現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第66話、紅ちゃんは突然の旅ではなかったのでした。

祐也ゆうやは、くれないに、

『そう言えば、お前、どうやってここに来たんだ?観光か?』
『ううん。これ』

ハンドバッグに入れていた書類に、

『た、短期留学?』
『うちの学校。留学制度があるんよ。で、一応、オーストラリアとアメリカとイングランドと、ニュージーランドがあって、オーストラリアは却下‼アメリカ暑苦しいし、ニュージーランドは人口より羊‼それに、指輪物語も他の有名な映画もあそこでとっとるやん。皆がそこいきたがって、それに、イングランドも多かったんやけど、父さんが、珍しくセンセに頼んでこっちにな‼』
『って、そういう場合、先生とか、ホームステイ先の人とか……』
『喧嘩した‼』
『はぁぁ‼』

祐也は叫ぶとずきずき痛む頭を押さえる。

『な、何でって聞いてエエか?』
『えぇよ?英語ができんかったけん。そこの子供にバカにされて、物を取られて、大喧嘩して向こうの親も何かやな感じだった。おいてやってんだって。自分の家は良い所だって……うわぁぁ‼あの、おばはんだぁぁ‼ゆうにいちゃん‼助けてぇぇ‼』

兄のベッドの下に潜り込む少女と入れ替わるように、

「失礼。私。日本の高校の生徒をホームステイさせてあげている者なのだけど。乱暴を働いたその生徒が逃げ出して、探しているの」

化粧の臭いが頭痛を悪化させるようで、頭を押さえる。

「言いなさい‼あの子供をどこにやったの‼」
「う、うぅぅ……」
「あの子を誘拐したと言う事で良いのかしら?ヤードを呼んでも……」
「失礼」

女性の背後からウェインとヴィヴィアンが現れる。

「あら、祐也?どうしたの?」
「ヴィヴィアン……香水……気分悪……」

口を押さえる祐也に、ヴィヴィアンが、ナースコールをする。

『どうしました‼』
「ミスター祐也が気分が悪いといっています‼吐きそうだと……」
『解りました‼』

とすぐに二人の看護師が駆けつけ、一人が嘔吐した祐也の処置をする。

「どうしたんですか?」
「祐也が香水が気持ちが悪いと言っていました」

ヴィヴィアンは訴える。

「それに、私達は来たばかりですけど、その前から、祐也に食って掛かって……」
「食って掛かっていないわ‼私の家にホームステイしていた子がいなくなったのよ‼テレビで彼といたから、どこにいるのと聞いただけ」
「ほ、ホームステイさせてやっているって……その人は言いました。乱暴をして逃げ出した子供を探していると……」

苦しげに祐也は言うと再び、気持ちが悪くなったのか看護師が背中をさする。

「させてやっている?嫌だわ……それって、その子やその家族に恩を押し売りするの?」

ヴィヴィアンに、ウェインは下に隠れていた紅を見つけ、

『紅?何かされたの?』
『……英語ができないのを……馬鹿にされて、これだからイエローはって。人の物を盗るからやめてって言ったのにやめてくれなくて、けんかになったら、一方的にこのおばさんに罵られた……』
『向こうからやったんだよね?』
『うん。差別用語も言ったよ。自分達は偉いんだ敬えって言った‼それと……』

うわぁぁん……

泣き出した紅を抱き締め、ウェインは、

「貴族階級だから?奉仕をしてやってるから?偉いんでしょうか?やってると考える自体が、愚かだと解らないのですね。すぐに、紅の学校を通じて、紅のホームステイ先を貴方から私の家に移しますよ。確か、子爵家の方でしたか?地位は、行動を起こしてこそであり、他の人を蔑む材料にはなり得ませんよ。そんなに自分が偉いのなら、女王陛下に、世界に自分が外国の少女に行った虐待や、差別をお伝えすれば良い‼」
「ま、まぁ、同じ貴族階級の……」
「貴族としての責務を果たさないそちらと一緒にされたくはないものだ。帰ってくれ‼後日正式な謝罪を求める。そして本日中に、紅の荷物を一つも欠けず、私の屋敷の者に渡して頂く。足りなければ……」
「私達がとったとでも?」
「その言葉で良く解るよ。紅は片言の英語で、身ぶり手振りで話す子だ。一生懸命の子に、嫌がらせをしたんだね。最悪だ。さぁ、帰ってくれ‼祐也も具合が最悪だ‼」
「ちょっと待って頂戴‼」
「すみませんが、患者さんの体調優先です。出ていって下さい」

看護師は追い出した。
そして、ウェインは、

『紅。こちらにいる教官の連絡先は?』
『で、電話……』

差し出された電話を受けとる。

安部あべさん‼又貴方は‼』
『すみません。始めまして。安部紅あべくれないさんの学校の教官ですか?私は、紅のお兄さんの友人のガウェイン・ルーサーウェインと言います。実は、紅のホームステイ先の家族が、紅が英語を話すのが苦手だと解ると、嫌がらせに差別用語や、自分は貴族で偉いからと言っていたそうです。そして、物をとったり、返してと言った彼女に暴力を。ですので、私の家でホームステイと言う事で構いませんか?』
『えっ?で、ですが決まりが……』
『紅は今、こちらで事件にあった兄の祐也の看病もしてくれています。祐也は、半年の間留学予定です。こちらは、紅を歓迎します。ですので、決まりよりも、祐也と紅のために、お願いします』
『……解りました。では、よろしくお願いいたします』
『はい。こちらの連絡先をお伝えしておきますので、よろしくお願いいたします』



紅ちゃんは、ちゃんとウェインの屋敷に滞在できるようになったのだった。

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