現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

閑話休題、紫野さんはマーガレットを連れて帰るそうです。

テレビの中で啖呵たんかを切った息子に、一旦京都に戻っていた櫻子さくらこは、てを叩いた。

「よう言いました‼流石、あてとだんはんの子だす‼あ。でも、困りましたわぁ……」
「どうしたんや?」
「だんはん‼どないしまひょ‼あて、英語苦手ですのや。……さきはんにかわいい嫁‼話せなんで、泣きはらしましたら……あぁ……」
「その前に……さきが、結婚するていわなんだら、どうするんや?」

嵐山らんざんの一言に、

「あてとだんはんの子だす‼いくら、話すんが億劫だの言い訳しても、逃げは許しまへんえ?じゃぁ、マーガレットはんに似合うべべを……」

フンフンと嬉しそうな妻に、

「……まぁ、かめへんやろ。あても、英語苦手や……ならいにいこか……」

伝統文化よりも、子供優先の夫婦である。



「貴方の家と言われましたが、貴方は⁉」

次々と、繰り返される質問に、紫野むらさきのは遠い目をする。
いつもは何倍もしゃべる、双子の弟はどこに行った。
こういうときにいないのか……しゃべるの億劫なのに……。
視線を動かすと、祐也ゆうや穐斗あきとの肩を抱いて近づく。

「すみません。詳しい話は私から。私は祐也・安部あべ。先日の事件の被害者です。この方は私の大学時代の先輩のお兄さんで、紫野・松尾まつのお。京都の老舗菓子舗『まつのお』の跡取りです。本当は、紫野さんは事件の後に、どうなったのかと心配してきてくれた人です」
「先日の……と言うと、あの事件ですね?」
「そうです。私は、日本での事件の被害者でもあり、友人のガウェインに招待され、短期留学で来ました。こちらの荘園の生活などを勉強していたのです。それと……親友の穐斗・清水しみずの原因不明の病の事です」
「そう言えば、その少年は……」

祐也は躊躇い告げる。

「日本から。連絡がありました。Changelingチェンジリングで行方不明になったと。私たちは、度々アルテミス卿が穐斗を追い回していたので、おかしいと思い、ウェインとガラハッド卿、そして、後二人でアルテミス卿の屋敷に乗り込みました。すると、信じられないでしょうが、この季節なのに、屋敷には花が満開、そして、fairyフェアリーが飛び回り、アルテミス卿と美しい女性たちを侍らせていた男が、いました」
「fairy?」

失笑する人々に、穐斗が手を差し伸べる。
そこにはクークーと眠るブロンズ姫。
3センチもないほどの小さな妖精は、薄い透ける羽根と、花びらで作ったワンピースを着ている。

「こ、これは‼」
「友好的なfairyです。他のは、襲いかかりました。そして、そこには穐斗がいて、対峙していました。『僕は貴方を父とは思わない‼けれど、姉妹をChangelingやそのまま妖精に渡すと言うのはどう言うことだ』と。アルテミス卿は、快楽と遊興のために、自分が何人もの女性に生ませた子供を妖精に売っていたそうです。その売られた子供は、妖精の世界で成長し、人と妖精の違いに苦しみ、心を病んでいったそうです。穐斗は、自分の双子の妹も売られていたことに愕然として、自分が身代わりになるから姉妹を返せと‼」

紫野に促され、隠れていた少女が、

「私はマーガレット。日本の名前は夏樹なつき……」
「はぁ‼日本のタレント、MEGメグ……」
「違う‼もっとド派手で」
「こんなに清楚じゃない‼」
「あれは、Changelingの妖精でした。こちらが本当のマーガレットさんです。本名は夏樹さん。他に、10人ほどいました。でも、『もっといるはずだ‼返せ‼』と……それで、必死に止めたのですが……残りの姉妹は、メーデーの日に戻すことを約束して……男は穐斗を……」
「そちらの女性は?」
「穐斗の、双子の妹のアンジュです」

クリクリと大きな瞳の、明るい金茶色の美少女が、よたよたとよろめく。

「大丈夫か?」

ひょいっと抱き上げる祐也に、しがみつく姿に、騎士と姫君を連想するものもあり……。

「そ、そちらのアンジュさんは……」
「日本の、お母さんのもとに連れて帰ります。マーガレットさんもです。他の姉妹は、こちらの、ガラハッド卿の奥方の姉妹です。こちらでお願いすることになると思います。それよりも、お願いがあります」

祐也は周囲を見回す。

「妖精がアルテミス卿と交渉したと言うのは……もうひとつの側面があると言っていました。妖精の世界でも異変が起きているのだと。こちらの世界での歪みがあちらにも影響を与え、子供が生まれない、妖精が増えない減っていく……そうなっているようです」
「どういう事です?」
「調べました。『十分の一の税』ご存じでしょうか?」
「……?」

首をかしげるパパラッチに大袈裟にため息をつき、

「日本人の私が知っているのに……昔、領主に税金を納めた後、心ばかりの穀物を教会に届ける……その事です。不勉強ではありませんか?で、昔の本やある日記に記載されていました。アイルランドではChangelingは美しい女性が多く、連れ去られた女性は妖精の子供の乳母、もしくは妖精の妻にされたと。で、ウェールズ地方では、子供が取り換えられ、それは体の弱った妖精、トロールが。ある時、アルテミス卿の先祖に、アイルランドの女性を妻に迎えた人がいました。その人は当初約束の期日よりも大幅に遅れてだったため、ヤキモキしていたとか。すると、女性はビクビクと怯えていたそうです」
「怯えていた?」
「えぇ。elf、fairyと言った存在に……しばらくして、男の子が生まれたときに、その子供はChangelingに。当主は泣き伏す奥方に聞くと、自分がChangelingで、夫になる人がいる。その人以外には結婚しないと妖精との結婚を拒んだこと、すると、解放された代わりに『男の子が生まれたら。貰いに行く』と言われていたと……。で、あれこれ手をつくし取り戻したときには、息子は成長し、elfの妻とハーフelfの子供がいて……それから男児が生まれたら女の子として育てる事となったようです」

祐也は、続ける。

「先程の『十分の一の税』ですが、伝説ですが、妖精の世界にもあり、毎年、地獄に妖精の子供たちを送らなければならないそうです。自分の子供を地獄に送りたくない親が、人間の子とChangelingして、送ることもあったと記載されていました。しかし、不思議なんですよね。妖精と言うのは、かなり昔から信じられていた存在で、ガリア戦記で、ローマ軍がイングランドに侵攻して、ドルイド信仰等も妖精などと同じだったはずなのに……その後入ってきたキリスト教の地獄にと言うのも……それに、アーサー王伝説も穐斗が……」

友人の名前に詰まったのか俯く。
ウェインが進み出て、

「すみません。祖父の家の事ですが、祖父との間に子供を持った方の問題にもなります。ですので、今は、戻っているこの二人を含め10人ほど……そして、メーデーの頃に残りの叔母たちが戻ってきます。私は、祖父の愚行を許しませんし、厳しく断罪するつもりです。そして、父の息子として恥じぬ生き方を。ですが、まずご存じの通り、心を病んでいった叔母たちが休める環境を望みます。そして誠実なみなさんにお願いします。私や家族は、弟とたもとを分かちました。もし今後、彼が何かを起こしたとしても、私たちは御答えしませんし、関わりがありません。私たちは、祖父の行った愚行で苦しむ叔母を守るために戦うつもりです。私はガウェイン。そして、ランスロットを演ずるものとして、生きます‼そして、生きることで、忘れないことを……」

ウェインの宣言は、世界中に広まり、ウェインの人気が上昇し、前作の再公開、次作の公開を待ち望むファンが増えたのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品