異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第二百二十八話 偉大なる戦い㉙

 創造神。
 簡単に言っているが、僕はその存在を今日の今日まで知らなかった。もしかして、元々居た世界でも創造神は居たのだろうか。だとすれば、あまりにも人間の間に浸透していないことだと思う。まあ、キガクレノミコトの言っていた言葉が真実だとするならば、人間がそれを知らないことは当然だ――そう言っていたけれど。

「創造神についての話は、今はすることではありませんね。取捨選択が大事ですから、簡単にしておかないといけません。そうでないとあなたが話を理解していただくことが出来ませんから」
「ほんとうにそう思っているのか、ストライガー?」

 キガクレノミコトが笑いながら、茶々を入れた。
 正直な話、僕もそう思っていた。ストライガーと呼ばれている女性は、ほんとうに僕へ話を理解させるために話をしているのだろうか? 正直疑問しか浮かんでこない。では何が分からない? と言われてしまうと言葉に詰まる。分からないことが多すぎて、何をどう質問すればいいのか分からない状態――ある種最悪の状態なのだから。

「それは申し訳ないことをしましたね。……我々はあまり人間と話す機会がないものですから、どうしても言葉が難解になりがちなのですよ。まあ、私も人間ではありますけれど」
「え?」

 人間なのに、使徒になっているのか?

「そう思われても仕方ないですね。……なぜ、人間なのに神と同じ立ち位置に立っているのか。まあ、色々とあったのですよ。それについては機会があれば、いずれ」
「……そろそろ本題をしないと、不味いのでは無いかね」
「大丈夫ですよ、欠番。まあ、あなたが心配するのも無理はありませんね。……さて、神殿協会は世界をリセットする計画を立てています。正確に言えば、ある預言者がそう発言をしているだけに過ぎませんが。あなたは預言というものを信じていますか?」
「預言……ですか? ううん、まあ、信じてはいないですね。僕のいた世界が科学信仰だったからかもしれないですけれど」
「まあ、確かにそれはありますよね。でも、実際のところ難しいのですよ。ほんとうに、気紛れな神が言ったこともありますから。ただし大半の預言は偽物でした。……本物の預言しか発言しない、あの預言者が現れてから」
「その預言者の名前は……?」
すべてを見通す目オール・アイ――そう呼ばれています」

 オール・アイ。
 名前を聞いただけでは男性か女性かははっきりとしてこないが、おそらくそれすらも超越しているのかもしれない。案外、そういった情報はあまり出さないほうがいいのかもしれないし。
 ストライガーの話は続く。

「……オール・アイは神では無いか、そう考えられます。人間では無い。もっといえば、人間ではそのような百発百中の預言などすることが出来ない。神が超能力を与えたとしても、そこまで精度の高い預言など出来るはずが無いでしょう」
「神、だとすれば」
「はい?」
「どうしてオール・アイはそんなことをしているのでしょうか? 自らの力を誇示するためですか? 自らの力で、世界をねじ伏せたいから?」
「どうでしょうね」

 僕の質問は、ストライガーにあっさりと流される。
 ストライガーとしても気にはなっていたことだろうけれど、まだ自分の中ではっきりしていないから流された――そんな感じだろうか。

「いずれにせよ、この世界にとって良くない存在であることは確かです。そして、ある生物を使って世界をリセットしようとしていることも」
「ある生物?」
「神殿協会では、天より落ちてきた巨人の名前からネフィリムと呼ばれていますがね。我々は強大な力を持つ生き物として、そして、この世界の人類が元々呼んでいた名前からこう呼んでいます」

 ストライガーは一旦呼吸を置いた。

強大なる原生の力オリジナルフォーズ、と」

 オリジナルフォーズ。
 まさかここでそんな名前が出てくるとは思いもしなかった。

「オリジナルフォーズ……」
「オリジナルフォーズは、世界を破壊するために生まれたといっても過言では無いくらい、強い生き物です。破壊の権化、と言ってもいいでしょう。……まあ、元々前の世代の人類が暴走したツケから生まれたものですから、それが生み出したものに淘汰されるのは運命なのかもしれませんが」
「教えてください。オリジナルフォーズとは……いったい何者なのですか? あなたたちなら、人間が知らない情報を知っているのでは」
「知っていますよ」

 案外あっさりとストライガーは答えた。
 正直はぐらかされると思ったから、そこは少し驚きだ。
 ストライガーはその言葉を放ってから、俯くと少し目を瞑った。

「しかし、難しいですね……。確かに、私たちのような存在しか知らないことはあります。けれど、どこまで話して良いものか……」
「別にいいのではないですか」

 言ったのはまたもキガクレノミコトだった。キガクレノミコトは大きく伸びをして、ゆっくりとこちらを見つめた。


 ――まさかこちらの思惑に気付かれた?


 そんなことを考えたが、キガクレノミコトは僕から視線を外して、ストライガーへと移した。

「別に話をしても減るものでは無いですし。教えてしまっても構わないのでは? それに、彼は旧世代の人間ですから、知らないといけないこともあるでしょうし」

 キガクレノミコトが言うなら、と言ってストライガーは椅子に座り直した。

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