どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

130

そこは薄暗い部屋、蝋燭ろうそくをカウンターテーブルに置き俺とラキュは丸椅子に並んで座る。

「シルク君、姉上が海に行く計画を経てた性でとんでもない事になりそうだね」
「あぁそうだな……」

お互い両肘をテーブルに置き手を合わせその上に顎を置く……今この瞬間俺とラキュは今後についてを話している最中だ。
ゆらゆらと揺れる炎を見てラキュはため息をこぼしながら俺を見てくる。

「経験上逃げるのは不可能だね」
「あぁそうだな……別の案を考えなければいけない」

そう、それは約束された無情なる答えなのだ、どうせ抵抗してもなんやかんやで流される、いっつもそうなのだ、だからそれを回避するために今話している……これは重要な会議なのだ!

「別の案……やっぱりあれしかないんじゃない?」
「あぁあれしかないな……」

互いに見合わせながら同じ事を思ったらしい……流石は同じ男の娘と言う悩みを持つ者だ。

「向こうに着いた瞬間逃げて隠れる」
「だね」

解決策はこれに限られるだろう……だがしかし、今まで逃げ切る事が出来たのは0回、つまりはあれだ……手詰まりな状態と同じだ。

「「はぁ……」」 

2人同時にため息をすると部屋の明かりが点いた、そこに現れたのは不思議そうな表情をした鬼騎、ゆっくりと俺とラキュに近寄ってくる。

「声がすると思ったらおったんかい……」
「いちゃ悪いの脳筋?」
「いや、悪くはないがな……って誰が脳筋だシスコン!」

おっと喧嘩を初めてしまう前に阻止しないと。

「鬼騎はもう準備出来たのか?」
「ん? あぁ……だいたい出来とるぞ」

力では無理なので話を変える事で喧嘩を止めさせた、ふぅ……成功してよかった、だがもう少し話を続けよう、また喧嘩になったら困るからな。

「そうか、実は何を用意するか分からないんだよな……」

本音を交えて言ってみる、すると鬼騎は腕を組む。

「まぁ……着替えだけで良いだろうな、しぃ坊の場合はそれしか用意出来んし向こうが勝手に用意してるだろう」
「うぐ……確かにそうだな」

フォローをしたら自分が傷付く事になってしまった。

「じゃ僕も準備しようかな」

そう言ってラキュは立ち上がった、ラキュが用意する物……着替えは当たり前だが他に何か持っていくのか? まさか海までトマトを持っていく事なんて無いよな?

「くふふふ……暑さで腐らない様にトマトは管理しないとね」
「やっぱり持っていくんだな……」

そんな俺の呟きに「勿論なよ!」と答える、お前はトマトが無いと生きていけないのか?

「あぁそうだ、海に行くならあれを用意しないとだめだね」

ん? あれ? あれってなんだ? 海に行くなら用意する物……あぁあれか。

「おいシスコン、何の事を言ってる?」
「えー、分からないの?」

……典型的な人を馬鹿にした表情だな、まぁそんな顔を見たら当然。

「あぁ?」

怒る、当たり前だ……でもラキュは直ぐに笑う。

「くふふふっ、そんな怒らないでよ……少しからかっただけじゃないか」
「けっ……」

すっ少しか……俺にはかなりからかってる様に見えたけどな、ピキピキーーと青筋をたてる鬼騎を見ながらラキュは指を鳴らす、するとラキュの手にある物が現れた。

「これだよこれ!」

それを広げて俺と鬼騎に見せてくる、それは迷彩柄の半ズボン、いやこれは。

「水着……だな」
「そっ、シルク君大正解」

水着を持ったまま拍手してくれるラキュ、そんなに誉めなくても誰でも分かるだろう……ん? ラキュって魔界出身なんだよな? なのに水着を知っている……もしかして魔界にも海があるのか? その事は今はいいか、今は水着を見せられた鬼騎の対応が気になる。

「それならわしも持っていくぞ? ごく普通の水着をな」

鬼が普通の水着を着る……変な感じがするのは何故だろう。

「ふーん……、まぁそれはどうでも良いんだよ」

水着を手で丸めて意味深な顔で鬼騎に近付き除き混む。

「ぶっちゃけ気にならないかな?」
「あぁ? なにがだ?」

あっ……今のラキュは悪戯をする時のラキュ、鬼騎は気付いてないようだが教えた方が良いのか? いや止めておこう……変に巻き込まれたら嫌だからな。

「何がって決まってるじゃないか……」
「だから何だって言ってんだろ?」

うっ……険悪な雰囲気だ、くすくすとラキュが笑い鬼騎を煽る、完全に遊んでいる、そんなラキュが口を開いた。

「だぁかぁらぁ……メェがどんな水着持っていくかだよ」
「…………っ!っっ!!」

ラキュ、やってしまったな……純情の鬼騎にえげつない言葉いちげきをぶちこんだ、鬼騎は一気に顔を紅くしてゆっくりと壁まで後退、明らかな動揺を俺とラキュに見せる。

「ばっばばばっばかっ……おまっばか!」
「くふふふ……メェって普段は白衣ばかり着てるから気になるよね?」

ラキュの言葉に激しく反応する鬼騎に構わず壁に近付き手を壁に当てる。

「もしかして今想像してる?」
「っっ! そっそそそっそんな訳……」
「してるよね? だって鬼騎はメェの事が好きだもんね」

別の意味でときめいてしまう壁ドンを見てしまった……どうしよう。

「すっすすすっ……すきっ……好きじゃ……好きとか……そんな……」

あぁ盛大にキョドってるなぁ、悪いが見ていて面白い……今俺は笑いを堪えるのに必死だ、笑えば最悪殺されかねないからな……。

「くふっ……鬼騎って本当に分かりやすいね」
「だっ黙れ!」

ラキュはまだ壁ドンの体勢、もう頭の中がメェの事でいっぱいの鬼騎に容赦の無くラキュが話す。

「君が妄想してるメェの水着姿ってさ……もしかしてビキニ?」
「っ……ぶはっ!」

あっ盛大に反応した……図星か。

「メェって胸が大きいからねぇ、ビキニなんて着けたらそりゃもう……むぐぐ」
「だっ黙らんかい!」

とうとうラキュの口を押さえた鬼騎、その手を退かせ鬼騎から離れていく。

「くふっくふふふ、鬼騎ってさ……ほんっとうに面白い反応するよね?」
「……くっ」

恥ずかしいのでラキュから視線を反らす鬼騎、もうこれ以上からかおう物なら鬼騎はどうにかなってしまう、だから止めてやれよ? と心の中で思う俺……だがラキュは楽しそうな表情である一言を言ってしまう。

「そんなに反応するって事は好きって事だよね? 海に行ったら告白しなよ」
「………………」

さらっと……本当にさらっと言った、無言のまま固まる鬼騎、まるで銅像だ……暫くその場に立ち尽くしたが暫くして歩き始め部屋から出ていく。

数秒後「わぁぁぁぁぁぁ!」と鬼騎の大きい声が響いて来た。
走って逃げたな……哀れなり。

「あぁ楽しかった」
「ほどほどにしとかないと後で酷い目にあうぞ?」
「くふふ……あっても楽しみたいんだよ、分かるでしょ?」

いや分からないからな? ふぅ……お前は良い性格してるよ、カウンターテーブルにべたぁ、ともたれ掛かりため息を吐く、するとそこに誰かが座っていた。

「はっはっはっ……やっと静かになったね」

……驚いた……だが驚いた反応をするのは止めておこう、こいつはこれが当たり前……だから驚かない。

「いつからいたんだよ」
「初めからさっ、イケメンは静かに現れる……それがイケメン鉄の掟!」

びしっと腕をクロスさせ格好良いポーズ、何処ぞの蜥蜴男と同じくヘッグも神出鬼没だな……と言うか、こいつの今の格好……とてつもなく変だ。

「ねぇヘッグ……なんで水着姿なの?」

そんな疑問にラキュが聞いてくれた。

「よくぞ聞いてくれた! 俺も一緒に海に行く……ならば予め見せておこうかな? と思ったのっさ!」

へー……そうか、と薄い反応をしておく、そしてヘッグが着ている水着に注目する、うん……これはあれだ……水泳選手が着てるあれだな。

「ブーメランパンツだな」
「ブーメランパンツだね」
「ダッツライトォッ、その通りさ!」

立ち上がって格好良いポーズを取るヘッグ、まぁ何を着てくれても良いんだが……俺達に先に見せる必要は無いと思う。

「はっはっはっ、さぁ海に行ったら共に泳ごうじゃないか! 何故ならっ、それがっ、イケメンのする事だからさっ!」

イケメンでなくても海に行けば誰でも泳ぐ……今更思った事なんだが、このメンバーと海に行く……俺は波乱しか感じない、この考えは絶対に間違ってないよな?

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