現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第31話、祐也は約束の代わりに、気持ちを込めました。

飛行機の到着時間はかなり余裕があり、病院に向かいガーゼを取り除いたあと、昼食を摂りに、穐斗あきとの主治医のいる大学病院から一旦、少し戻ることになるが、大型ショッピングセンターに向かった。
うつらうつらする穐斗は祐也ゆうやの隣に座り、食事と言っても、スープを飲ませる。
反対側は、もじもじする風遊ふゆ醍醐だいごが並んで座っていた。
ちなみに、日向ひなたは、

「醍醐のデレ顔が気持ち悪い」

と隣の席で、ネットの操作をしている。

「穐斗?飲めるか?」
「う~ん……祐也?」

口のなかをモグモグさせ、ようやく目を開ける。

「ここは?」
「ショッピングセンター。これから空港に行くんだ」
「えっ?どこか行くの?」
「ひな先輩の取材同行。俺は通訳。それに醍醐先輩のお兄さんが来るから迎えもある」

半分ぼんやりとしているものの、

「僕も行く~‼」
「ダメ。じいちゃんとばあちゃんとスゥ先輩がおるけん、残っとき」
「いやや~‼祐也と行く~‼」
「やけんな?穐斗。ほら、見てみ?母さんと醍醐先輩。先輩プロポーズしたんや。その事もあるけんな?醍醐先輩のお兄さん達が来るんや。母さんの息子として、ご挨拶せな、いかんやろ?」

コンコンと言い聞かせる。
すると、ニコニコと醍醐が、

「私の兄たちに、『叔父さんこんにちは』でいいですよ。穐斗くんよりも10才上の大人げない叔父さんですから」
「え、えぇぇ?10才……叔父さん……僕、このまんまでいいですか?先輩。あ、お父さんもいいなぁ……」

えへへ、

と嬉しそうな穐斗に、

「そ、それよりも、どないしよう……こ、こんなおばさんに……この格好でかまんかったやろか」
「おかしくないですよ。あ、そうでした。少し時間ありますよね」



食事を終えて、5人がやって来たのは、

「はぁぁ‼ほ、宝石店‼何で‼」
「正式な婚約指輪は今度。ネックレスでもと思ったので」

にっこり……

名家のお坊っちゃんである。
特に、兄により迷惑ばかり、そのぶん自立した末っ子に両親は、自由にしなさいという言葉と共に、ある程度の財産を渡している。
日向と共に、株を勉強し、日向夫婦ほどでは無いものの、財産はある。

ちなみに後日、結納の際に記載された財産に腰を抜かす風遊とその両親であった。

「うわぁ……すごいなぁ。俺はこういうとこ初めてや」

祐也は周囲を見回し、店頭に並ぶ金額を見て絶句する。

「月収3ヶ月‼これか‼」
「ん?あぁ、それは石が。それに指輪はデザインがな」

日向は横で呟き、

「それに、祐也。あの裁判の結果じゃ、お前相当の額の慰謝料が入るぞ。投資とかだけじゃなく、地域の活性化もかねて、何ならふるさと納税とかで家のある町に税金を納めることもできる。大原おおはらさんに教わっておけよ。俺も、教えるけどな」
「本当ですか?わぁ、なんか、先輩にすねかじってばかりですね、俺」
「うわぁ……可愛い」

祐也の横で、目をキラキラさせてガラスケースを見つめている穐斗。
見ると、祐也でも手が出るような、可愛らしいデザインの指輪とネックレスのセットである。
店員の女性がニコニコと微笑み、

「これは実は、最近流行のレジンという方法で作られたものなんですよ。クリスマスバージョンは売り切れたのですが、星空と小さなお家のバージョンなんです。プラチナで出来ていますけれど、もう最後なので、このお値段なんです。セットにされると、もう少しお安くなりますよ。チェーンも長いものもお付けしておきます」
「ヘェ……じゃぁ、これ、セットでください。指のサイズは……この子と同じサイズなんですが」

穐斗を示し、店員は、サイズを図ると、

「あら、丁度良いサイズのがありますわ。では……」

と、支払い、包みをいれた袋を持つと、出ていく。
日向は中に残っている為に、二人ですぐ近くのベンチに座ると、

「はい。これ持っといて」
「えぇ?いいの?だって、他のよりも安いけどそこそこ……」
「ちょっといってくるけど、ちゃんと戻るけん。待っといて。俺にはこれは、星空がほたるの乱舞に見えたし家は田舎の家に見えたんよ。町の実家も家やけど、俺の家は、じいちゃん達や、穐斗がおる家やけん。心配せんでエエ」
「……う、うぇぇぇ……」

半泣きどころか大泣きする穐斗に、頭を撫でる。

「……僕の、病気のこと、調べに行くんやろう?祐也……ごめんね。ごめんなさい……」
「何で謝るんで」
「僕の病気……知られたなかったけん……嫌われたくなかったけん……言わんかってごめんなさい。やのに……」

しゃくりあげる穐斗に、

「俺やって、隠しとったやろ?親友やって言うても、言い出しにくいもんだってある。俺は気にしてないで。それよりも、俺は、穐斗が大事やけん。病気をなんとかできんか考えようと思とるんよ。穐斗は俺に大事なことを教えてくれた。じいちゃん達に会わせてくれた、田舎のこと、綺麗な空、ほたる、薪で焚いたお風呂に、ほりごたつのなかのほんのりと暖かい炭の熱……本当にちょっとしたことやと思う。でも、そのほんの少しが俺の心に積もっていって、苦しい辛いものを消していってくれる。穐斗は俺にとって、大事な大事な帰るところや。やから、残っといて。待っといてや」
「うん……うん‼……でも……」
「でも……なんや?」

促すと、えへへっと笑い、

「僕が女の子やったら、プロポーズやのに、残念やね。祐也」
「ほんとやな……というか、穐斗が嫁になれ」
「うーん。似合わんで?白無垢。それよりも母さんに着せてあげたい‼」
「そやな。あ、それに、聞いたんやけど、スゥ先輩も結婚式してないんやと」
「じゃあ、母さんと、先輩の式やね」
「それまでには帰るけんな?待っときや」



小さい小さい指輪は、短いチェーンで穐斗の首に、長いチェーンで、ネックレスのトップを通したものを穐斗が祐也にかけたのだった。

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