現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第29話、穐斗の生まれついての疾患について、知ることになります。

穐斗あきとは‼」

母屋に駆け込んだ二人の前で、ほりごたつに入り、ぐったりとしている穐斗を見つける。

「すみません。ぐったりする前は、明日は向こうの病院にはいけないけれど、事情を説明して、鼻のガーゼを取って貰うんだと言っていたのですが……」

普段はおっとりしているように見えて、だいぶん図太い醍醐だいごも顔色が悪い。

「病院に‼」
「いかんのよ……」

細い声が響く。
ただすに支えられつつ、現れた風遊ふゆが涙を流す。

「倒れるたんびに、病院に行っても、異常がないと言うよりも、クラインフェルター症候群とかいう病気や言うて……でも、うちのせいかと、なんぼ検査しても異常はない言うし、クラインフェルター症候群や言われても、穐斗自体の染色体って言うんは、おかしいことはないんよ」
「クラインフェルター症候群って……」

日向ひなたはタブレットを操作し、出して見せる。

「えっと、『通常の男性の性染色体は「XY」だが、これにX染色体がひとつ、もしくは複数多くなり「XXY」等になる。姿は男性。第一次性徴までは普通の男児とさほど変わらないが、第二次性徴から胴体の成長は止まり、華奢で手足の長い細身の体型となる』……」

祐也ゆうやの声を継いで、醍醐が、

「『声変わりしない。筋肉がつきにくく、運動能力が低い、体毛が薄い、体が弱く、病気がち、気管支と心臓の病を抱えることが多い』……と言っても、まぁ、穐斗くんはほとんど当てはまるかもしれませんが、検査をしても、これではないと言われたのでしょう?風遊さん」
「うん、でも、アンドロゲン不応症でもない、ターナー症候群でもない、原因不明やって……」

泣きじゃくる風遊に、タブレットを借りて英語等の専門の論文等を読んだりと操作をしていた祐也が、

「なぁ、母さん。ここには、なんか、母親側に保因者ほいんしゃ言うてほとんどが書かれとるんやけど、母さんは健康な女性やん。これ、この類いの病やないわ。父親側の病気やと思うで」
「えっ?」

今までずっと自分を責めてきたのだろう、風遊は呆然とし、ふらっと倒れ込む。
醍醐が慌てて支え、

「風遊さん‼風遊さん‼」
「だ、だんだん……醍醐くん……祐ちゃん。うちのせいで、穐斗……」
「違うわ、絶対。やってなぁ……」

黙ったまま座り込み、項垂れている風遊の両親を見て、

「じいちゃんもばあちゃんも健康やし、元気やんか。ほれにもし、母さんがそんな重い病になるもんをもっとったら、その前のじいちゃんやばあちゃんも体が弱かったり、この年で寝たきりになっとるんか?なってないやろ?それに、ここの回りのじいちゃんばあちゃんみとうみや。みんな元気やんか。そんな中で、穐斗だけ病気って言うんがおかしいんよ。向こうには連絡とったんか?母さん」
「う、ううん……時々、モルガーナに電話や手紙は送るんやけんど……こおうて……」

ボロボロと涙を流す風遊に、

「連絡したら、向こうのご両親はいい人らなんやけんど……厳格なイングランド貴族やし……そんな所に、穐斗のような病をもって生まれた言うたら、殺されたり……まではのうても、領地に連れていかれたら……うちは、穐斗を苦しめとるんやろうか‼うちがあっちにだまっとったけん……穐斗は……」
「それも違うと思うんやけど……風遊さん」

糺は、おっとりと告げる。

「関係ないかもしれんけんど、うちなぁ……一応ええとこのお嬢さんやったんよ。でもなぁ、男兄弟ばっかりの一人娘やったけんな。毎日毎日、両親には女の子として、年長者を敬え、兄を敬え、男をたてろ、兄弟の命令ばっかりやったんよ。でなぁ……もういやや~‼おもてたら、近所に1つ下のひなちゃんがおったんよ」

夫を示す。

「最初は、兄弟みたいに怒鳴ったり、殴ったりかとおもとったら、スカート姿で、二階から飛び降りようとしとったうちに、『逃げるんやったら、こっちに回って僕んちの屋根からどうぞ。窓開いてますよ。僕の部屋です。隠れてていいですよ』言うて。で、よぉ隠れにいったんよ。ばれても、ひなちゃんとこにいったらかまんわ~言う感じで。で、大きゅうなったら、ええとこのボンと縁を結ぶために言うて、お見合い結婚にまっしぐらや。いやや~‼思うて、ひなちゃんとこに逃げて、そのまんま結婚してとんずらよ」
「とんずらはやめぇや。一応駆け落ち言わんか?」
「えぇんよ。どっちもおんなじや。で、今はまだ子供おらんけど、出来たら、風遊さんみたいなお母さんになりたいわ。あきちゃんなぁ。よぉいよったんで。『僕のお母さんは、世界で一番なんよ‼大好きなんや』言うて。うちも、ひなちゃんも両親に恵まれんかったけんなぁ、うらやましいなぁって。で、ほたるまつりんときにおうて、わぁぁって思たもん。向こうに帰ったら、あんなお母さんになりたいって。そしたら、風遊さん。来るたんびに、うちの娘や言うて……嬉しかったんよ‼」

糺はにっこり笑う。

「やけんね?お母さんのせいじゃないんよ。責めたらいかんよ?あきちゃん悲しむで?なぁ、ひなちゃん」
「何や?」
「あきちゃんは寝とかんといかんし、お母さんやおじいちゃんたちはここにおらないかんけん。パスポート持っとるうちと、ひなちゃんでイングランドいかん?」
「却下‼」
「えぇぇ‼なんでぇ?」

頬を膨らませる糺に、日向は、

「俺と、祐也で行くわ。俺もある程度はしゃべれるけど、祐也ほどは無理や。スゥは、お母さんらとおり。醍醐頼むわ」
「え、えぇ。解りました。私もある程度は……」
「真剣は出すなよ」



日向と祐也は、ある程度の準備を整え、旅だったのだった。

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