FORSE

巫夏希

「それでなんかさっぱりしてるのか」

二時間後。ヒュロルフタームの清掃と液体の補填、スーツの着替えなどを済ませたサリドは作戦三十分前にしてようやく外に出た。

そこでグラムと出会った、というわけだ。

「ああ。まあいいリラックスにはなったかな」

「そこまで楽観的にいられると、逆にうらやましいよ」

グラムは苦笑いをしながら、サリドに言った。

と同時に。


作戦開始を報せるサイレンが、基地中に鳴り響いた。


「始まったようだな」

「なに冷静にしてんだよ!! またあの和風マニアの暴力上官になんか言われる……」

そこまで言って、グラムの言葉は途絶えた。

不思議に思って、サリドは横を向くと、


そこにはあの和風マニアの暴力上官とやらが立っていた。


「……ちょ」

「誰が、暴力上官、だって?」

彼女は笑って言った。しかし目は笑っていず、戦争たたかいの時のような目であったが。

「……す、すいません……。リーフガットさん……」

謝ったのはグラムでなくサリド。しかも士官階級ではなく彼女の名前、リーフガット・エンパイアーを言って。

「……まあいいわ。さっさと体育館に向かって」

彼女は長い銀髪をたくしあげ、言った。

彼らはそれから逃げるように、走った。

体育館にはサリドやグラムのような軍服を着た大量の兵士がいた。

しかし、実質はこの人間たちの八割以上は戦わない。

戦争といえばヒュロルフターム。というほど、ヒュロルフタームが戦い方に浸透していた。

今まで、生身の兵士で機関銃などを用いてドンパチやっていた。


それをヒュロルフタームが変えた。


なんせヒュロルフタームは高さ50m。人間なんてせいぜい1m後半。これだけで違いが全然わかることだろう。

そして、武器も変わった。

今までは『人間に持ちやすく、軽く、頑丈な』武器であったが、

持つのは人間ではなく、ヒュロルフタームに変わったことにより、武器の幅が広がった。

例えば今までは重量などの制約上一チーム一個までしか所有できなかった移動式コイルガン、これでもステルス戦闘機一機分くらいの重量がある、だったがヒュロルフタームはこれを50個所有して、装備している。それだけで人間とヒュロルフタームの違いが解るだろう。

「だから俺ら兵隊はなんのためにいるんだかなあ……」

グラムはあくびをしながら小さくつぶやいた。

解散して、サリドとグラムは基地の外に出た。

雪は、降ってはいないものの踏むと靴が沈んで隠れるほど積もっている。

「うーっ、寒い」

今はサリドとグラムはあの軍服の上に迷彩柄のジャンパーを着ている。言わずもがな、防寒対策だ。

かれらの右手には小さな機関銃がある。

しかしヒュロルフタームが来てしまえば役には立たない。シロナガスオオクジラにイワシが立ち向かうようなものだ。

故に、ヒュロルフターム“さえ”倒されると、それは負けを意味する。

なぜなら、


今の人間にヒュロルフタームを倒すすべがないから、だ。



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