異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百五十三話 偉大なる戦い・決戦編⑱
「あのね、今日、夢を見たの」
ゆっくりと、しかしはっきりと、言葉を細切りにしながら、一花は僕に教えてくれた。
「夢?」
こくり、と一花は頷く。
夢だけなら、まだ子供にありがちな微笑ましいエピソードとして片付けることが出来るだろう。とどのつまり、話を流すことだって出来る。
しかし、違った。
そんなもので片付けられるほど、一花の悩みは単純なものでは無かった。
「あのね。私がいつものように勉強をしていると、空から声が聞こえたの」
「声?」
気付けば僕は一花の言葉の反芻しかしていなかった。
しかしながら、それは仕方ないことだと認識してほしい。一花の疑問をただの疑問として適当に放置してしまうことは誰だって出来るかもしれないが、それは僕がムーンリットとの会話を交わしていなかったら、の話。ムーンリットからあの話を聞いてしまっている以上、一花の夢の話を無下にすることは出来ない。
一花の話は続く。
「……その声は、私にこう言ったの。あなたは神に選ばれた存在だから、人のために為すべきことをやりなさい、って」
やるべきこと。
それはいったいどういうことなのだろうかーーなんてことは野暮だ。ムーンリットの言葉を借りるならば、一花に備わった力はーー祈りの力だろう。
祈ることにより神の力を借りて、『奇跡』を起こすことが出来る。
普通に考えればその力は有り得ない力だろう。その力が許容された時点で、それは奇跡なのだから。
「為すべきこと、って何だか分かるのか?」
それを聞いて、一花は何度も首を横に振る。
ということは一花は何をすればいいのか分からないのに、ただその声から『為すべきことをやれ』と言われたから何かを成し遂げようとしているわけだ。
その意思だけは評価するが、しかしながら、誰かも分からないその声にあっさり従うのはいただけない。まあ、どうせムーンリットか彼女に関連する存在なのだろうが、一花はムーンリットの存在を知る由も無い。だったら、これ以上あまり言わないほうがいいだろうし、考えないほうがいいだろう。きっとそれが、お互いのためだ。
「……でも、何となく分かるの。為すべきことなのかどうかは分からないけれど、何となく……」
「何となく?」
「うん。それがほんとうに正しいことなのかは分からないけれど……」
「いいよ、別に。正しいことなんて、誰にも分からない」
僕の言葉は適当な発言だったかもしれない。
「……何か大きな力が、ここにやってくる」
しかし、彼女の発言は的を射ていた。
「世界はどうなるのか、それは分からない。けれど、その大きな力によって、私たちの日常が脅かされてしまう……。だから私たちは、それに立ち向かわないと」
すぐに僕は、一花の発言はあることを意味しているのだと理解した。
預言。
それもある程度的確で、誰もが疑わないようなこと。
不安を煽る発言であることは間違いないが、しかしながら、人は必要以上に不安に煽られなければ、何もやらない。となると、一花の発言は恐怖で人を統治すること、そのことと繋がってしまうことだろう。
しかし、きっと本人はそんなことを気にしてなどいない。気にしていたら一花が先に滅入ってしまうだろう。
とにかく、問題にするのは一花ではない。彼女が聞いたその声と、実際に備わった『力』だろう。声の正体はムーンリットだとして、まさかほんとうに力が備わっているとは思いもしなかった。
祈祷をトリガーとして、神の力を発揮する。
それは即ち二千年後のこの世界で権力を振り翳している祈祷師という存在そのものだった。
「……一花、話を聞いてくれ」
もうこれ以上隠し通すことは出来ないだろう。
僕はそう確信して、一花に話を始めた。
「実は一花が話したこと、それは真実だ。正確に言えば、これから起きることになる。それを夢で見たということは……、一花の見たその夢は予知夢だ」
「予知……夢?」
僕は頷く。
少女に話をする。それは即ち、理解してもらうために言葉をある程度噛み砕いて説明しなければならないということだ。はっきり言って、そう簡単に出来るものではない。だが、やらねばならないのも事実だった。
ではどちらを取れば良いかーー結果はもう、分かりきっていた。
「一花、落ち着いて聞いてくれ。その大きな力と……僕たちは戦わなくてはいけないんだ」
「戦う?」
分からないことではない、僕はそう思っていた。
だからその言葉も反芻しただけで、ただ事実の再確認程度の内容だと認識していた。
「そう。つまり、戦争だ。これから僕たちはその大きな力……オリジナルフォーズというのだが、それと戦争を始めることとなる。誰が勝つかなんて分からない。けれど、少なくとも今までの平穏な日々はやってこないと思う。それだけは……残念ながら、確実だ」
ゆっくりと、しかしはっきりと、言葉を細切りにしながら、一花は僕に教えてくれた。
「夢?」
こくり、と一花は頷く。
夢だけなら、まだ子供にありがちな微笑ましいエピソードとして片付けることが出来るだろう。とどのつまり、話を流すことだって出来る。
しかし、違った。
そんなもので片付けられるほど、一花の悩みは単純なものでは無かった。
「あのね。私がいつものように勉強をしていると、空から声が聞こえたの」
「声?」
気付けば僕は一花の言葉の反芻しかしていなかった。
しかしながら、それは仕方ないことだと認識してほしい。一花の疑問をただの疑問として適当に放置してしまうことは誰だって出来るかもしれないが、それは僕がムーンリットとの会話を交わしていなかったら、の話。ムーンリットからあの話を聞いてしまっている以上、一花の夢の話を無下にすることは出来ない。
一花の話は続く。
「……その声は、私にこう言ったの。あなたは神に選ばれた存在だから、人のために為すべきことをやりなさい、って」
やるべきこと。
それはいったいどういうことなのだろうかーーなんてことは野暮だ。ムーンリットの言葉を借りるならば、一花に備わった力はーー祈りの力だろう。
祈ることにより神の力を借りて、『奇跡』を起こすことが出来る。
普通に考えればその力は有り得ない力だろう。その力が許容された時点で、それは奇跡なのだから。
「為すべきこと、って何だか分かるのか?」
それを聞いて、一花は何度も首を横に振る。
ということは一花は何をすればいいのか分からないのに、ただその声から『為すべきことをやれ』と言われたから何かを成し遂げようとしているわけだ。
その意思だけは評価するが、しかしながら、誰かも分からないその声にあっさり従うのはいただけない。まあ、どうせムーンリットか彼女に関連する存在なのだろうが、一花はムーンリットの存在を知る由も無い。だったら、これ以上あまり言わないほうがいいだろうし、考えないほうがいいだろう。きっとそれが、お互いのためだ。
「……でも、何となく分かるの。為すべきことなのかどうかは分からないけれど、何となく……」
「何となく?」
「うん。それがほんとうに正しいことなのかは分からないけれど……」
「いいよ、別に。正しいことなんて、誰にも分からない」
僕の言葉は適当な発言だったかもしれない。
「……何か大きな力が、ここにやってくる」
しかし、彼女の発言は的を射ていた。
「世界はどうなるのか、それは分からない。けれど、その大きな力によって、私たちの日常が脅かされてしまう……。だから私たちは、それに立ち向かわないと」
すぐに僕は、一花の発言はあることを意味しているのだと理解した。
預言。
それもある程度的確で、誰もが疑わないようなこと。
不安を煽る発言であることは間違いないが、しかしながら、人は必要以上に不安に煽られなければ、何もやらない。となると、一花の発言は恐怖で人を統治すること、そのことと繋がってしまうことだろう。
しかし、きっと本人はそんなことを気にしてなどいない。気にしていたら一花が先に滅入ってしまうだろう。
とにかく、問題にするのは一花ではない。彼女が聞いたその声と、実際に備わった『力』だろう。声の正体はムーンリットだとして、まさかほんとうに力が備わっているとは思いもしなかった。
祈祷をトリガーとして、神の力を発揮する。
それは即ち二千年後のこの世界で権力を振り翳している祈祷師という存在そのものだった。
「……一花、話を聞いてくれ」
もうこれ以上隠し通すことは出来ないだろう。
僕はそう確信して、一花に話を始めた。
「実は一花が話したこと、それは真実だ。正確に言えば、これから起きることになる。それを夢で見たということは……、一花の見たその夢は予知夢だ」
「予知……夢?」
僕は頷く。
少女に話をする。それは即ち、理解してもらうために言葉をある程度噛み砕いて説明しなければならないということだ。はっきり言って、そう簡単に出来るものではない。だが、やらねばならないのも事実だった。
ではどちらを取れば良いかーー結果はもう、分かりきっていた。
「一花、落ち着いて聞いてくれ。その大きな力と……僕たちは戦わなくてはいけないんだ」
「戦う?」
分からないことではない、僕はそう思っていた。
だからその言葉も反芻しただけで、ただ事実の再確認程度の内容だと認識していた。
「そう。つまり、戦争だ。これから僕たちはその大きな力……オリジナルフォーズというのだが、それと戦争を始めることとなる。誰が勝つかなんて分からない。けれど、少なくとも今までの平穏な日々はやってこないと思う。それだけは……残念ながら、確実だ」
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