FORSE
24
とりあえずグラムはサリドとフィリアスを近くの岩場に引き込んだ。もっとも、それで岩をも砕くフィレイオと名乗った少年の炎から逃げ切れた訳ではないのだが。
「……グラム、どうする?」
サリドはすっかり冷静を取り戻して、沈着な面持ちで言った。
「あいつが言っていた『魔術』が本当なら俺たちは気づかない内にとんでもないやつらに喧嘩を売ってたみたいだな。……しかし魔術ってなんなんだ?」
「触りだけなら教えられることも出来なくはないですが」
シスター・フィリアスが二人の会話に口を挟んだ。
「魔術とはそもそも突然生まれたものではありません。強いて言うならば一滴づつゆっくりと落ちていった雫が溜まってコップに満たされていったような感じです」
シスター・フィリアスは続ける。
「魔術は、所謂旧時代と言われた頃から存在しているとされたものです。しかしながら当時の『魔術』とはとても机上の空論としか言い様のないもので、物理法則を無視するなど、この世界の理を凌駕するものばかりでした。だから旧時代の人間は魔術師を異能として狩りをはじめた。そもそも魔術師の素質のある人間は少ないですから。それで魔術師の殆どが死んでしまいました」
「それから“魔術師という名を冠する者”は姿を消しました。しかしながら魔術師の素質を持った人間は完全に世界から消え去ってはいなかったのです」
「旧時代から魔術師と魔術というものがあるとは……初耳だな」
「科学の興隆した旧時代が滅んだ理由も魔術が関係があるとされています。噂によれば魔術の衰退を恐れた魔術師が大規模な魔術を地球そのものに組み上げ、地軸を数度ずらす事に成功したらしい、というのです」
「地軸をずらすとなると世界そのものの気候が崩壊し人間そのものが滅亡するのでは?」
「全くもってその通りです。現にその魔術は地球の磁気に大きな影響を与えました」
「磁気に? それで人間は滅んだというのか?」
サリドの言葉にフィリアスは首肯し、続けた。
「当時、人間はロボット……人が造り上げた人間、ですね。それを造り上げました。そして人間がすることの殆どを彼らが担うこととなったのです」
「……さて。CPUは磁気の僅かな乱れにも弱いとされています。それが、その僅かな乱れが地球全体に発生したとしたら?」
「……まさか!」
「そう。そのまさかです。CPUが磁気の乱れによって我を失い人間に反旗を翻し、そして人間は滅んだ、とされています。その魔術師が望んだとおり、科学が興隆した世界は完全までに破壊されたのです」
「そこまで知ってるなんてね。あの連中が君を目の敵にしてる理由も何となく解る気がするよ」
気づいたら目の前にフィレイオの姿があった。どうやってここまで来れたのか、と問い質そうとすると、
「だから言っただろう? 魔術だよ」
地面が、震えた。
正確にはフィレイオが放った目に見えない何かに大地が共振していた。
その俄に信じがたい行為を三人は目の当たりにしていた。
「マイクロウェーブでも放ちやがったか?!」
「マイクロウェーブ? ふふん。君たちの方ではそうと呼ぶかも知れないね。でも僕らにとっては違う。これは『龍脈』を用いた簡単な共振反応さ。あっ、龍脈ってのは大地に流れる気のことでね? まるで人間に流れる血潮みたいに複雑でこんがらがってる。そのかわり世界のありとあらゆるところにはあるんだけどね」
フィレイオはそう言って、消えた。
それを見て、サリドとグラムはただ何も出来ず、たじろいでいた。
「……何処に!!」
そう叫んだグラムは、辺りを一巡りして、
何かを発見した。
それは彼の隣に立つサリドの後ろにあった。
それはサリドがフィレイオの裏拳をいなして――それはグラムの想像だが、たぶんそうに違いない――二人が睨み合っている、そんなところであった。
「貴様……?」
そのときグラムにはフィレイオの顔が大きく歪んだようにも見えた。それはきっと彼より一番近い位置にいるサリドもはっきりとそう見えたことだろう。
「これでも昔は武術をたしなんでいてね? こういうゆっくりでスピードが感じられないパンチを受け止めることなんて朝飯前なんだよ」
かつて、ヒュロルフタームによる巨大代理戦争が合理化される前はそれなりに昔の戦争スタイルを維持していた。昔の戦争スタイルとは所謂銃や地雷などを使い人と人が闘うものであった。
そんな中、そんな昔の戦争スタイルに取り込まれたレイザリー特有の武術が存在する。それは銃弾を一瞬でかわし、地雷を流れから感知する……といったものだ。
ヒュロルフターム合理化によりその武術の必要性は今もなお喪われていない。
その武術を一家相伝する家系こそ――。
マイクロツェフ家だったのである。
「……グラム、どうする?」
サリドはすっかり冷静を取り戻して、沈着な面持ちで言った。
「あいつが言っていた『魔術』が本当なら俺たちは気づかない内にとんでもないやつらに喧嘩を売ってたみたいだな。……しかし魔術ってなんなんだ?」
「触りだけなら教えられることも出来なくはないですが」
シスター・フィリアスが二人の会話に口を挟んだ。
「魔術とはそもそも突然生まれたものではありません。強いて言うならば一滴づつゆっくりと落ちていった雫が溜まってコップに満たされていったような感じです」
シスター・フィリアスは続ける。
「魔術は、所謂旧時代と言われた頃から存在しているとされたものです。しかしながら当時の『魔術』とはとても机上の空論としか言い様のないもので、物理法則を無視するなど、この世界の理を凌駕するものばかりでした。だから旧時代の人間は魔術師を異能として狩りをはじめた。そもそも魔術師の素質のある人間は少ないですから。それで魔術師の殆どが死んでしまいました」
「それから“魔術師という名を冠する者”は姿を消しました。しかしながら魔術師の素質を持った人間は完全に世界から消え去ってはいなかったのです」
「旧時代から魔術師と魔術というものがあるとは……初耳だな」
「科学の興隆した旧時代が滅んだ理由も魔術が関係があるとされています。噂によれば魔術の衰退を恐れた魔術師が大規模な魔術を地球そのものに組み上げ、地軸を数度ずらす事に成功したらしい、というのです」
「地軸をずらすとなると世界そのものの気候が崩壊し人間そのものが滅亡するのでは?」
「全くもってその通りです。現にその魔術は地球の磁気に大きな影響を与えました」
「磁気に? それで人間は滅んだというのか?」
サリドの言葉にフィリアスは首肯し、続けた。
「当時、人間はロボット……人が造り上げた人間、ですね。それを造り上げました。そして人間がすることの殆どを彼らが担うこととなったのです」
「……さて。CPUは磁気の僅かな乱れにも弱いとされています。それが、その僅かな乱れが地球全体に発生したとしたら?」
「……まさか!」
「そう。そのまさかです。CPUが磁気の乱れによって我を失い人間に反旗を翻し、そして人間は滅んだ、とされています。その魔術師が望んだとおり、科学が興隆した世界は完全までに破壊されたのです」
「そこまで知ってるなんてね。あの連中が君を目の敵にしてる理由も何となく解る気がするよ」
気づいたら目の前にフィレイオの姿があった。どうやってここまで来れたのか、と問い質そうとすると、
「だから言っただろう? 魔術だよ」
地面が、震えた。
正確にはフィレイオが放った目に見えない何かに大地が共振していた。
その俄に信じがたい行為を三人は目の当たりにしていた。
「マイクロウェーブでも放ちやがったか?!」
「マイクロウェーブ? ふふん。君たちの方ではそうと呼ぶかも知れないね。でも僕らにとっては違う。これは『龍脈』を用いた簡単な共振反応さ。あっ、龍脈ってのは大地に流れる気のことでね? まるで人間に流れる血潮みたいに複雑でこんがらがってる。そのかわり世界のありとあらゆるところにはあるんだけどね」
フィレイオはそう言って、消えた。
それを見て、サリドとグラムはただ何も出来ず、たじろいでいた。
「……何処に!!」
そう叫んだグラムは、辺りを一巡りして、
何かを発見した。
それは彼の隣に立つサリドの後ろにあった。
それはサリドがフィレイオの裏拳をいなして――それはグラムの想像だが、たぶんそうに違いない――二人が睨み合っている、そんなところであった。
「貴様……?」
そのときグラムにはフィレイオの顔が大きく歪んだようにも見えた。それはきっと彼より一番近い位置にいるサリドもはっきりとそう見えたことだろう。
「これでも昔は武術をたしなんでいてね? こういうゆっくりでスピードが感じられないパンチを受け止めることなんて朝飯前なんだよ」
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