FORSE
22
山の中は当初予想していたよりも相当に入り組んでいた。
行き止まりや埋もれた道、崖すれすれを通らなければならないなど様々なことがあった。
斯くして当初の予想よりも数時間――あくまでもサリドたちが体内時計を参考にして割り出した迄であって、実際はもっと時間がかかっているかもしれないし、逆にかかっていないかもしれない――かけて山の奥地へと足を踏み入れた。
山の奥地は真っ暗な洞窟の中であるというのにそこだけはまるで外みたいに明るかった。よくよく見ると吹き抜けのようになっており、そこから太陽の光が当たっているのだと思った。
そこには湖が広がっていた。この世のものとは思えない、深く澄んだ湖。そのまわりには苔が広がっていた。本当に綺麗な湖には魚は住んでいない。魚が住むのに必要なプランクトンが存在しないからだ。
湖の中には島があった。小さな、小さな島が。そこは今まで見たことのない綺麗な紫の花が咲いていて、そのまわりに一人の女性が立っていた。
まさか、と思いサリドがそちらに向かおうとする前に、彼女が反応し、彼女がこちらの方に向かってきた。
先に口を開いたのはサリドだった。
「もしかしてあなたは」
と、先の名前を言おうとする前に彼女も口を開いた。
「いかにも。私がシスター部隊のリーダーです。同じ部隊の人間からはエンゼルハンドとも呼ばれていますが、それでは呼びにくいでしょう? だから、私の本名をお伝えしますね」
彼女は眼鏡をかけていたが、その眼鏡を外していった。眼鏡越しに見た彼女の目は鮮やかなモスグリーンでとても綺麗だったが、眼鏡が外されると、まるで変態によって今までの姿を隠していたかのように、より素晴らしい目が見られた。
サリドはそれを見て何も言えず、ただただ眺めているだけだった。
「私の名前はフィリアス・ホークキャノンと言います。以後、お見知り置きを」
笑って、言った。
「……そうだ。もしかしてシスター・ビアスタからすべてを聞いているのか?」
「えぇ。勿論、あなたたちのことも。グラム・リオール」
「……さすがは国境に隔たり無く活動しているだけはあるな」
「誉め言葉として受け取ってよろしいでしょうか?」
シスター・フィリアスは健やかに笑みを溢して、答えた。
「あなた方は『夢月夜草』を求めてここにやってきたのでしょう? それは、あれです」
フィリアスはそう言って先程彼女が立っていた場所に咲いていた花を指差した。
「あれが夢月夜草? ……どう考えてもラベンダーにしか見えないのだけど……」
サリドは何度も不思議がってその花を見た。確かにその花は端からみたらラベンダーにしか見えなかった。
ラベンダーには殺菌や精神安定の効能があるとされている。もしかしたら『シスター部隊』はラベンダーの俗名を夢月夜草と呼んでいるのではないか、と思った。
「いいえ。確かにこの花はラベンダーに似ているけどラベンダーと明確に違う“なにか”がある。夢月夜草は夢月夜草なのです」
頭がこんがらがってきた、とサリドは思ったことだろう。
グラムもたぶん同じことを考えていたに違いなく、グラムもまたまるで頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるかのように上の方に目を向かせ、腕組みをして、ただただ考えていた。
行き止まりや埋もれた道、崖すれすれを通らなければならないなど様々なことがあった。
斯くして当初の予想よりも数時間――あくまでもサリドたちが体内時計を参考にして割り出した迄であって、実際はもっと時間がかかっているかもしれないし、逆にかかっていないかもしれない――かけて山の奥地へと足を踏み入れた。
山の奥地は真っ暗な洞窟の中であるというのにそこだけはまるで外みたいに明るかった。よくよく見ると吹き抜けのようになっており、そこから太陽の光が当たっているのだと思った。
そこには湖が広がっていた。この世のものとは思えない、深く澄んだ湖。そのまわりには苔が広がっていた。本当に綺麗な湖には魚は住んでいない。魚が住むのに必要なプランクトンが存在しないからだ。
湖の中には島があった。小さな、小さな島が。そこは今まで見たことのない綺麗な紫の花が咲いていて、そのまわりに一人の女性が立っていた。
まさか、と思いサリドがそちらに向かおうとする前に、彼女が反応し、彼女がこちらの方に向かってきた。
先に口を開いたのはサリドだった。
「もしかしてあなたは」
と、先の名前を言おうとする前に彼女も口を開いた。
「いかにも。私がシスター部隊のリーダーです。同じ部隊の人間からはエンゼルハンドとも呼ばれていますが、それでは呼びにくいでしょう? だから、私の本名をお伝えしますね」
彼女は眼鏡をかけていたが、その眼鏡を外していった。眼鏡越しに見た彼女の目は鮮やかなモスグリーンでとても綺麗だったが、眼鏡が外されると、まるで変態によって今までの姿を隠していたかのように、より素晴らしい目が見られた。
サリドはそれを見て何も言えず、ただただ眺めているだけだった。
「私の名前はフィリアス・ホークキャノンと言います。以後、お見知り置きを」
笑って、言った。
「……そうだ。もしかしてシスター・ビアスタからすべてを聞いているのか?」
「えぇ。勿論、あなたたちのことも。グラム・リオール」
「……さすがは国境に隔たり無く活動しているだけはあるな」
「誉め言葉として受け取ってよろしいでしょうか?」
シスター・フィリアスは健やかに笑みを溢して、答えた。
「あなた方は『夢月夜草』を求めてここにやってきたのでしょう? それは、あれです」
フィリアスはそう言って先程彼女が立っていた場所に咲いていた花を指差した。
「あれが夢月夜草? ……どう考えてもラベンダーにしか見えないのだけど……」
サリドは何度も不思議がってその花を見た。確かにその花は端からみたらラベンダーにしか見えなかった。
ラベンダーには殺菌や精神安定の効能があるとされている。もしかしたら『シスター部隊』はラベンダーの俗名を夢月夜草と呼んでいるのではないか、と思った。
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頭がこんがらがってきた、とサリドは思ったことだろう。
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