異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第三百十四話 0と1の世界③

 コロニーは巨大な建物が並んでいる。しかし、その建物すべてに、誰一人として人間は住んでいない。生きた心地のしない空間、とでも言えば良いか。そういった空間が広がっている。

「人は居ないように見えるけれど……カメラのようなものはたくさん動いている……?」
「恐らく、防衛システムのようなものだと思いますよ」

 ロマ・イルファの言葉にメアリーは答える。
 メアリーもすべてを知っているわけではない。彼女の知識の中から、恐らくこうではないか、という仮定を導き出しただけに過ぎない。
 メアリーの話は続く。

「ヤルダハオトの話だと、ここはコロニーだと言っていた。たぶん、恐らくですが……かつてはたくさんの人間がここで住んでいた。けれど、何らかの原因で皆居なくなってしまったか、或いは自然に衰退していった……。防衛システムだけは、永遠に動き続けているのでしょう。主の居ない、このコロニーを守るために」
「さすがはメアリー・ホープキン、といったところか。あのリュージュの娘なだけはある」

 ヤルダハオトもまた、彼女たちの会話を耳にしていたらしい。
 ヤルダハオトはコロニーの中心部にある巨大な塔を指差した。塔は球体の天井まで伸びていて、青い線がところどころ光って浮かび上がっているデザインになっている。

「あれは管理センターだ。このコロニーの要であり、最重要施設と言っても過言では無い」
「最重要施設……管理センター? ……いったい何を管理していたの……?」
「一つはこのコロニー全体の防衛システム。そしてもう一つは……実際に見せた方が良かろう」

 ヤルダハオトはまた移動を開始する。
 ホバークラフトもそれに併せて移動し――管理センターと呼ばれる場所までやってきた。

「流石にホバークラフトで行けるのもここまでかしらね」

 メアリーはそう言ってホバークラフトを降りる。
 ロマ・イルファも無言で肯定し、後を追いかけた。
 既に管理センターの入り口の扉は開かれており、ヤルダハオトが入った後だった。
 そこにあったのは、巨大なコンピュータだった。

「ついにここまで来たよ、イヴ。長かったね。……君が脳の電子化を提示して、それを実現して、精神世界と融和して、一つになって、君は『多数』になった。多くの人類を救うために、君はその犠牲……否、実験体になった。その結果が、これだ。やっと僕たちの暮らすことの出来る世界を、ここから始めることが出来る。世界を、ここからやり直すことが出来る」

 ヤルダハオトはコンピュータのキーボードを撫でながら、独りごちる。
 そして、メアリーとロマ・イルファが到着したことに気付いた彼は、ゆっくりと振り返った。

「……やってきたね、二人とも。これから見せるのは、この世界の根幹だよ」

 そして、ヤルダハオトはキーボードを操作する。
 すると、コンピュータの壁面――正確には、ヤルダハオトの少し横あたりにホログラムが浮かび上がった。
 それは一つの円盤のように見えた。いや、よく見ると円盤の上には建造物が幾つも屹立している。

「これは……都市?」
「数千年前に存在した、エルダリアという都市だ。この都市は人類最後の要として存在していた。理由は単純明快。人口問題と、食糧問題と、大気汚染の問題と……。ああ、単純明快と言ったのは嘘だ。取り消させてくれ。つまり、人類が抱える問題を一網打尽に解決するべく、人類が生み出したのがコロニーということだ」
「コロニーを生み出しただけで……問題を解決出来るの?」
「地上を破壊すれば良い。そして徹底的に管理した空間を生み出せば良い。ただそれだけの話だ。人間により汚れきった世界は破壊し、その天空には、徹底的な管理社会を生み出した。それがエルダリアであり、エルダリア人であり、その中には……ヤルダハオトの前の存在が居た。住んでいた、と言えるかな」
「それって……ただの殺戮じゃない! そんなことが許されるわけが、」
「許されたんだよ、かつての時代は。そして、それは老人が決めたことだ。老人が権力を握り、若者は力をただ奪われるだけの世界だった。勿論その仕組みはどの世界も一緒だったがね。面白いぐらいに、同じシステムになるとは思いもしなかった。やはり創造主の性格が滲み出るものなのかもしれないね」

 巫山戯ている。
 馬鹿にしている。狂っている。呆れている。
 ヤルダハオトが話していることは、メアリーたちの次元では考えられないようなことの連続だった。そんなこと有り得ない。出来るはずがないということを――ヤルダハオトが人間だった頃の人類は、成し遂げていたのだ。
 ヤルダハオトの話は続く。

「しかし、エルダリアにも限界はあった。そしてそれは老人達も気付いていた。だから若者に、研究をさせた。これから人類が永続的に発展していくためにはどうすれば良いか、プランを考えろ、と。素晴らしいプランを生み出した者には権力の一部を分与しようではないか、と」

 一息。

「僕はね、そのときある女子学生と合同研究をしていたんだよ。それが、脳の電子化。0と1で生み出された世界の構築だ」

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