FORSE

巫夏希

1-1

 二日後。

 オリンピアドーム中心にある射撃場に大勢の人間が集まっていた。

 そこは『射撃場』という存在であるものの、やけに広かった。きっとかつて行ったショッピングモールに近い面積であろうことはサリドの目視でもだいたい解ることだった。

 射撃場はスタジアムのようになっており、二階席、所謂観客席である場所、にはフィールドにいる人間の関係者というのは明白だった。

 サリドは携帯端末をいつものように弄くってはいなかった。きっと入場時に係員から没収を喰らったのだろう。

そんなサリドは今、表紙に可愛らしい女の子をあしらったものを読んでいた。

「あれ? サリド、そんなの興味あったっけ?」

「ん?」サリドはグラムの話を聞いて指されている表紙のグラビアを確認する。

「あぁ、これは表紙詐欺だよ。中身はちゃんとした特集」

 サリドはそう言って半ばめんどくさそうに中を見せる。中にはでかでかとしたゴシックで『世界トライアスロン特集!!』と書かれていた。

「これを読むと結構面白いのが書かれててね。世界トライアスロンは今年で10回目なんだってさ」

 それをはじめに、サリドはどんどんと話をつづけていった。


 サリドが言ったことを要約するならば。

 世界トライアスロンは10年前にレイザリー王国が企画したお祭りである。

 銃も、剣も、ヒュロルフタームも、用いない。まさに平和の祭典、である。

 競技は全部で7つあり、トライアスロンというよりかは総合体育大会のほうがベクトルが強い。

 水泳、マラソン、射撃、弓道、砲丸投げ、体操、自転車レースの7種だ。これは固定されて毎年同じ競技をするわけではなく、各国の代表が協議して決めるのだとか。

 そんな『平和の祭典』ではあるが、やはりそこは今の世界である。

 競技者が狙撃され、そのまま戦争に発展してしまうことも有り得るのだ。

 この世界トライアスロンの競技者はヒュロルフタームのパイロット、ノータであることはルールブックに記載されており、それは守らねばならない事実である。

 ノータは各国の最高級VIPで国に拠っては最高権力者よりも守るべき存在であるところもある。

 即ちその人間が狙撃されるということは、仮にダメージを負わなかったにせよ他国からの攻撃を受けたことに等しい。

 世界トライアスロンは各国どうしの不可侵条約の下成り立っているが、所詮それも只の紙切れであって、それで安全が完全に保証されている訳ではない。

 だけどもそれを言っている状態ではオリンピアドームへの観光客が見込めないため、資本四国は連合軍を形成し、その治安を守っているのである。

グラムはサリドから聴いた話にしばらくうなずいていたが、そのうちにそれすらもやめてただなにか難しい物事を考えているような表情へと化した。

「……つまり、最高級VIPを平和の祭典に出させることにより世界の平和を再確認させる、ってことか?」

「そーいうこと。ま、今はそれも無くなったみたいだから余り心配しなくていいんじゃないかな。備えあれば憂いなしだけどもね」

サリドはそう言って雑誌を閉じる。

グラムはそれを見てしばらく不審に思っていたのだが、

刹那、射撃場を揺らす程の歓声が、射撃場自身に溢れた。

「うおっ……! 始まったか!!」

「毎年見るけど相変わらずすげぇなぁ。なんてったって世界中の人間が溢れてるんだろ? これが“平和”ってやつなのかねぇ」

そう言ってグラムは先ほど買っておいたドリンクを飲むことにした。

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