現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第38話、こっちにも送られたようです。

「はぁ?シィさん、又何のいたずらや」

日向ひなたは呆れたようにため息をつく。
長距離飛行機の中では一時的に使えないときはあっても、無料の無線が繋がっており使えるようになっている。
タブレット、パソコン、スマホを持ってきていた日向に、動いていた祐也ゆうやが、

「どうしたんですか?」
「いや、さきさんとシィさんに無理矢理番号交換させられてなぁ。って、ゲッ!容量が大きいもんが‼」

送られてきたものに、ウイルスがないか確認後、

「無料のこのときで良かったわ、って、なんや。『お前も、これくらいいうてきぃや~』って、ムカつくわ‼」

言いながら操作をすると、映像が流れ始める。

「……あ、そうか、プロポーズが行きしなやったしなぁ……」
「はぁ、かっこいいですねぇ……あぁやって言い切るところ、羨ましい。俺は見た目ばっかりで……」
「19のお前が、言うな。俺だって20才やぞ?愚痴るし、スゥとも喧嘩ばっかりや」
「えぇぇ?そうなんですか?」

意外と言いたげな祐也に、日向は、

「幼馴染みやって言っても、育ちが違うやろ?それに、最近になって……いや、ほたるまつりに言ったあとからやなぁ……俺の方がなんか、馬鹿らしなってな。と言うか、俺は年下なんが悔しいて、旦那だ~‼言うて言いたくなるし、でも、スゥにとっては、俺は年下ってのはほとんど関係ないんだ。ただ、男だから女の自分が言うことを聞けとか命令してほしくない‼昔の怖がっていた自分に戻りたくないって言うのがあるみたいで……その頃は、原稿の締め切りが続いてて喧嘩も多かったな。離婚までは考えなかったけれど、スゥは自分の部屋にとじ込もって泣いてたときもあったし……」

思い出すと辛いと言いたげに表情を曇らせる。

「でも、あのほたるまつりの後で、泊まらせて貰ったときに、スゥが……言ったんだ」
「スゥ先輩がですか?」
「あぁ。『あのね、風遊ふゆさんが言ってたんだけど、ほたるはおすが光を放って、恋人を探して、そして、命を残して死んでしまうんだって。私は、ひなちゃんが探してくれて、一緒にいようって言ってくれて、本当にうれしいなぁって思うの。蛍みたいにキラキラした光とは違うけど、ひなちゃんは私にとって本当にそばにおりたいなぁって思う暖かいひなたみたい』……ってな……すまん。のろけるつもりはなかった」

照れを隠したかったのか、眼鏡の位置を直すしぐさをする。

「良いじゃないですか。先輩達ももどかしかったんですね。あのとき一緒に見たほたるも、きっと喜んでいるんじゃないですか?」
「そうだと良いが……それよりも、電話してきたんだろう?どうだった?」
「あぁ、いえ、一応繋がったんですが、何か、あのモルドレッドと、日本にいられなくなったMEGメグ穐斗あきとのあの父親が、イングランドでめちゃくちゃやり玉に上がってるみたいです。日本にもいられなかったし、イングランドに戻ったらパパラッチで、ガウェインと、モルガーナさんとは話ができました。ガウェインが自分の領地に行くから、空港で待ってくれるそうです」
「領地って、ランズエンドに近いところか?」
「そうですね。地図によると……」

地図を広げ、ロンドンを示したあとランズエンドをしめすと、

「この辺り……あぁ、ここですね」
「はぁ、ロンドンから離れているんだな」
「ロンドンは好きじゃない。そういってました。ごみごみしていて嫌だったそうですよ?」
「ふーん……アルビオン?」
「イングランドの事ですよ。古い国名ですね」

祐也は、告げる。
日向は心の中で舌を巻く。
表向きは従順な大型犬っぽいが、腕っぷしだけでなく、頭の回転も早いし記憶力も良い、言葉も何ヵ国語もしゃべられる。
オールマイティな人間である。
大学でも秀才と言われていた日向も醍醐も、実際、この年下の青年に敵わないことが多い。
ただ、別の意味で叶わないのは、穐斗との関係……どうみても、言っては悪いが、同性に好かれる要素は多いが、本人自体が同性を好きになる要素がない。
ただ、物書き業の妻を持つ夫としては、時々、

「かけないぃぃ~‼ほたるは触れたけど、虫は無理~‼ひなちゃぁぁん‼虫って足何本~‼」
「なんのだ?」
「揚羽蝶の幼虫‼」
「そんなの知るかぁぁ‼触手と言うか、芋虫って書いておけ‼」

と言い合いをしたばかりのため、

恋人を見つけた蝶が祐也で、まだ幼い幼虫のフニフニがムグムグとタチバナ科の木の葉を食べている……それを言うと糺は『気持ち悪い~‼』と半泣きになるのだが……の穐斗をサナギになるまで待って、蝶に羽化するのを待っているように見える。

「そういえば、揚羽蝶のサナギは……」
「永遠を意味しますね。確か。生まれかわりや、何度も転生するとも……どうしたんですか?」
「……最近お前の記憶力のよさが、羨ましいと言うより腹立たしい……」
「えぇぇ?わ、悪いことしましたか?」
「いや、一瞬殺意が芽生えただけだ。それと、そのタチバナだが、醍醐のご先祖の姓だ」
右近うこんたちばな左近さこんの桜。昔は、桜ではなく梅だったそうですね。紫宸殿ししんでんの前に広がる庭に……」
「そう。奈良時代の4つの姓のひとつと言われていたが没落した……」

二人は、あれこれと話しつつ、仮眠をとったり、食事をしたりして、飛行機の旅を続けたのだった。

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