FORSE

巫夏希

17

レイザリー軍の基地を見下ろせる高台に小さな建物が建っていた。

そこはかつてはリフディラ軍の軍事施設として使われ、表向きは軍人の体力増強の為の研究を行う施設であった。

しかしそれが倫理的に違反してるという『大神道会』の判断に基づき焼き払われた。

今はそこにはいつ崩れてもおかしくないような建物の残骸が建っているだけであった。

そんな建物に一人の男がやってきた。

男の名はレイデン・ミーシェルハイト。傭兵だったのか体のところどころには傷があり、中でも左目を塞ぐように縫いつけられた傷は彼の回りに誰も近付かせないような、そんな何かが感じられた。

レイデンは地下に降り、その奥に在る扉まで用心深く近づき、ある一定のリズムで扉を叩いた。

扉の中は外観とは見違えるように綺麗で、雑然としていた。部屋は狭く、二人か三人入ったらもう詰まってしまうような感じであった。

何故かといえば。

レイデンが部屋に入ると部屋の中には誰もいなかった。その代わりに部屋の半分以上を占拠する“それ”はいた。

それは旧型のコンピュータらしかった。

らしかったとはどういうことかと言えば単純に解らないのである。これがいつ作られたかも解らない、誰が? 何のために? それすらも解らない。全てがブラックボックスに包まれた、そんなものなのだ。

名前はアリスというらしい。なぜアリスと解ったかと云えばコンピュータの外装に金属製のプレートが張り付けられており、そこに『Alice』と書かれていたからだ。

科学者の中にはこれを旧時代の物と唱える人間もいる。

旧時代といってもそもそもそれがあるかどうかも証明されていないのだが、時代区分的には今いる世界は遥か昔に一度滅びたという。その“滅びた時代”を旧時代といい、今“復活してここにある時代”を新時代と呼ぶことにしているらしい。

今、それは目の前にある小さな画面に白で書かれた文字の羅列を長々と映し出していた。レイデンはそちらのほうは疎いのでよく解らないが仲間が言うにはこれはプログラムというものでこのコンピュータは仲間が指示した通りに動いている、とのことらしい。

昔からレイデンはそういうのに疎く、自分もまたそれを改善しようとしなかったために今の今までこれを使えずにいるままだった、というのもある。

彼の任務はこのコンピュータを守ることで仮にこれが陥落したら錯綜していた情報が元に戻りレイザリー軍は総力を挙げ攻め込んでくるだろう。なんとしてもそれは避けたい。

つまりは命綱をこのコンピュータが握っていて、このコンピュータが何らかの影響で異変を起こしただけでもゲームオーバーなのだ。

レイデンはとりあえず部屋の中にあるガスコンロを用いてお湯を沸かした。余談ではあるがこの時期のリフディラはとても寒く、夏といった割には氷点下になることもあるのだ。

況してやここは地下。地上より寒いというのは一目瞭然である。

お湯が沸き上がり、少し薄汚れた銀のカップにお湯を注ぐ。少し猫舌なレイデンは息を吹き掛けながらそのお湯を飲み始める。

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