FORSE

巫夏希

31

獣はありとあらゆるもの全てを喰らい、その腹の中へと放り込む。消火できないのもあるらしく、それは時折口から吐き出すのと交互に。

「何よあれ……。あんなの反則じゃないの?!」

リーフガットは激昂した。だがここから遠く離れてしまった基地に例え戻ってこれても帰ってこれるとは思えない。謂わば片道切符なのだ。片道切符をここで購入し助けるか、全てを諦めてしまうかは彼女たちに握られていたのだった。

「……あれが反則だなんては言えないわ。だって、誰がルールを決めているというの? 誰が監視しているというの? ……戦争ってのはルールのない世界。そんなものにルールを見出だしてたら世界は混乱しちゃうよ」

ラインツェルはただ淡々とリーフガットに言った。

「そうだけど……。あんなんじゃ人間はかないっこないわ! まるで小人のような扱いを受けるしか無くなっちゃうのよ!」

「……あなたの気持ちは解るわ。でも、これは仕方のないことじゃない? 弱肉強食の世界で生きるには、人間は例えどんなに責められようとも、どんな方法を使ってでも生きていくしかないのよ」

「だけど……!!」

「……待って、リーフガット」

リーフガットの言葉をラインツェルは遮った。

「……どうしたの?」

「歌が聞こえる……」

ラインツェルはそう言って耳をそばだてた。それに釣られてリーフガットもそばだてて見るが、あまりよく聞こえない。

「……ねぇ。ラインツェル。何も聞こえないよ……?」

リーフガットは恐る恐るに尋ねたが、

「……いや、今のは……」

そう。リーフガットにも確かに聞こえたのだ。この世のものとは思えない美しい歌声が、耳に届いたのだ。

「聞こえた……?」

ラインツェルの問いにリーフガットは素直に頷いた。

そして、その声の主は、すぐ側にいた。

何も着ていない、白い体をあらわにさせている人間と思われるそれがいた。しかし恥ずかしがることもなく、寧ろ堂々としていた、基地の灰色の屋根の上で座っていた。

「……なんで、彼処に人間がいるんだ……? しかも裸で……、」

ラインツェルは言葉を言い切る前に思い出したかのように、再び言葉を紡ぎ出した。

「待って。……歌ってるのって、吸血鬼ヴァンパイアの唄じゃない?」

「私も思ったけど……。それにしてもメロディーが雑過ぎない?」

吸血鬼の唄とは昔からレイザリー王国に伝わる童歌わらべうたのようなものだ。とてもメロディーが残りやすく、記憶力の良い人は数回聞いただけで覚えてしまうほどだ。

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