FORSE
9
サリドはグラムと別れ、雪山を登っていた。
雪道を歩く、というのはとても体力を消費する。
「……疲れる……」たかが研修でやってきた学生には容易ではないことだ。
「でも、やらなきゃやられる……!!」
サリドは歯を食いしばって進む。
「グラムはうまくやってんのかなあ。あっちで失敗したとか言ったらキレるぞ」
そのころ、グラムはどこかで手にいれたオフロードカーを運転していた。
彼は16歳――さしあたって運転免許をとることが出来ない年齢のわけだが。
近年、軍隊全体の若年化が進み、軍用免許に限っては16歳から取得できることが許されている。
「といってもこんな最新型運転したことねぇ……!!」
ガクン、と車体が上下に揺れる。おおよそ崖か砂利道に突入したのだろう。
後ろから追ってくるのは、最新鋭の人型戦闘兵器・ヒュロルフターム。
――では、なかった。
「なんだよ、あれ!! 初耳だぞ!! 社会主義の国にも戦闘兵器がいるだなんて!!」
「グラム・リオールからサリド・マイクロツェフへ!」
グラムは即座に無線機をとり、周波数を合わせ、叫んだ。
『なんだ。グラムか? 今逃げ回ってる最中じゃ……』
「いいからよく聞け!! 俺らが戦っていたのはヒュロルフタームじゃない!! それにうまく似せた人形だ!」
『……なんだと?!』
さすがのサリドもその事実には驚いたようだ。
「嘘じゃねぇ!! あれはダミーだ!! よく考えれば社会主義国を名乗るグラディアに資本主義国の象徴であるヒュロルフタームがあるわけないんだ!」
しばらく、サリドからの返事はなかった。考えているのか、驚いて何も話せないのか。
それに関係なくグラムは続ける。
「いいか。ひとまずあの戦闘兵器にヒュロルフタームほどの装甲があるとは思えねぇ!! ここにある武器でなんとかやってみながら、あの場所に誘き寄せる!! さっきのは最悪な意味、ということでいいな!」
『わかった。死ぬなよ。グラム』
「お前もな。サリド」
そう言って二人は通信を切った。
サリドは通信が切れてからまた雪原を歩き出した。
といっても今は切り立った崖を登っている。
「なんでったって……、登山道がないんだよ……」
サリドはぽつり呟く。よく考えれば当たり前のことだがこの周辺は環境開発技術の実験地帯である。
よって逐次変化する環境により植物は破壊され、残るのは荒地と一部に眠る悪環境に強い植物のみ。
「まあ、当たり前か……」
サリドはそう言いながら崖を登りきった。
そこは、山の、というよりは小高い丘の、頂上。ここから見える風景はすべてが白い。
彼は目でグラムを追う。
やはり、簡単に見つかった。
「あれだな……。最新型のオフロードじゃん。よくあんなの戦場に落ちてたな」
サリドは双眼鏡を取り出し、そのオフロードが走る方角を見た。
「あれが……『敵のヒュロルフターム』か。……グラムの言う通りあれは違う……」
サリドは踵を返し、「さて、俺もあれが定位置にくる前に準備しなきゃな」
笑って、言った。
通信が切れてから、グラム。
「なんだよなんだよ! この車軍用じゃないのかよ!!」
グラムは運転していて横目で車内の装備を見て、愕然とした。
軍用のオフロードカーで迷彩柄であったのに中にあったのはカメラ、マイク、フィルム…………
「……これ、報道機関の車か。ややこしい装備しやがって」
グラムは唾を吐くように言った。
しかし、そんなことはもう関係ない。今更この車を捨てて逃げるだなんて無意味かつ無謀だ。
「とりあえずあるのは護身用のライフルと、手榴弾……、しかも『レイリー・コーポレーション』製じゃないのかよ……。どんだけ弱小なんだ、このパパラッチは」
レイリー・コーポレーション。
世界一の軍事企業で『資本主義国』の軍はすべてその会社の武器を用いている。
「……まさか、社会主義国のパパラッチか? 資本主義国のパパラッチはみんなレイリー御用達の筈だしな。ああ、めんどくさい」
グラムはおもちゃに飽きた子供のような表情で、言った。
「とりあえず……、反抗しときますかね」
そう言ってグラムは手榴弾の信管を抜き、後ろから追ってくるゴーレムに投げつけた。
ドゴォォォォン!! と耳をハンマーで叩かれたような衝撃がグラムを襲う。
「……やっぱゼロ距離からの手榴弾は自殺行為だな!」
爆発の衝撃でグラムの両耳が耳鳴りを起こしている。
「……うぐっ……!!」
不意に、車のバランスが取れなくなる。
人間は耳にある三半規管という半円状の三つの管でからだの平衡をとっている。
それが衝撃を負い、一時的に使えなくなったとしたら?
「うおおおおおお!!」
グラムは叫びながらがむしゃらにハンドルを握り、左やら右やらに回す。
……バランスを取り戻す作戦は見事に失敗し、グラムの運転した車は樹に激突した。
「……畜生……。まさかこんなところで……」
グラムは激突し、見るも無惨な姿と化した『報道機関』の車から抜けでた。
「……こうなりゃ、足で逃げるしかねぇな」
言って、グラムは自身の装備していたアサルトライフルを構える。
「避けろ!! グラム!! 飲み込まれるぞ!!」
そのとき、サリドの声が雪原に響いた。
その声を聞いてグラムは咄嗟に走る。
ゴーレムもグラムを追おうとしたが――
刹那、ゴーレムを覆うように、雪崩がやってきた。
ゴゴゴゴゴ!! とまるで戦車のキャタピラーの音のような轟音で、雪が、その雪によって倒れた樹が、ゴーレムとグラムがいる谷に流れ込む。
「うおおおおおお!!」
叫びながら、グラムは雪崩に飲み込まれないように走る。
ゴーレムはピギャギギゴゴガガ!! とまるで何かの鳴き声を最初は発していたのだが、暫くして、雪に埋もれたのか、その声は聞こえなくなった。
雪崩が収まり。
「助かった……。あれがなくちゃ今頃あのデカブツの餌食だったぜ」
グラムは腰に提げていたウエストポーチから袋を取り出し、そこから“唾液で喉を潤すための乾いたもの”を取り出し、一粒口に入れた。
「まあ、成功した方かな? にしてもほんとにヒュロルフタームじゃないなんてね」
サリドは雪崩の残骸からなにかを取り出す。
「なにそれ?」
「ゴーレムとやら、見た感じ『生物』っぽいんだよね。とりあえず採集しとく」
「大丈夫かよ。もしまた起きたりしたら」
「大丈夫、大丈夫。……さて、これで一つ目の目標は達成だね」
サリドの言葉にグラムはうなずく。
そして、サリドは言った。
「姫様を、救いに行くよ。何も武器を持たない弱腰ナイトの二人でね」
雪道を歩く、というのはとても体力を消費する。
「……疲れる……」たかが研修でやってきた学生には容易ではないことだ。
「でも、やらなきゃやられる……!!」
サリドは歯を食いしばって進む。
「グラムはうまくやってんのかなあ。あっちで失敗したとか言ったらキレるぞ」
そのころ、グラムはどこかで手にいれたオフロードカーを運転していた。
彼は16歳――さしあたって運転免許をとることが出来ない年齢のわけだが。
近年、軍隊全体の若年化が進み、軍用免許に限っては16歳から取得できることが許されている。
「といってもこんな最新型運転したことねぇ……!!」
ガクン、と車体が上下に揺れる。おおよそ崖か砂利道に突入したのだろう。
後ろから追ってくるのは、最新鋭の人型戦闘兵器・ヒュロルフターム。
――では、なかった。
「なんだよ、あれ!! 初耳だぞ!! 社会主義の国にも戦闘兵器がいるだなんて!!」
「グラム・リオールからサリド・マイクロツェフへ!」
グラムは即座に無線機をとり、周波数を合わせ、叫んだ。
『なんだ。グラムか? 今逃げ回ってる最中じゃ……』
「いいからよく聞け!! 俺らが戦っていたのはヒュロルフタームじゃない!! それにうまく似せた人形だ!」
『……なんだと?!』
さすがのサリドもその事実には驚いたようだ。
「嘘じゃねぇ!! あれはダミーだ!! よく考えれば社会主義国を名乗るグラディアに資本主義国の象徴であるヒュロルフタームがあるわけないんだ!」
しばらく、サリドからの返事はなかった。考えているのか、驚いて何も話せないのか。
それに関係なくグラムは続ける。
「いいか。ひとまずあの戦闘兵器にヒュロルフタームほどの装甲があるとは思えねぇ!! ここにある武器でなんとかやってみながら、あの場所に誘き寄せる!! さっきのは最悪な意味、ということでいいな!」
『わかった。死ぬなよ。グラム』
「お前もな。サリド」
そう言って二人は通信を切った。
サリドは通信が切れてからまた雪原を歩き出した。
といっても今は切り立った崖を登っている。
「なんでったって……、登山道がないんだよ……」
サリドはぽつり呟く。よく考えれば当たり前のことだがこの周辺は環境開発技術の実験地帯である。
よって逐次変化する環境により植物は破壊され、残るのは荒地と一部に眠る悪環境に強い植物のみ。
「まあ、当たり前か……」
サリドはそう言いながら崖を登りきった。
そこは、山の、というよりは小高い丘の、頂上。ここから見える風景はすべてが白い。
彼は目でグラムを追う。
やはり、簡単に見つかった。
「あれだな……。最新型のオフロードじゃん。よくあんなの戦場に落ちてたな」
サリドは双眼鏡を取り出し、そのオフロードが走る方角を見た。
「あれが……『敵のヒュロルフターム』か。……グラムの言う通りあれは違う……」
サリドは踵を返し、「さて、俺もあれが定位置にくる前に準備しなきゃな」
笑って、言った。
通信が切れてから、グラム。
「なんだよなんだよ! この車軍用じゃないのかよ!!」
グラムは運転していて横目で車内の装備を見て、愕然とした。
軍用のオフロードカーで迷彩柄であったのに中にあったのはカメラ、マイク、フィルム…………
「……これ、報道機関の車か。ややこしい装備しやがって」
グラムは唾を吐くように言った。
しかし、そんなことはもう関係ない。今更この車を捨てて逃げるだなんて無意味かつ無謀だ。
「とりあえずあるのは護身用のライフルと、手榴弾……、しかも『レイリー・コーポレーション』製じゃないのかよ……。どんだけ弱小なんだ、このパパラッチは」
レイリー・コーポレーション。
世界一の軍事企業で『資本主義国』の軍はすべてその会社の武器を用いている。
「……まさか、社会主義国のパパラッチか? 資本主義国のパパラッチはみんなレイリー御用達の筈だしな。ああ、めんどくさい」
グラムはおもちゃに飽きた子供のような表情で、言った。
「とりあえず……、反抗しときますかね」
そう言ってグラムは手榴弾の信管を抜き、後ろから追ってくるゴーレムに投げつけた。
ドゴォォォォン!! と耳をハンマーで叩かれたような衝撃がグラムを襲う。
「……やっぱゼロ距離からの手榴弾は自殺行為だな!」
爆発の衝撃でグラムの両耳が耳鳴りを起こしている。
「……うぐっ……!!」
不意に、車のバランスが取れなくなる。
人間は耳にある三半規管という半円状の三つの管でからだの平衡をとっている。
それが衝撃を負い、一時的に使えなくなったとしたら?
「うおおおおおお!!」
グラムは叫びながらがむしゃらにハンドルを握り、左やら右やらに回す。
……バランスを取り戻す作戦は見事に失敗し、グラムの運転した車は樹に激突した。
「……畜生……。まさかこんなところで……」
グラムは激突し、見るも無惨な姿と化した『報道機関』の車から抜けでた。
「……こうなりゃ、足で逃げるしかねぇな」
言って、グラムは自身の装備していたアサルトライフルを構える。
「避けろ!! グラム!! 飲み込まれるぞ!!」
そのとき、サリドの声が雪原に響いた。
その声を聞いてグラムは咄嗟に走る。
ゴーレムもグラムを追おうとしたが――
刹那、ゴーレムを覆うように、雪崩がやってきた。
ゴゴゴゴゴ!! とまるで戦車のキャタピラーの音のような轟音で、雪が、その雪によって倒れた樹が、ゴーレムとグラムがいる谷に流れ込む。
「うおおおおおお!!」
叫びながら、グラムは雪崩に飲み込まれないように走る。
ゴーレムはピギャギギゴゴガガ!! とまるで何かの鳴き声を最初は発していたのだが、暫くして、雪に埋もれたのか、その声は聞こえなくなった。
雪崩が収まり。
「助かった……。あれがなくちゃ今頃あのデカブツの餌食だったぜ」
グラムは腰に提げていたウエストポーチから袋を取り出し、そこから“唾液で喉を潤すための乾いたもの”を取り出し、一粒口に入れた。
「まあ、成功した方かな? にしてもほんとにヒュロルフタームじゃないなんてね」
サリドは雪崩の残骸からなにかを取り出す。
「なにそれ?」
「ゴーレムとやら、見た感じ『生物』っぽいんだよね。とりあえず採集しとく」
「大丈夫かよ。もしまた起きたりしたら」
「大丈夫、大丈夫。……さて、これで一つ目の目標は達成だね」
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