異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百七十三話 虹の見えた日③
「……分かった、って。いったい何を」
「私が、この戦争で与えられた役目」
ひどい寒気がした。
目の前に立っている風間一花という少女は、とっくに別の存在になってしまっているのではないか。そんなことを思わせてしまうほど、彼女は変貌を遂げていた。
さらに、一花の話は続く。
「このままじゃ、みんな死んじゃう。いくらどれくらいの人が避難していようと、あれを避けることはできない」
まるですべてを知ったような口調だった。
「まるで知ったようなことを言っているが……?」
ストライガーが漸くこの話題に噛み付いてきたと思っていたが、どうやら彼女も同じく疑問を抱いているようだった。
しかしながら、そのベクトルは僕とは違う。
僕は一花を信頼している前提でその話を聞いているのだとすれば、ストライガーは別だ。
つまりは一花を敵と疑っている。
普通に考えてみればそうなるのは至極当然なことだ。だからと言って、否応無しにそう断定するのは宜しくない。何しろ、今の一花だけでは敵だと断定できる証拠が一切無いのだから。
「私は敵ではありませんよ、ストライガーさん。ずっとあなたがそう疑り深いことは分かっていました」
先手を打ったのは一花だった。
彼女は先ず、ストライガーにそう言い放った。
ストライガーは何故そんなことが分かったのかと一瞬狼狽えたが、直ぐにその意味を理解した。
「成る程。あなた、『声』が聞こえるのね? 先天性か後天性かは知らないけれど、その力は神か神に認められた者しか使えない力のはずよ。いったいあなたはどうやって……」
「いつからかは分かりません。けれど、気付けばこの力を使えるようになっていました。……そう言えば、納得していただけますか?」
出来るか出来ないかで言われると、やはり難しいものがあった。
とはいえ、今の二人の会話にすら僕はついていけていない節がある。専門用語を捲し立てて話しているからいったい何なんだ、と困惑しているのが現状だ。何かの暗号なのか?
「力は簡単にいえば、他人の心の声が聞こえる力のことだよ、お父さん」
そして一花は、僕の『声』を聞き取ってそう答えた。
他人の心の声。
それが聞こえてくる。それが一花の持つ力だという。
けれどそんな力はいつから持っていたのだろうか? いつ手に入れたものだったのか。
「いつからかは分からないけど、たぶんきっかけになったのはあの時の夢」
「あの時……ってことは、預言を託された、あの?」
こくり、と一花は頷く。
となるとつい最近もいいところだ。せめて相談してくれれば、何か助けになったかもしれないのに。いや、ならなくたっていい。不安を抱え込んだままだと、確実に精神が汚染される。だから気持ちだけでも吐き出してくれればよかったのに。
「預言……だったのかな? あの夢を見てからずうっと頭の中で声が響いてきて。それが誰の声だか分からないの。男の人だったり、女の人だったり、子供だったり、老人だったり。泣き叫ぶ声も聞こえて来れば、怒号も聞こえてくる。優しい声も聞こえて来れば、悲しい声も聞こえてくる。けれど、今の私にはそれに応えることも出来ないし、その声を聞かないでおくことも出来なかった」
「栓をすることは出来ない、ということなのか」
「出来ますよ。けれど、それは充分に特訓を積まないと難しい話です」
一花の代わりに答えたのはストライガーだった。
「そもそも使徒も全員が全員その力を使えるわけでは無いのですが、私はなぜかその力を分け与えられました。ほかでもない、キガクレノミコトから。……今思えば、その時すでにキガクレノミコトは自分の死期を悟っていたのかもしれませんね。まあ、それは今は余談ですが」
「ストライガーもその力を使えるし、コントロールもできる、と?」
「そもそもコントロール出来なければ諸刃の剣どころか猛毒ですよ。一日中ずっと誰かの声が聞こえるんです。そんな状況で落ち着いていられますか? まず不可能だと思いますが」
「では、コントロールする方法は? このままだと一花は危ないんじゃ……!」
「お父さん、大丈夫です。それは……私が見つけるもの。お父さんにずっと頼ってばっかりじゃ、ダメですから」
僕とストライガーの話に割り入ってきた一花は、大丈夫だと、そう僕に告げた。
「そうですね。それを決めるのはあなたの意志です。あなたがどうしようと、私たちには何も出来ない。正確にいえば、あなたの強い意志あってこその問題になるのですから」
そして、僕を半分置き去りにして一花とストライガーは虚空を見上げた。
とっくに虹の盾は砲撃をやめていたが、徐々にその光を充填しつつある。いつまたあのレーザービームが放たれるか分かったものではない。
だとしたら、攻撃の手を緩めている今がチャンスだ。
「……ストライガーさん。先ずは私に任せてもらえませんか?」
一花はストライガーのほうを向いて、はっきりとそう言った。
ストライガーは突然何を言い出すのかと目を丸くしていた様子だったが、直ぐにいつもの硬い表情に戻る。
「そこまで言うなら、何か策があるというのね?」
「ええ。実戦は初めてだけど……たぶん私にしか出来ないことです」
一花は言い放つと、オリジナルフォーズを指差す。
「オリジナルフォーズを……二度と目覚めないように封印します」
「私が、この戦争で与えられた役目」
ひどい寒気がした。
目の前に立っている風間一花という少女は、とっくに別の存在になってしまっているのではないか。そんなことを思わせてしまうほど、彼女は変貌を遂げていた。
さらに、一花の話は続く。
「このままじゃ、みんな死んじゃう。いくらどれくらいの人が避難していようと、あれを避けることはできない」
まるですべてを知ったような口調だった。
「まるで知ったようなことを言っているが……?」
ストライガーが漸くこの話題に噛み付いてきたと思っていたが、どうやら彼女も同じく疑問を抱いているようだった。
しかしながら、そのベクトルは僕とは違う。
僕は一花を信頼している前提でその話を聞いているのだとすれば、ストライガーは別だ。
つまりは一花を敵と疑っている。
普通に考えてみればそうなるのは至極当然なことだ。だからと言って、否応無しにそう断定するのは宜しくない。何しろ、今の一花だけでは敵だと断定できる証拠が一切無いのだから。
「私は敵ではありませんよ、ストライガーさん。ずっとあなたがそう疑り深いことは分かっていました」
先手を打ったのは一花だった。
彼女は先ず、ストライガーにそう言い放った。
ストライガーは何故そんなことが分かったのかと一瞬狼狽えたが、直ぐにその意味を理解した。
「成る程。あなた、『声』が聞こえるのね? 先天性か後天性かは知らないけれど、その力は神か神に認められた者しか使えない力のはずよ。いったいあなたはどうやって……」
「いつからかは分かりません。けれど、気付けばこの力を使えるようになっていました。……そう言えば、納得していただけますか?」
出来るか出来ないかで言われると、やはり難しいものがあった。
とはいえ、今の二人の会話にすら僕はついていけていない節がある。専門用語を捲し立てて話しているからいったい何なんだ、と困惑しているのが現状だ。何かの暗号なのか?
「力は簡単にいえば、他人の心の声が聞こえる力のことだよ、お父さん」
そして一花は、僕の『声』を聞き取ってそう答えた。
他人の心の声。
それが聞こえてくる。それが一花の持つ力だという。
けれどそんな力はいつから持っていたのだろうか? いつ手に入れたものだったのか。
「いつからかは分からないけど、たぶんきっかけになったのはあの時の夢」
「あの時……ってことは、預言を託された、あの?」
こくり、と一花は頷く。
となるとつい最近もいいところだ。せめて相談してくれれば、何か助けになったかもしれないのに。いや、ならなくたっていい。不安を抱え込んだままだと、確実に精神が汚染される。だから気持ちだけでも吐き出してくれればよかったのに。
「預言……だったのかな? あの夢を見てからずうっと頭の中で声が響いてきて。それが誰の声だか分からないの。男の人だったり、女の人だったり、子供だったり、老人だったり。泣き叫ぶ声も聞こえて来れば、怒号も聞こえてくる。優しい声も聞こえて来れば、悲しい声も聞こえてくる。けれど、今の私にはそれに応えることも出来ないし、その声を聞かないでおくことも出来なかった」
「栓をすることは出来ない、ということなのか」
「出来ますよ。けれど、それは充分に特訓を積まないと難しい話です」
一花の代わりに答えたのはストライガーだった。
「そもそも使徒も全員が全員その力を使えるわけでは無いのですが、私はなぜかその力を分け与えられました。ほかでもない、キガクレノミコトから。……今思えば、その時すでにキガクレノミコトは自分の死期を悟っていたのかもしれませんね。まあ、それは今は余談ですが」
「ストライガーもその力を使えるし、コントロールもできる、と?」
「そもそもコントロール出来なければ諸刃の剣どころか猛毒ですよ。一日中ずっと誰かの声が聞こえるんです。そんな状況で落ち着いていられますか? まず不可能だと思いますが」
「では、コントロールする方法は? このままだと一花は危ないんじゃ……!」
「お父さん、大丈夫です。それは……私が見つけるもの。お父さんにずっと頼ってばっかりじゃ、ダメですから」
僕とストライガーの話に割り入ってきた一花は、大丈夫だと、そう僕に告げた。
「そうですね。それを決めるのはあなたの意志です。あなたがどうしようと、私たちには何も出来ない。正確にいえば、あなたの強い意志あってこその問題になるのですから」
そして、僕を半分置き去りにして一花とストライガーは虚空を見上げた。
とっくに虹の盾は砲撃をやめていたが、徐々にその光を充填しつつある。いつまたあのレーザービームが放たれるか分かったものではない。
だとしたら、攻撃の手を緩めている今がチャンスだ。
「……ストライガーさん。先ずは私に任せてもらえませんか?」
一花はストライガーのほうを向いて、はっきりとそう言った。
ストライガーは突然何を言い出すのかと目を丸くしていた様子だったが、直ぐにいつもの硬い表情に戻る。
「そこまで言うなら、何か策があるというのね?」
「ええ。実戦は初めてだけど……たぶん私にしか出来ないことです」
一花は言い放つと、オリジナルフォーズを指差す。
「オリジナルフォーズを……二度と目覚めないように封印します」
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