FORSE
13
ここは資本主義国の列強、『資本四国』のうちのひとつ、レイザリー王国。
この国は“王”国であるものの、実質的な支配は4人の実力者によって形成される『四天王』と呼ばれる組織が行っていた。
飾りだけの王、とはなんとも心細いものだろうか。
家具や柱や壁の至るところに漆や金や銀が貼ってあった。
しかし唯一天井の着いたベッドに犬のぬいぐるみを抱き抱えている少女が、何故かそれに浮いて見えた。
彼女はこの部屋の持ち主なのに。
彼女はこの国を支配していたのに。
彼女はこの国の“王”と呼ばれる存在であった。
時折、苦しそうな表情を見せ、頻りに下腹部からそのなだらかな胸のあたりまでをさする。
「……う……あっ……」
なにか吐き出しそうな感情。それは彼女はおろか誰にも止めることはできない。
「王様」
扉の向こうから、深い低い声が聞こえたのはそのときだった。
王と呼ばれた少女はその声を聞いてすぐに表情を明るくし、けっしてそれが悟られないようにした。
「入れ」
少女が出した声は先ほどのそれとは違い、深く低いものだった。
「失礼いたします」
そこに入ってきたのは茶がかった肌に白い顎髭を蓄えた紅い眼の人間だった。
「……ヴァリヤー・リオールか。どうした?」
「……今回の戦争の功労を労うための祭に出ていただきたいのですよ」
女王は軽く咳き込みながら、「わかった。いつごろに行う?」
ヴァリヤーは手帳を見ながら、「ええと、今日の17時に軍飛行機が空港に降り立って凱旋したあとなので……20時からですかね」
「それはまた急だな」
「なにしろその彼らはすぐに別の戦争に行かねばなりませんから」
「彼らも忙しいな。早くこの戦争が終ればよいのだが……」
「ええ。その通りでございます」
ヴァリヤーは恭しく笑いながら答えた。
凱旋パレードを終え、宴の会場にやってきたサリドとグラム。
「あんたたちは知らないだろうけど、宴の最初に表彰があるからね。勲章ものだから盛大だよ」
上司であるリーフガットはタブレットを弄りながら言った。
「へえ、それはすごいですね」
「なに余所者風を吹かせている。表彰されるのはサリドとグラム……あんたらだよ?」
会話の後。
「すげぇなあ。俺ら」
「え? なんで?」
「だって考えてみろよ。この戦争で勲章だぜ? しかも紛い物とはいえ『ヒュロルフタームを人間だけで倒した』ってな」
「まあ少なくとも後の歴史には語られそうだね」
サリドとグラムは宴の会場に作られた小さなステージの裏に着いていた。
「そういえばさ。王様ってどんな人間なんだろうな? 見たことないや」
「この国の王を継ぐのは代々女性がなるものだから女、ということは言える」
「なんだいその知ってる素振りは」
「俺も一応『貴族』の端くれ。小さい頃から『王族と仲良くしておくように』と言われてな。王族のことは結構学んでるつもりだぜ。たしかその名前は……」
そのとき、グラムの言葉を遮るように角笛の音が響く。
「おっ、始まるみたいだな。急いでいくぞ」
「だな」
二人は小さく頷き、舞台に上がった。
舞台は四角く作られていて、そこに四つほど席があり、そこに軍服を着た人間がそれぞれ座っていた。肩につけられた星の数が、それを物語っていた。
「グラム……。おれ、こういうのは緊張するんだよね……」
「これで緊張しないやつはいねぇよ。当たり前のことだぜ……」
両者が聞こえるか聞こえないか位の声で、二人は話をする。
「では、これから勲章授与を行いたいと思います」
優しい、白髭を蓄えた軍服を着た老人は、その口から嗄れた声を出した。
「グラム・リオールにサリド・マイクロツェフ。両氏はヒュロルフタームをなんと素手で倒したと言うのですから、驚きです」
次の発言に、
ヒュロルフタームのことを学ぶため、学校に戻ろうとした学生と、
軍をやめ、平穏無事な生活を送ろうとした貴族の、
『幻想』は打ち砕かれた。
「是非とも、その力を、次の戦場で使っていただきたい! 両氏の末永い健康を願い、勲章を授けたいと思います」
その発言のあと、サリドとグラムはなにをしたのか、覚えてはいなかった。
あの言葉はきっと空耳だ。信じられない。と、思っていたのだが。
宴が終わり、リーフガットの一言。
「じゃあ、宴はここまで! 明朝、プログライトとの戦争に臨むのでそのつもりで!」
リーフガットの発言に兵士たちは声ともつかない声を出し、叫ぶ。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」
「なんだ? サリド・マイクロツェフ」
「……俺ら、もう帰りたいんですよ」
「あら? 『素手でヒュロルフタームを破壊した』あんたらを軍が簡単に手離すとでも思った?」
サリドは返せない。
「そういうことよ。じゃあ明朝は8時出発だから、そこんとこ自分で調整しろよ」
「……!! もう2時廻ってるじゃないすか!! いったい何時まで宴会をする気で?」
「そうか。あんたらははじめて参加するのよね。じゃあ言っとくけど“夜通し”よ。日の出まで続くわ」
んなあほなーっ! とサリドは思っていたが、
「まああんたらははじめてだし大事な人材だから早めに戻ってゆっくり寝ろ。一応言っておくが逃亡は銃殺刑だからな?」
――どうやらこの二人の軍務は、まだまだ続きそうである。
この国は“王”国であるものの、実質的な支配は4人の実力者によって形成される『四天王』と呼ばれる組織が行っていた。
飾りだけの王、とはなんとも心細いものだろうか。
家具や柱や壁の至るところに漆や金や銀が貼ってあった。
しかし唯一天井の着いたベッドに犬のぬいぐるみを抱き抱えている少女が、何故かそれに浮いて見えた。
彼女はこの部屋の持ち主なのに。
彼女はこの国を支配していたのに。
彼女はこの国の“王”と呼ばれる存在であった。
時折、苦しそうな表情を見せ、頻りに下腹部からそのなだらかな胸のあたりまでをさする。
「……う……あっ……」
なにか吐き出しそうな感情。それは彼女はおろか誰にも止めることはできない。
「王様」
扉の向こうから、深い低い声が聞こえたのはそのときだった。
王と呼ばれた少女はその声を聞いてすぐに表情を明るくし、けっしてそれが悟られないようにした。
「入れ」
少女が出した声は先ほどのそれとは違い、深く低いものだった。
「失礼いたします」
そこに入ってきたのは茶がかった肌に白い顎髭を蓄えた紅い眼の人間だった。
「……ヴァリヤー・リオールか。どうした?」
「……今回の戦争の功労を労うための祭に出ていただきたいのですよ」
女王は軽く咳き込みながら、「わかった。いつごろに行う?」
ヴァリヤーは手帳を見ながら、「ええと、今日の17時に軍飛行機が空港に降り立って凱旋したあとなので……20時からですかね」
「それはまた急だな」
「なにしろその彼らはすぐに別の戦争に行かねばなりませんから」
「彼らも忙しいな。早くこの戦争が終ればよいのだが……」
「ええ。その通りでございます」
ヴァリヤーは恭しく笑いながら答えた。
凱旋パレードを終え、宴の会場にやってきたサリドとグラム。
「あんたたちは知らないだろうけど、宴の最初に表彰があるからね。勲章ものだから盛大だよ」
上司であるリーフガットはタブレットを弄りながら言った。
「へえ、それはすごいですね」
「なに余所者風を吹かせている。表彰されるのはサリドとグラム……あんたらだよ?」
会話の後。
「すげぇなあ。俺ら」
「え? なんで?」
「だって考えてみろよ。この戦争で勲章だぜ? しかも紛い物とはいえ『ヒュロルフタームを人間だけで倒した』ってな」
「まあ少なくとも後の歴史には語られそうだね」
サリドとグラムは宴の会場に作られた小さなステージの裏に着いていた。
「そういえばさ。王様ってどんな人間なんだろうな? 見たことないや」
「この国の王を継ぐのは代々女性がなるものだから女、ということは言える」
「なんだいその知ってる素振りは」
「俺も一応『貴族』の端くれ。小さい頃から『王族と仲良くしておくように』と言われてな。王族のことは結構学んでるつもりだぜ。たしかその名前は……」
そのとき、グラムの言葉を遮るように角笛の音が響く。
「おっ、始まるみたいだな。急いでいくぞ」
「だな」
二人は小さく頷き、舞台に上がった。
舞台は四角く作られていて、そこに四つほど席があり、そこに軍服を着た人間がそれぞれ座っていた。肩につけられた星の数が、それを物語っていた。
「グラム……。おれ、こういうのは緊張するんだよね……」
「これで緊張しないやつはいねぇよ。当たり前のことだぜ……」
両者が聞こえるか聞こえないか位の声で、二人は話をする。
「では、これから勲章授与を行いたいと思います」
優しい、白髭を蓄えた軍服を着た老人は、その口から嗄れた声を出した。
「グラム・リオールにサリド・マイクロツェフ。両氏はヒュロルフタームをなんと素手で倒したと言うのですから、驚きです」
次の発言に、
ヒュロルフタームのことを学ぶため、学校に戻ろうとした学生と、
軍をやめ、平穏無事な生活を送ろうとした貴族の、
『幻想』は打ち砕かれた。
「是非とも、その力を、次の戦場で使っていただきたい! 両氏の末永い健康を願い、勲章を授けたいと思います」
その発言のあと、サリドとグラムはなにをしたのか、覚えてはいなかった。
あの言葉はきっと空耳だ。信じられない。と、思っていたのだが。
宴が終わり、リーフガットの一言。
「じゃあ、宴はここまで! 明朝、プログライトとの戦争に臨むのでそのつもりで!」
リーフガットの発言に兵士たちは声ともつかない声を出し、叫ぶ。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」
「なんだ? サリド・マイクロツェフ」
「……俺ら、もう帰りたいんですよ」
「あら? 『素手でヒュロルフタームを破壊した』あんたらを軍が簡単に手離すとでも思った?」
サリドは返せない。
「そういうことよ。じゃあ明朝は8時出発だから、そこんとこ自分で調整しろよ」
「……!! もう2時廻ってるじゃないすか!! いったい何時まで宴会をする気で?」
「そうか。あんたらははじめて参加するのよね。じゃあ言っとくけど“夜通し”よ。日の出まで続くわ」
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