異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第二百六十一話 偉大なる戦い・決戦編㉖

「……シリーズ、ですか。実際の所、その名前は安直過ぎる気がしますよ。どうしてそのような名前になったのですか?」
「なったも何も、それについては仕方ないものだと思うしかありませんよ」

 オール・アイはそこでニヒルな笑みを浮かべる。
 今までまるで機械のような、愚直な反応しか示すことの無かった彼女だったが、そこでようやく彼女はどこか人間らしい表情を見せるのだった。
 オール・アイの言葉を聞くまでも無く、アインはさらに話を続ける。

「いずれにせよ、これからは簡単に行動出来ないように見えるけれど。それはいったいどうやって処理するおつもりですか? オール・アイ……いや、『チェシャ猫』とでも言えばいいでしょうか?」

 オール・アイ――チェシャ猫と呼ばれた少女は、それを聞いて微笑む。

「まだ時期は来ていないと思っていましたが……、どうやら私たちが思っている以上に世界は弱りつつあるのかもしれません」
「では、やはり、作戦を続行すると?」
「当然。それが我々の使命ですよ」

 チェシャ猫の言葉に、アインは深い溜息を吐く。

「ならば、次の一手は?」
「次の一手?」
「まるで想像していなかったような雰囲気を漂わせているけれど、忘れたとは言わせないよ? ……次に何を起こすか、その預言と呼ばれた能力で探してみればいいじゃないか」
「預言は、実際に予知しているものではないということを知っていてその発言?」
「……さあ、どうでしょうね?」

 チェシャ猫は微笑む。
 その先に見つめていた未来は、いったい誰が立っているのか――それはチェシャ猫にしか分からない。


 ◇◇◇


 会議室には、三名の人間が集められていた。僕たちを含めると、六名と言ったところか。いずれも屈強な人間ばかり……かと思っていたがそうではなく、中には秋穂と同じ女性の姿も見受けられた。いったいどういう基準で集められたのだろうか――なんてことを思っていたが。

「お待たせいたしました、皆さん。なんとか集まったので、これから会議を始めたいと思います」

 ストライガーの言葉を聞いて、全員がゆっくりと、ただ静かに頷いた。
 それを見た僕たちはストライガーから順に用意された椅子へ腰掛けた。
 そして全員が椅子に腰掛けたところでストライガーが話を始めようとした――その矢先だった。

「おい、ストライガーさんよお。どうして、そこに居るちび助も会議を見る役割に立っているのか。教えて貰いたいものだね。さすがに今回の戦争には参加しないのだろう?」

 そう言ったのは、一番右端。見るからに屈強な格好をした筋骨隆々の男だった。RPGだったら鍛冶か武器防具屋を営んでいそうな風貌だが、そんなことは無いのだろう。たぶん、きっと。
 男の言葉は想定の範囲内だったのだろう。僕よりも、一花よりも早く、ストライガーが口を開けた。

「彼女も紛れもない戦闘要員です。そして、今度の戦いで一番注目すべきポジションに立つと言っても過言では無いでしょう。ですから、彼女にも参加して貰いました」
「重要なポジション? このちび助が?」
「ちび助と言わないでください。彼女には風間一花という名前があるのですよ」

 ストライガーはそう言って、強い目つきで男を睨み付けた。

「……別に良いけれどよ、俺たち以外の人間はそれを聞いて了承するかね? この時点で批判が出てきているんだ。場合によっては大多数の人間が……」
「あら。さっきから話を聞いていれば、まるで私たちまでその意見に反対しているかのような言い草ですこと」

 そこに口を挟んできたのは、真ん中に腰掛けていた女性だった。チャイナドレスを身につけた女性は、足を重ねているようだが、それでも見えてしまうほどのスリットが入っていった。かなりきわどい服装だといえるだろう。何がきわどいかは言わないでおくが。
 女性は柔和な笑みを浮かべて、さらに話を続ける。

「主語を大きくして相手を叩くことは良くないことですよ。なにせ、自分が小さく見える。もしその屈強な筋肉がこけおどしと思わせたいならば話は別ですが……」

 どうやら彼女はかなり毒舌家のようだ。
 聞いているだけでいつその男性の堪忍袋の緒が切れるかヒヤヒヤしてしまう。
 女性の話は続く。

「まあ、私も否定こそしませんが気にはなりますね。いったい全体、どうしてその子供を戦線に入れようとしているのですか。それに、風間という名字からして、父親はあなた」

 僕を指差して女性は言った。
 それについては間違いない。僕は頷く。

「ならば、だとすれば、どうしてこれを止めようとしないのですか。普通の親ならば、こんなことはひどいことだと思うはず。自分の娘を、戦場へ送り届ける? それも、自分も向かう場所で、戦争がどんなものか知らないくせに。それを娘にも押しつける、と。それともそれをはねのけるほどの能力があるならば、話は別ですが」

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