FORSE

巫夏希

4-10

フィレイオは炎の剣を構え、跳躍する。対するサリドは何も持たない。無。いわば、拳のみで戦おうというのだ。武器を持つ人間に対する戦いで、これはなんと無謀か。リーフガットやグラムはよく理解していたことだろう。

(……何も持たないで戦うなんて無理に決まっている……!! しかし、この余裕は何だ……?)

サリドはこの圧倒的不利な状況下に置かれていてもなお、表情は崩さなかった。それにフィレイオは不安に思ったのだ。なぜ彼はこの状況でも感情に振り回されることはないのか? フィレイオはそんなことを考えていた。

しかし、寧ろそれが逆にフィレイオの気持ちを掻き乱す結果へと昇華してしまった。

「右脇腹が……がら空きだ!」

サリドに言われた束の間、フィレイオの右脇腹に突きが決まり、左へ飛ばされた。

「がはっ?!」

それはフィレイオには全く解りやしないことだった。なぜ、自分がこの人間ごときにやられてしまうのか? なぜ自分が全力を出しているにも関わらず、彼は平気で往なしてしまうのか? なぜ、なぜ……。疑問が彼の頭の中で右往左往と飛び交っていた。

「どうした? ……次はっ、これだ!!」

そう言ってサリドは軍服にあるポケットから手榴弾を取り出し、投げた。しかしながらそんなもので何らかのダメージを与えられるほどの人間ではないことを、サリドは解っていた筈である。さて、ではなぜ投げたのか?

「……目眩ましか?!」

フィレイオはそう言って手榴弾を炎剣えんけんで一閃した。

「……ご名答。でも、ここまでは解らなかったんじゃないかな?」

そう言ってサリドはフィレイオの“背中に拳を捩じ込ませた”。

「ぐっ、ぐあぁあぁ!!」

フィレイオは悪魔のような呻き声を上げ、背中を抑え込む。

「貴様っ……!! なぜっ……!! 私の後ろに忍び寄ることが出来た……?!」

「簡単な事さ。実は其処に俺は居なかったんだよ」

「……なに?」

これに関してはフィレイオは勿論リーフガット(そういえば、ではあるが彼女はサリドとフィレイオの戦いが始まる少し前に復活を遂げていた)にグラム、ライズウェルトですらも絶句した。

「そんなわけがあるか?! 第一この戦いで、一体……!!」

「言っておくが教える気はない。そんなに気になるなら俺をころしてから奪え」

サリドは不満そうな顔で呟いた。

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