異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百九十八話 聖戦、東京⑧
宇宙創造。
いったいリュージュは何を言っているのだろうか。きっとロマはそんなことを考えたに違いない。それは突拍子もないことで、まさかそんなことを考えているとは思いもしなかったのだろう。
ロマは、兄のバルト・イルファとともに『十三人の忌み子』として人工メタモルフォーズとして存在している数少ない個体だ。
そのため、リュージュは自らにとって親であり創造主であり――忠誠を尽くすべき存在であった。
「……そうすると、どうなるのでしょうか」
「何が?」
「その、複数の世界をぶつけると」
「ああ、そんなこと」
まるで赤子の手をひねるかのごとく簡単に。
リュージュはニヒルな笑みを浮かべて答える。
「先ず、世界に住んでいるすべての生命は死に絶えるでしょうね。そうして、そこから発生するのは無数の塵。そこから塵と塵がぶつかり、それはやがて大きな塊となり……一つの惑星を作り上げることでしょう。二つの世界をぶつけても、二つの世界が新しく生まれるとは限らない。一つしか生まれないかもしれないし、三つの世界が生まれるかもしれない。いずれにせよ、一つ以上の世界は新世界として爆誕することになるでしょうね」
「新世界……」
「ああ。もしかして、私たちも消失する可能性を考えているのかしら? だとしたら安心なさい。プログラムはきちんと『世界の外』に出てから発動させるから。いずれにせよ、私たちは既にあの二つの世界からは外に出た存在。常識なんてモノは通用しない。だから、それを宣言しておかないとね。あとは、あの神の剣を手に入れるだけの話」
「神の剣……って、シルフェの剣ですか?」
「そう」
リュージュは小さく頷いた。
「何度機会を窺っても手に入れることが叶わなかった、神の力が宿る剣。そして、剣の封印を解くために必要な杖と弓……それらを組み合わせることで出来る。だって普通に考えれば分かる話じゃない? ガラムドが封印したのは、世界に危険を及ぼす存在だけ? 必ずそれに対抗する術は封印していてもおかしくないはず。だってあのガラムドが漸く封印に成功して、それはいずれ解き放たれるものだと理解していたのよ。だから人間には過ぎた力を……敢えて残した。それは、神が与えたもうた試練なのよ」
神が与えた試練。
それは確かに間違っていないのかもしれない。
しかしながら、ロマは考える。
その過ぎた力を使うことで、どうして世界を滅ぼすことが、世界を新しくすることが出来るのか、ということ。
それを知るのは、リュージュだけだ。リュージュは秘密主義で、誰にも話をすることはしなかった。それは誰も信頼していないだとかそういうわけではなくて、昔からの彼女のやり方なのだ。
「……まあ、気にする理由も分からなくもない。しかし計画は既に最終段階まで突入している。あと僅かだ。あと僅かで……この世界の終焉を迎える。そのためには、この世界の人間に知らしめなくてはならない。さあ、頼むぞ。ロマ・イルファ。そのスイッチを起動してくれ」
そうして、リュージュは咳払いを一つすると姿勢を正した。
ロマはリュージュに言われたとおり、スイッチを押した。
それは、全世界のモニターへ発信される放送の開始をも意味していた。
◇◇◇
『この世界の皆さん、はじめまして。私はリュージュと申します』
街頭モニターに突如映りだしたその映像を見て、いったい何が起きているのかと僕は思った。バルト・イルファがメタモルフォーズ――ならばその力をぶつけてしまえば少しは効果があるのではないか、なんて藁をも縋る思いで考えついた作戦を決行しようと考えていた矢先の出来事だった。
そこにはリュージュが映っていた。リュージュは真っ直ぐとこちらを見つめていた。いや、正確にはカメラか何かの機械になるのだろうが。
「リュージュ……。あいつもこの世界にやってきているのね……!」
メアリーは歯ぎしりしていた。直ぐそばまでやってきているのに触れることが出来ない。攻撃を与えることが出来ないことについて齷齪しているのだろう。
そしてそれは僕も同じだった。しかし、同時にそれは一つの確信にも繋がった。
どこに居るのかも分からないけれど、リュージュは確かにこの世界にやってきている。
それはいずれリュージュとの戦いにも繋がるということを意味していた。
『お気づきの方も居るとは思いますが、私たちは別の世界からやってきた存在です。この世界に突如存在した獣……いえ、今は熟睡した状態となっています』
「熟睡……あれが?」
僕はリュージュの言葉に疑問を呈した。
確かにオリジナルフォーズは先程突如として立方体へと変貌を遂げた。それは変化というよりも、変身というよりも、変貌というよりも、別の何かに生まれ変わったような、そんな感じだった。
となると、リュージュはオリジナルフォーズがああなる可能性を知っていた、ということになる。それはいったいどうしてそうなったのか? 力を使いすぎたからか? それとも、逆にまだ力が足りていないから熟睡することにより力を蓄えることとしたのか? 後者であれば、それは逆にチャンスと言えるだろう。まだ全力を出し切れていない今だからこそ、攻撃することで弱体化させることが出来るかもしれない。
しかし、同時にそれは一種の賭けでもあった。もしその通りならば問題ないが、違ったら? それは一瞬として灰燼に帰す可能性すらある。僕たちがあっという間に負けるかもしれない、ということだ。だってオリジナルフォーズが全力を出したことによる攻撃を、僕たちはまだ受けていないのだから。
いや、受けるわけにはいかない。受けることでこの世界に被害をもたらしてはならない。急いで、オリジナルフォーズをどうにか処理しないといけないのだ。
封印、あるいは撃退。
それが僕たちに残された選択だった。
正確に言えばそれよりも前に、ルーシーをどうにかする方法を考えなくてはいけないのだけれど。
いったいリュージュは何を言っているのだろうか。きっとロマはそんなことを考えたに違いない。それは突拍子もないことで、まさかそんなことを考えているとは思いもしなかったのだろう。
ロマは、兄のバルト・イルファとともに『十三人の忌み子』として人工メタモルフォーズとして存在している数少ない個体だ。
そのため、リュージュは自らにとって親であり創造主であり――忠誠を尽くすべき存在であった。
「……そうすると、どうなるのでしょうか」
「何が?」
「その、複数の世界をぶつけると」
「ああ、そんなこと」
まるで赤子の手をひねるかのごとく簡単に。
リュージュはニヒルな笑みを浮かべて答える。
「先ず、世界に住んでいるすべての生命は死に絶えるでしょうね。そうして、そこから発生するのは無数の塵。そこから塵と塵がぶつかり、それはやがて大きな塊となり……一つの惑星を作り上げることでしょう。二つの世界をぶつけても、二つの世界が新しく生まれるとは限らない。一つしか生まれないかもしれないし、三つの世界が生まれるかもしれない。いずれにせよ、一つ以上の世界は新世界として爆誕することになるでしょうね」
「新世界……」
「ああ。もしかして、私たちも消失する可能性を考えているのかしら? だとしたら安心なさい。プログラムはきちんと『世界の外』に出てから発動させるから。いずれにせよ、私たちは既にあの二つの世界からは外に出た存在。常識なんてモノは通用しない。だから、それを宣言しておかないとね。あとは、あの神の剣を手に入れるだけの話」
「神の剣……って、シルフェの剣ですか?」
「そう」
リュージュは小さく頷いた。
「何度機会を窺っても手に入れることが叶わなかった、神の力が宿る剣。そして、剣の封印を解くために必要な杖と弓……それらを組み合わせることで出来る。だって普通に考えれば分かる話じゃない? ガラムドが封印したのは、世界に危険を及ぼす存在だけ? 必ずそれに対抗する術は封印していてもおかしくないはず。だってあのガラムドが漸く封印に成功して、それはいずれ解き放たれるものだと理解していたのよ。だから人間には過ぎた力を……敢えて残した。それは、神が与えたもうた試練なのよ」
神が与えた試練。
それは確かに間違っていないのかもしれない。
しかしながら、ロマは考える。
その過ぎた力を使うことで、どうして世界を滅ぼすことが、世界を新しくすることが出来るのか、ということ。
それを知るのは、リュージュだけだ。リュージュは秘密主義で、誰にも話をすることはしなかった。それは誰も信頼していないだとかそういうわけではなくて、昔からの彼女のやり方なのだ。
「……まあ、気にする理由も分からなくもない。しかし計画は既に最終段階まで突入している。あと僅かだ。あと僅かで……この世界の終焉を迎える。そのためには、この世界の人間に知らしめなくてはならない。さあ、頼むぞ。ロマ・イルファ。そのスイッチを起動してくれ」
そうして、リュージュは咳払いを一つすると姿勢を正した。
ロマはリュージュに言われたとおり、スイッチを押した。
それは、全世界のモニターへ発信される放送の開始をも意味していた。
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『この世界の皆さん、はじめまして。私はリュージュと申します』
街頭モニターに突如映りだしたその映像を見て、いったい何が起きているのかと僕は思った。バルト・イルファがメタモルフォーズ――ならばその力をぶつけてしまえば少しは効果があるのではないか、なんて藁をも縋る思いで考えついた作戦を決行しようと考えていた矢先の出来事だった。
そこにはリュージュが映っていた。リュージュは真っ直ぐとこちらを見つめていた。いや、正確にはカメラか何かの機械になるのだろうが。
「リュージュ……。あいつもこの世界にやってきているのね……!」
メアリーは歯ぎしりしていた。直ぐそばまでやってきているのに触れることが出来ない。攻撃を与えることが出来ないことについて齷齪しているのだろう。
そしてそれは僕も同じだった。しかし、同時にそれは一つの確信にも繋がった。
どこに居るのかも分からないけれど、リュージュは確かにこの世界にやってきている。
それはいずれリュージュとの戦いにも繋がるということを意味していた。
『お気づきの方も居るとは思いますが、私たちは別の世界からやってきた存在です。この世界に突如存在した獣……いえ、今は熟睡した状態となっています』
「熟睡……あれが?」
僕はリュージュの言葉に疑問を呈した。
確かにオリジナルフォーズは先程突如として立方体へと変貌を遂げた。それは変化というよりも、変身というよりも、変貌というよりも、別の何かに生まれ変わったような、そんな感じだった。
となると、リュージュはオリジナルフォーズがああなる可能性を知っていた、ということになる。それはいったいどうしてそうなったのか? 力を使いすぎたからか? それとも、逆にまだ力が足りていないから熟睡することにより力を蓄えることとしたのか? 後者であれば、それは逆にチャンスと言えるだろう。まだ全力を出し切れていない今だからこそ、攻撃することで弱体化させることが出来るかもしれない。
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いや、受けるわけにはいかない。受けることでこの世界に被害をもたらしてはならない。急いで、オリジナルフォーズをどうにか処理しないといけないのだ。
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