異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第二百六十八話 偉大なる戦い・決戦編㉝

 オール・アイの言葉を聞いた直後、さすがに人々は沈黙した。
 とはいえ、オール・アイの言葉を疑う人間はただ一人として居なかった。
 人々は皆、審判の時を待ちかねていたのだから。
 だから、次に人々がとった行動は――歓喜の声だった。
 地鳴りを引き起こすほどの歓声だった。

「ついに我々は救われるのですね!」
「我々は、この汚れた世界から旅立つ時がやってきたというのだ!」

 それを見たオール・アイは、詠唱を開始する。
 その詠唱は、プログラムの最初の行動。
 その詠唱は、長い目で見ればこの世界の為になること。

「……さあ、皆さん。一緒に死んで、神になりましょう」

 そして、彼らは気付かなかった。
 彼らの上空には、巨大な火球が浮かんでいるということに。
 彼らはそれに気付くこと無く――そのまま火球に飲み込まれていった。

「ううう!」
「助けて!」
「いいや、このまま居るといいんだ」
「神になる!」
「ドグ様の場所へ行ける!」
「この世界から消えることが出来る」
「審判の時を迎えることが出来るなんて、幸せだ……!」

 そんな怨嗟にも似た声が響き、やがて火球は消えた。
 火球は骨すらも燃やし尽くし、そこには焦げ跡のみが残るのみだった。

「……一先ず、これで第一段階が終わったという感じかな?」

 アインの言葉にオール・アイは頷く。
 そしてその焦げ跡を流し、その場を後にした。



 それからは、あまりにも簡単で単純な出来事だった。
 火球は幾つも生み出され、議事堂はあっという間に火の海と化した。そして人々は逃げ果せると思ったのか周囲にちりぢりになるが、それをオール・アイが許すはずも無かった。。

「簡単に、神から逃れることができると思っていたのですか? だとすれば滑稽ですねえ、滑稽、無粋、あるいは欺瞞とでも言えば良いですか。結局のところ、あなたたちは審判の時を待っていたのでしょう? それを受け入れると教典に書いてあったじゃないですか。とどのつまり、その意味は――」

 オール・アイはすらすらと、まるで呪文を詠唱するかのごとく話した。
 目の前に居る人間たちはただ怯えるだけで、きっと話など理解できていないだろう。
 だが、そんなことはオール・アイには関係ない。

「……怯えることで、祈りを、命を、救って貰おうと? だとすればそれは滑稽ですねえ! いやはや、ほんとうに面白い。ずっと隠し通していたからこれを隠さずに急に表にさらけ出したときの皆の驚きよう! ほんとう、何度経験してもこの恍惚感は誰にも味わうことは出来ないでしょう」
「騙していたのね……!」

 やがて、名も無き市民の一人がオール・アイの言葉に反抗した。
 しかし、オール・アイはそれを知らぬ風で首を傾げ、

「だとすれば、どうだと? わたしはきちんと能力を示しただけ。そうしたら、勝手にあなたたちが神の力だと崇め奉っただけ。ただ、それだけの話ではありませんか。……つまり、あなたたちは私を信じた時点で、ゲームオーバー。それにただ気付かなかっただけですよ。ま、そのおかげで私はプログラムを実行することが出来ましたがね」
「プログラム……?」
「教えて欲しいですか?」

 オール・アイの目の前に居る女性は、気がつけばオール・アイに対する恐怖よりもその探究心が勝ってしまったのか、警戒を解きつつ話を続けた。
 それにオール・アイは気付いていたのか気付かなかったのか、敢えて話を続けた。

「……この世界には、人間があまりにも増えすぎてしまったのですよ。だから、それをどうにかするべく私は、神の御言葉をいただいたということ」
「どういうこと……?」
「いつかきっと、私のやることを止めようとする人間がその力を身につけることでしょう。しかし、それはただのプログラムに過ぎない。人間が正しく生命を使うために、私たちはその管理をしているだけに過ぎないのだから。やがて、それを間違っていると思う人間が現れたところで、それは人間のエゴイズムにすぎない。人間は、誰にその生命を作られたのか。それをとっくに忘れてしまった、ということですよ」

 エゴイズム。
 人間の生命。
 オール・アイはそう言って、難しい言葉で女性を捲し立てた。
 当然ながら、女性はその言葉の意味を理解できやしない。
 けれど、オール・アイにはそんなこと関係なかった。
 たとえ理解出来ようが出来まいが、女性が知りたいと言っている事実には素直に答えてあげようとしていた。ただそれだけのことなのだから。

「……いったい、何を言いたいの。あなたたちは……何がしたいの……!」
「人間が、正しい道を進めるか否か。ただそれだけの話」

 オール・アイはそれしか言わなかった。
 そのあとは踵を返して、議事堂を後にするだけだった。
 一人生き残った女性はそのまま呆然とした様子で、オール・アイを見送っていく。


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