現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第56話、ウェインは祐也の出生について、紅に聞かされました。

イベントの会場は騒然となる。
ヤードとともに、倒れたままの祐也ゆうやを病院に運ぶため、すぐに先程の車が戻り、運び込む。

『ゆうにいちゃん‼ゆうにいちゃん‼大丈夫だよ‼ゆうにいちゃん‼』

泣きながら血の気の失せた兄の腫れた頬を撫でる。

ウェインは電話を掛け、病院と実家、そして会場の主催者に伝える。
そして、

くれないちゃん……』

テディベアを握る手が震える。

『ウェインさん……あのさっきの人な?ゆうにいちゃんのほんとの父親なんよ』
『はぁ‼父親?でも、ご両親……』
『うちの父さんの妹さんが母親。やけんね、血筋からしたら、従兄弟。でも、戸籍上は兄弟なんよ』
『……養子縁組?』
『うん』

紅は、俯く。
隣に座り、何かあったときにと思っていたウェインに、

『さっきの取材陣……ほんとは昔にちゃんとしとかんと……しておかなくてはいけないことを、ようやく調べてくれたんよ。あのおっちゃん、エリート官僚で揉み消したから。あのね?ゆうにいちゃんの国籍はカナダ。父親が外交官僚で、外国を転々としてた。おばちゃんは東京で、あの人に逢って、子供ができたから結婚。で、ついていくことにしたんよ。向こうの親が冷たくて、いいとこのお嬢さんと見合い話をいくつか用意してたから、「堕ろせ」とも言われたんだって』
『なっ……‼』
『でもね、結婚して、着いていっても、暴力は振るうし、酔っぱらって悪態……それに、外国でしかも、自分の夫がこうです何て言えなくて……で、離婚することになって、連れて帰ろうとしたら取り上げられたんだって。それから、気に掛けながらもいつかは迎えに行くって働いてたら、優しい人と出会って結婚。息子を引き取るって電話を掛けたら、そのときはオーストラリアで、向こうも再婚してて……電話が切られたんだって。手紙を送ってもダメで、うちのお父さんに、相談に来たの。叔母さん、妊娠してたから』

ウェインは背中を優しく撫でる。

『お父さん、行ってみたら、あの人と再婚さんとその人の子供が、いたのに、ゆうにいちゃんだけがいなくて……『どこ行ったんぞ‼』言うて問い詰めたら、『知るか』って、慌てて警察に駆け込んで、探してもらったら、首都から反対側の小さい町に、ヒッチハイクでいっとった。お金も貰えずに、電話も手紙もダメで……家族に暴力受けてて……怯えてた』
『……‼』
『お父さんが訴えて、おばさんの家にもし連れて帰っても怯える。私やお兄ちゃんや、ひめのいる……お母さんも何でもコーイの人だから、大丈夫って、国籍は成人してから決められるけど、『自分の子や、二度と会わせるか‼』って連れて帰ったんよ。最初は怯えてて、でも外には出られないゆうにいちゃんを、庭で遊ぼうって、で、ちょっとずつ、学校にも行きはじめて、でも、あまり深く人と付き合わなかったゆうにいちゃんが、『転んだから連れてきた‼』ってあきちゃん連れてきて、それから変わってきたのに‼』

ポタポタ……悲しみか喜びか……祐也の頬に落ちる滴。
その温かさに、ウェインはポッと胸に温もりを感じる。
この少女の優しさに……祐也と穐斗あきとの運命の出会いに……。

『あきちゃんが病気だって聞いてビックリしたし、それより前に、ゆうにいちゃんが、なんにも悪くないのに、あのMEGメグのせいで大騒ぎになって、お父さんたちも、あきちゃんの家にいるって安心していたら、ゆうにいちゃんの電話番号をあの人がどこかから手に入れて、脅したんよ。『お前は恥をかかせる気か‼こっちにこい。揉み消してやる』って。何が悪いの?揉み消すって自分の都合のいいことでしょ?ゆうにいちゃんの何が悪いの?』

しゃくりあげる少女を抱き締め、ウェインは、

『大丈夫だよ。紅ちゃん。絶対に悪いようにしないよ‼揉み消したりもさせない‼』
『でもっ!』
『これ以上、祐也も穐斗も辛い目に遇わせないよ‼絶対に。これは、僕の約束だ』
『……ありがとう……。ウェインさんが一緒で良かった……』

紅の泣きながら笑うそのくしゃくしゃの顔が、なんていとおしいんだろうと胸の中の蕾がひとつフワッと開いたのを、ウェインだけが知っていた。



病院に運ばれた祐也は、後頭部を強くではないものの打ち、そして、殴られた際の口の中の傷と、掴み掛かられた際に爪でえぐられた首と胸の傷があり、全治2週間と診断を受けたのだった。

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