異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

異世界英雄譚EX 例えば、そんな未来なら



 ――木漏れ日が差す、ある日のこと。


 僕はそんな日差しに目を細めていた。
 笑い声が聞こえる。二人の女性の声だ。いや、一人は女性と言うには幼い。少女といったほうがいいのかもしれない。ブロンドのロングヘアーは女性と少女の共通した特徴だ。それ以外にも赤い目、笑ったときのえくぼも同じところにある。
 僕は彼女たちの名前を知っている。

「メアリー」

 僕は彼女の名前を口にした。
 二人は僕の声に気付いて、ゆっくりと頷いた。

「どうしたの、フル」
「お父さん、どうしたのー?」

 メアリー・ホープキン。
 ブロンドヘアーの彼女は、僕を見つめて優しく笑みを浮かべる。

「……ううん、ちょっと昔のことを思い出していたんだ。別に悪い話じゃ無いだろ?」
「えー、また昔の世界を救った話?」

 昔の世界、って言われると何だかおかしいことになるけれど、ううん、それはきっと間違っていない。
 オリジナルフォーズを倒して、十五年が経過した。僕たちもすっかり大人になって――そして僕は、メアリーにあの日の返事を返した。
 そうして僕たちは結ばれることになった。とはいえ、復活したラドーム学院で学業を学んでお互いに学位を手に入れて――十年近い時間が経過したわけだけれど、それでもメアリーは僕のことを待ってくれていた。
 メアリーはリーガル城お抱えの錬金術師、僕はラドーム学院で魔術を研究しながら教師として教鞭を振るっている。
 僕たちが住む家はレキギ島にある。レキギ島と言っても分かる人は少ないかもしれないので簡単に言ってしまえばラドーム学院に近い海岸沿いの村に住んでいる。僕とメアリーがお金を貯めてなんとか買うことが出来た、小さい一軒家に住んでいる。
 ぐう。
 そんな僕のモノローグを遮るようにミーティアのお腹が鳴った。ミーティアもそれに気付いたようで、顔をアピアルのように真っ赤にさせながら笑みを浮かべていた。

「……ご飯にしましょうか。そろそろお昼になるでしょうし」

 メアリーの言葉に僕は了承した。ちょうど僕もお腹を空いていた頃合いだったし、ちょうど良いといえばちょうど良い。

「手伝うよ、メアリー。何をすればいい?」
「フルは料理が苦手だから、ミーティアと遊んでて」

 それは酷い言いようだな、と思いながらも――それは間違いじゃ無かった。なにせ昔僕とメアリーが付き合っていた頃に、彼女に目玉焼きを作ってあげようと思ったら間違えてスクランブルエッグを作ってしまうレベルに料理が下手なのだ。
 それをメアリーは知っている。知っているからこそ、仕方が無い。普通、お父さんというものは娘・息子に良いところを見せたいと思うのかもしれない――けれど、そこをことごとく完璧にこなしてしまうのが僕の奥さんであるメアリーなのだ。

「メアリー」
「うん?」

 振り返り、僕の目を見つめる彼女に、問いかける。

「今、僕は――とっても幸せだよ。メアリー」

 それを聞いたメアリーも、笑みを浮かべて頷いた。
 まるで僕が何を言うのか、最初から分かっていたような感じだった。

「……当たり前でしょ、フル。私と結婚したんだから、幸せになってもらわないと!」

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