FORSE

巫夏希

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なぜ、この唄が吸血鬼の唄と呼ばれているのか、歌詞の意味を見れば早い。

『吸血鬼がやってきた
 町をあれよと破壊した
 吸血鬼を手にした少女は笑った
 少女は潔癖でありたかった
 少女は苦しみを分かち合いたかった
 少女はただ、仲間が欲しかった
 吸血鬼は願いを聞き遂げて空に火を放った
 少女は楽しかった。自分が嫌いな世界が消え去ったことに
 その後少女の姿を見たものはもういない……』

タイトルの通り、この唄は吸血鬼とその友達となった少女の唄だ。

これは童歌だ。童歌には必ずやモデルがある。

遥か昔、空の大半を、即ち大地のほとんどを、消滅させた魔術を行使した人間がいた。

しかしそれを“直接的に行使したのは”彼ではなかった。彼は才能はあったものの、それを自らの魔術として生かすことができなかったからだ。

彼は長い調査の上、ついに適応する人間を発見した。まだ彼女は年端もいかない女の子だった。

だが、彼にはそんなことは関係なかった。彼は少女に魔術を行使し、受け継がせた。

そして、起きたのが後に言う『オリジン・インパクト』。それこそが終わりで、終わりは始まりを呼んだ。

「……どう思う? あの子」

ラインツェルはリーフガットに向かって、言った。

「どう考えても普通の人間ではないことは確かね」

「そりゃそうよ。有り得ないもの。そんなの」

「……だけど、まだ此方には気づいてないの……?」

「そうみたいだけど、気づかれるのも時間の問題よ。さっさとここから逃げましょ」

「逃げて……どこへ?」

「攻撃をするなら今の内、ってわけよ。戦争にルールなんて存在しないからね」

ラインツェルは笑って答えた。

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