FORSE

巫夏希

4-19

「そういえば、神殿協会は『方舟』の存在を躍起になって探しているわよね。なんでもそれが自分達のアイデンティティーに繋がるから、って」

フランシスカは何処かで読んだ文書の事なのか、少し固い口調で言った。

「方舟の存在ってまだ解ってないんじゃなかった? 自分達のアイデンティティーを求めるために、色々な方法を用いて半ば強引に探しても発見されなかったから、国際社会ではそれの真偽を疑ってて神殿協会自体を不要とする判断すらも出てたはずだけど?」

「そうなのよ。……だから今年に発表された『神殿協会第52訂教典』で国際社会は大いに驚くことになってしまったの。“我々は方舟を発見した、神は、存在を証明できたのだ”ってね」

「でも神殿協会は国際社会に方舟のあった証拠を発表してないんでしょ? それじゃあ、その事がほんとかどうかも……」

「三年前、」

ロゼが唐突に呟いた。

「三年前、ある科学者がチームを結成させ、方舟の発見に向けて、探索を開始した」

「しかし、そのチームは戻ってくることはなく、最後に発せられた通信もノイズが酷く、聞き取れた部分を併せると……」

「『方舟は……じゃない。……だった。……が……された…………だった』と。それと同時に写真も公開された」

気付くと、ロゼの目には涙が浮かんでいた。


「ロゼ。大丈夫? 無理して喋らなくてもいいのよ?」

フランシスカが慌てて声をかける。

「いや、大丈夫。ありがとう。心配してくれて。……写真の話までしたんだっけ。写真にはあるものが写っていたのよ」

「あるもの?」

「そう。……決して今の科学技術では作れる筈のない、機械があったの。そしてそこにはプレートが貼られていた。……恐らく、その機械の名前でしょうね。名前は……Aliceアリス。そう、書かれていたそうよ」

「方舟はそこには写ってなかった……の?」

「えぇ。写ってなかったわ。けど、これで一つの仮説の証明が出来た。『旧時代の存在』が証明されたの」

「なるほど……。仮にこの時代で作られたものでないならば、旧時代で作られたものになる……と。確かに旧時代は科学が興隆していた世界と聞く。それならば、Aliceの可能性も充分に考えられる、ということになるな」

フランシスカは溜め息混じりにそう呟いた。

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