まずはヘッグとリヴァイ……引き締まった肉体を見せ付ける様にポージングを取るヘッグ、さっきからずっとあんな調子だ。
リヴァイは相変わらず水風呂を楽しんでる……見てるだけで寒くなってくる、と言うかリヴァイも良い身体をしている、細マッチョ……羨ましい、俺なんか平均的だからな……はぁ。

「何ため息ついてるの? どうかしたの?」
「いや……なんでもない」

肩にタオルを掛けてラキュが入ってきた、あっ……ラキュの身体も俺と同じだな、白いし筋肉も差ほど無い……仲間は直ぐ側にいた。

「しぃ坊、何浮かない顔しとるんだ?」
「鬼騎、いや……本当に何もないぞ?」

……知ってはいたが凄まじい筋肉だ、こんなの見たら自分の貧弱な身体が悲しくなってくる、くっ……風呂が暑すぎて汗が出てくる。

「ん? 泣いてるのかしぃ坊」
「泣いてない、ただの汗だ」

手で汗を拭って先程の考えを吹き飛ばす様に顔を横に振った、珍しくゆっくり休めてるんだ、悲しい事を考えるのはよそう、そう決心した俺はリラックスし伸びをする、ラキュと鬼騎は疑問を浮かべたが深くは気にせず俺と同じようにリラックスする。
その時だ、風呂場なのか若干響いた声が仕切りの向こうから聞こえた。

『ヴァーム! メイド服で風呂場に来るとは何を考えているのじゃ!』
『私は素肌を見せたくないのです』

ヴァームがメイド服で風呂場に来たらしい、何でメイド服で来てるんだよ……暑くて仕方ないだろ。

「ヴァームの奴、相変わらず変わってねぇな……」

ちゃぷっーー
手で水を払いながらリヴァイが語る、良く分からないが……リヴァイは何か知っているらしいな。

『それはだめ、お風呂では脱ぐべき』

また声が聞こえた、今度はアヤネだな、当たり前の事をヴァームに言っている、ここで俺は失礼ながらも「珍しい」と口ずさんでしまった。

『そうですっ、あっちゃんの言う通りです、 ヴァっちゃん全部脱いでしまうです!』

メェの声だな、同時に、じゃぶじゃぶーーって音が聞こえるな……風呂を歩いてるのか? ん? 鬼騎が震えているな、顔を真っ赤にして手で鼻を押さえてる、また鼻血が出てきそうなのか?

「あれ? どうしたの鬼騎……もしかしてメェの声を聞いて興奮したの?」
「ばっ! おまっ! ばっ! ばばっばかっ! そんな事あるかぁ!」

ばっしゃぁんーー
湯を思い切りラキュに掛けた後、鬼騎は向こうに行ってしまった。

「くふふふ、相変わらず面白い反応だね」

悪戯な笑みを浮かべたラキュはかかったお湯をタオルで拭き取る、そんな様子に呆れていた時だ、向こう側で進展が起きた。

『ちょっ! みっ皆さん……にじりよらないで下さい! めっ目が怖いですよ?』

……なんか向こう側の光景が眼に写ってしまった、取り囲まれたんだなヴァーム、さど怖い思いをしてるに違いない。

『あっあの……私の裸なんて見てもつまらないですよ?』
『くふふふ、そうとは限らんじゃろ?』

止めるように懇願こんがんするヴァームだがロアは聞き入れてくれない。

『むーちゃん、海でも脱がなかった……だから見せて』
『そうですっ! メェにあんな事させたんですっ、ヴァっちゃんも恥ずかしい思いをするですよ!』

アヤネの言う通りヴァームは水着を着ていなかったな、ずっとメイド服のままだった。

『あっあらあら、聞く耳は無しですか……らっラム! 助けて下さいっ』

おっと、ここでヴァームはラムに助けを呼んだ! さぁ結果はどうだ?

『はふぅ、水風呂気持ちが良いですわぁ』
『とっ溶けてますっ、この役立たず! ドM! スライム!』

聞く限りでは、ラムは水風呂に入って溶けてるらしい……いや、どんな風になってるんだ? 超気になるんだが。

『最早ここまでじゃな、覚悟しろヴァーム!』
『えっ、ろっロア様!? きゃっ! いっいやぁぁぁぁぁっ!!』

ドンガラガッシャーンーー
騒がしい音が聞こえる、『きゃぁぁぁっ』やら『ひやぁぁぁっ』と言った悲鳴も聞こえる、中々に艶っぽい声だ……恥ずかしくなるので俺はあまりこの声を聞かない様にした。
ん? 急に静かになったな、あぁ……3人がかりで脱がされたな。
と思ったら、また声が聞こえた。

『ふむ、ヴァームの胸の正体、知ってはいたが……ここまでとはのぅ』
『私と同じ、仲間』
『にひひひぃっ、貧相なおっぱいです! でも小さいのって羨ましいですぅ……』

脱がされた上に散々言われてるな……今ヴァームは怒りに震えてるに違いない。

ビシッ! バシッ!ドゴッ!ーー

「いだっ!」
「あぅっ!」
「めぎゃぁっ! 何でメェだけグーなんですかぁっ!?」

そして叩いた、メェだけグーパンチだったらしい。

『くっ……屈辱です、うぅぅ』

そして泣いた、ヴァームの泣き声なんて初めて聞いたな。

「……たくっ、無い乳のどこがわりぃんだよ」

リヴァイはそう呟き水風呂から出ていった、なぐさめに行くのか?

「くふふふ……良い夫だね」
「あぁ、そうだな」

素っ気なそうに見えるが本当にヴァームの事を思った行動だろう。

「わしも出るぞ、しぃ坊もシスコンも逆上せるなよ?」
「分かってる」
「脳筋に心配されるまでも無いよ」

バシャッーー
と音を立て、鬼騎は風呂から出ていった、風呂に浸かっているのは俺とラキュ、そして水風呂にヘッグ……相変わらず格好良いポーズをとっている、早く浸かれば良いのに……。

「シルク君はどうする? 僕はもう少し浸かるけど」
「俺ももう少し浸かるよ、久々の安らぎの時間だからな……」

そっか、とラキュは話した後上を見上げた、俺もそこを向いてみると魚が群れを為して泳いでいた……とても綺麗だ、もう少しこの景色を見てから出るとするか、こんな風に休める事なんて珍しいからな……。

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