FORSE

巫夏希

23

その頃、サリド。

「……話がずれてしまったな。サリドくん。一つここは昔話をしようじゃないか」

「昔話?」

「そうだ。まぁ……昔話よりかは神話に近いものがあるがね。旧時代の神話だよ」

修一はただ小さく呟いた。そしてその神話の内容を言った。それは、こんなことだった。

昔、といっても人間はおろか今の世界すら誕生しなかった時代、に神によって一組の男女が誕生した。

その名はアダムとイブ。彼らは神による安寧が約束され、平和な毎日を過ごしていた。


ところがある日、イブは楽園で遊んでいたとき一匹の白い蛇と出会った。

蛇曰く、カミサマは君たちをここに監禁しようとしている、と。

さらに続けて、ここはカミサマによって作られたジオラマである、とも。だからこの世界はカミサマの思うがままに動かし、滅ぼすことが出来る、と。

イブ曰く、ならばどうしたらいいのか? 私たちは自由に毎日を過ごしたいのだ、と。

蛇、笑って曰く、簡単な事だよ、と。

楽園の中心にある樹には金色の林檎が生まれるという。だがそれはカミサマによって訓示された唯一のルールで見つけても食べてはいけないとされているものだった。

蛇曰く、君らが自由になろうとも君らにはあるものが足りない、と。

それは、知恵だ。知恵を手にすれば、神をも凌ぐ力を君らは手に入れることになるだろう、と。

イブは蛇の話を聞き、アダムの元へ戻った。アダムは神をとるか、自分達をとるか。長い間悩んだ。そして、アダムはひとつの結論を導いた。

アダム曰く、金の林檎、知恵の実を取りに行こう。蛇に従おう、と。

蛇の事を最終的に彼らは信じた。神を捨て、彼らは知恵の実を食べた。

それを知った神は怒り、ついにはアダムとイブを罪の世界へと突き落とした――と。

「えぇ、その話は聴いたことがあります。確か、旧時代を含んだこの世界が生まれた……天地創造に関する神話だった」

「そうだ。だがこの話こそ、今彼らが行おうとすることに関わってくるんだ」

サリドの言葉に修一は頷きながらも、質問を提示する。

「……それはどういうことですか?」

「まぁ、聞け。まず知恵の実と生命の実は知ってるな?」

「……まぁ、話だけなら。確か、どっちも手にしたものは神へと昇華するんでしたっけ?」

「そうだ。そしてアダムとイブが手に入れようとした、実際には手に入れたのか、それは?」

「知恵の実ですよね? そんな解りきった質問しないで下さいよ」

「……もし、そのアダムとイブに予め生命の実があったとしたら?」

ここでサリドはようやく修一の言っていることに気付いた。

「……アダムとイブが、神になる……?!」

「そういうことだ。蛇は彼らを神にしようとしていたのさ。その理由は解らぬよ。ただ、これが人間の生まれた理由。そして、話は変わるが神は知恵の実を盗まれたことにより、その後獣に姿を変え、大地にその身を埋めた……。まさかその時には遠い未来に人間が掘り起こすとは思わなかっただろうな」

「……まさか、それって……」

「そうさ」修一は笑って、「……神殿協会、彼らが行おうとしているのは神の降臨だ」

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