FORSE

巫夏希

2-1

一日目の競技は水泳である。

6km近く離れている浮島まで泳ぎ、そこを往復――およそ13kmの遠泳コースである。

「しっかし初っぱなから水泳とはねぇ。明日以降に耐えられるのか?」

グラムは少しだけ眠たげに言った。話を終えたあとに欠伸をしたのがその証拠である。

「グラム。たしかノータは知識と筋力を兼ね備えているらしいよ? それに世界トライアスロンの日程にこんなに余裕が出るようになったのは去年あたりからだよ。その前は毎日やってたらしいから」

「こんなの毎日やってたら普通の人間なら疲れで死ぬぞ?」

だから、とサリドはあえてそれを加えて、

「それがノータが“バケモノ”と呼ばれる由縁なんじゃないかな?」

ヒュロルフタームの事故は必ずといってよいほどノータも共に攻撃をくらうことが多い。

なぜならばヒュロルフタームはあくまでも人間で言うところの、脳のない赤子に近く、ノータ――即ち操縦し、管理するもの――がいない限りヒュロルフタームの本能のままに行動する。しかしもう使われて10数年も経つというにヒュロルフタームには解らないことが多すぎるのだ。

「第一、ヒュロルフタームの生みの親であるヨシノ博士がどうやってヒュロルフタームを作ったか詳しい概論を発表しないまま死んでしまったからね。その後遺された書類や設計図を見てもどういうことかわからない。なのにヒュロルフターム自体は作ることはできるから面白いもんだよね」

「詳しい概論を発表しなかった? どういうことだ?」

「ヨシノ博士は資本主義国の人間にしかヒュロルフターム概論を発表されないことを知り、全世界に発表しようと亡命を謀ったんだ。大分昔に言ったかもしれないけどヒュロルフタームはもともと人間は行動し難いことを出来るようにするための強化装備パワードスーツみたいなもので平和的に活用するつもりだったんだけどね」

「それが今や戦争の代名詞、か。世界ってのはほんとどう転がるかわからないもんだよなぁ」

グラムは煙草を吸うような素振り、あくまでも注記しておくと彼はまだ16歳の未成年であるのだ、をして言った。

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