現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第64話、結納は、お座敷ではなく、穐斗の部屋で。その準備です。

早めに結納をと、醍醐だいごは言っていたこともあり、翌日、手配していたものが穐斗あきとの部屋に運ばれ、再び、風遊ふゆは、また別の着物を着せられる。

今度は白無垢のように純白の着物に、金糸銀糸の刺繍とこれ又豪華な着物である。

「えろうべっぴんはんの、花嫁御寮はなよめごりょうはんやなぁ……」

紫野むらさきのは感心する。
標野しめのは駆けつけたかったのだが、風遊の実家の事件もあり、残っている。
本当は、ただすも着物を用意してもらっていたのだが、大事をとってワンピースである。

「本当にだんだん……ありがとう。紫野さん」
「さきでかまへんよ?もう一人はシィ。家族になるんよ。楽になぁ?」
「……嬉しい。昨日は本当にだんだん……うちは……末っ子やったし……上の兄ちゃんや姉ちゃんにとろくさい、かわいない言うて……」

帯を締めて貰いつつ、

「兄ちゃんは田舎はいやや言うて出ていってしもて、姉ちゃんも高校を、町に出て結婚してなぁ……。うちは、父さん、母さんがかまん言うてくれたんで、留学したんよ。でも、生活費とかは迷惑かけられんって思って、ドイツとイングランドで働きながら、テディベアの勉強したり、ハーブやパワーストーンとかな。うちは、帰るつもりやった。テディベアは田舎でも作れる。ハーブも勉強したら、農薬を減らしたり、都会に出荷してもろて、料理とかにも使える。うちは畑仕事をしながら、ポプリ作って、お父さん、母さんとおって、見合いでもとおもとったんよ」

悲しげに目を伏せる。

「バイトでねぇ……イングランドのある俳優さんの、マネージャーとまではいかんのやけど、お手伝いに雇われたんよ」
「へぇ……どないなひとでっか?」
「うん……」

名前を聞き、紫野も、糺もぎょっとする。
現在イングランドでも指折りの名優である。

「その人の車で移動の時に運転したり、食事とかの手配とかもしてねぇ……お部屋ももらって住みこみ。同じ年頃の娘さんもおったし、娘のように可愛がってもらってねぇ……あと一月で終わりやと思って、おもいよったら、ある日、その家に、お客さんが来てなぁ……一目見て嫌いや思た。遊び人で、何人もの女性に囲まれとって、顔は整っとるけど、根性は整ってない……ひねくれとる、気持ち悪っ思って、最低限の会話だけして逃げたんよ。そしたら、自分の部屋に戻ったらおって……逃げられへんかった……」

頬を伝う。

「そこの家の人は、うちが媚を売るようなんじゃないってわかっとった。やけん、怒ってくれてなぁ……向こうのお父さんとお母さんもいい人で、うちよりも年上のモルガーナいう娘さん以外にも、認知してない子供がぎょうさんおるその男を廃嫡にする‼言うてくれたんよ。でもなぁ、あの男は、うちを嫁にする。これから真面目にする‼言うて……ご両親は許して……でも、正式に結婚しとらんかった。それにうちは穐斗がおるって解ったとき、堕胎は絶対に考えんかった。父親はあの男やけど、うちがちゃんと育てて見せる‼うちは母親や‼って」
「風遊はんは強いなぁ……普通、嫌な男の子や、堕胎しても文句いうんはおらんよってに……」
「意地でもあったんよ。この男の言いようにさせるか‼絶対にうちは、この男と別れて、この子と幸せになって見せるって……そうしたら、義理の娘にはなるけれど、二つ上のモルガーナは、お祖母さんになるうちの義母が白魔女で、跡をついどって……で、うちは必死に教えてもろたんよ。で、穐斗が生まれた時に、あの男……『へぇ、じゃぁ妖精の城につれていかないかん』言うて……本当にどこかにつれていこうとしたんよ。やけん……慌てて、穐斗抱いて、お世話になったお屋敷に逃げて、あの人が穐斗の名前をつけてくれて、帰ることができた……。夏樹なつきも野生児同然で、これじゃぁいかんと思って……それやのに……」

紫野はハンカチでそっと拭う。

「でも、今はどうや?」
「う、嬉しいです……」

顔をあげ息子そっくりの微笑みを向ける。

「さ、最初はビックリしました。穐斗もおるし、それにこんなおばちゃんにって……でも、醍醐さんは、本当に優しくて暖かくて……怯えるだけだった私に、傍にいると……一緒にてを繋いでと言ってくれて……」
「あれ?大好きだとか、なかったんかなぁ?醍醐はもっと……」
「兄はん。あてのお嫁はんになるおひとに、根掘り葉掘り聞くもんじゃありまへん‼」

現れた紋付き袴の醍醐は着物に慣れているらしい。

「風遊はん?もうあてがおるんやさかい、変態は忘れなはれ。といっても、家には変態あにはんが二人おるんや……大変でっせ」
「醍ちゃん酷いがな‼誰が変態や」
「兄はんらに決まっとりますやろ、着替え終わったらしっしっ!離れなはれ‼あての風遊はんや‼」
「うわぁ……にいはんら、醍ちゃんの心の狭さ知ったわ……」
「かましまへん‼あての風遊はんは減る!」

その一言に、風遊と糺は顔を見合わせ笑い、兄弟は言い合いを続け、嵐山らんざんの一喝が響いたのだった。

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