異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百十九話 偉大なる戦い⑳
「未来を……ですか」
レイシャリオはオール・アイを見つめる。
今の発言はレイシャリオにとって耳を疑う発言だった。しかしながら、オール・アイが嘘を吐くようにも思えない。となると、やはり真実の発言となるのだろう。
オール・アイの話はなおも続く。
「そう。あなたに未来を託す……言い方だけは聞こえがいいかもしれませんが、実際にはあなたは私の手となり足となり動いていただきたいのですよ。……この言葉を、どこまで理解してもらえるかどうかそれはあなたに託されていますが」
「オール・アイ……。あなたはいったい何をお考えに……?」
「さあ、どうでしょうね?」
オール・アイはただ微笑むだけだった。
それを見て不気味に思ったレイシャリオだったが――例にもれずそれもまた表情に出すことは無かった。
レイシャリオは一人神殿を歩いていた。
オール・アイはレイシャリオとの会話を終えた後、『祈祷』に入るために別れることとなった。オール・アイは祈祷を実施する際、特定の部屋で実施する必要があり、その間は誰一人として入ることを許されない。そして先程、二人が会話していた部屋こそ、オール・アイが祈祷の際に使用する部屋だった。
「……あのお方はいったい何を考えているのだろうか」
レイシャリオはひとりごちる。一応どこで誰が聞いているか解らないから、最低限の言葉遣いは気にしているが、それでもオール・アイへの不信感は消えることは無い。
とはいえオール・アイを嫌っている人間は神殿協会内部に少ないわけではない。
それにレイシャリオほどの立場を持った人間であれば――彼女に逆らうことの出来る人間も多くはない。枢機卿という立場に居る人間は彼女を含めて三人。その三人がそれぞれ中立の立場をとって指揮をしているからこそ、神殿協会は今の立ち位置まで進むことが出来たと言われているためだ。
だから、本来であれば――枢機卿の立場に立っているレイシャリオが堂々とオール・アイへの不信感を発言してはいけないのだが、そんなこと今の彼女には関係なかったし、それはある意味どうでもいいことでもあった。
オール・アイという突然姿を現して、神殿協会をわがものにした存在。それが彼女にとってどうしても許せなかった。
いかにしてオール・アイを失脚させるか――最近の彼女にとってそれがもっとも重要なトピックスとなっていた。
「オール・アイの考えをこのまま浸透させ続けるわけにもいかない……。ともなれば、問題はどうやってオール・アイを引き摺り落とすか、だが……」
レイシャリオの考えは、そう簡単に言えることだが、対照的にそれを行動に示そうとしても簡単なことではない。
しかしながら、そんな簡単なことでは無いと解っているからこそ、レイシャリオはどうにかしてその作戦を実行したかった。
すべては自身の手で――神殿協会を掌握するために。
そのためにも表向きにはオール・アイの命令に従っている形にしておく必要があった。そうでなければあらぬ疑いをかけられかねない。ただでさえ権力争いが酷くなりつつある上層部を上手く生き残るためには、そういう『信頼』が絶対敵に必要だった。
「レイシャリオ様」
声が聞こえた。
そこに居たのは、その風景にまさに合致しているような恰好だった。百人がその恰好を見ればそう答えるはずだった。
シスター。
白を基調にした修道着に青いマントのようなものを身に着けている少女は、レイシャリオよりも僅かに幼く見える。ナース帽のような帽子には十字架をかたどった神殿協会のマークがしるされている。
「ティリア。あなた、どうしてこちらに?」
カツン、とティリアが履いているブーツが音を立てる。
「……別に大した問題じゃないっすよ。ただ、一つ問題があると思ったもんですから」
ティリアは直属の上司であるレイシャリオを前に、崩した口調でそう言った。
というよりも、それが彼女のポテンシャルと言ってもいいだろう。実際問題、彼女は相手がどんなに偉い人間でもそのような特有な喋り方をする。それは別に彼女の世代で流行っている喋り方ではなくて、彼女特有の崩した喋り方なのだった。
ティリアの話は続く。
「どうやら、敵さんは感づいてるらしいっすよ。私たちがあの国に何をするか、ということについて」
「ティリア。私たちがすることではない。あれはオール・アイの命令よ」
「でも実行するのは私たち部隊っすよ?」
「それはそうですが……」
「いずれにせよ、私たちはあの命令をこなすつもりはないっすよ? いくら、オール・アイが……神様から得た御言葉だからといって。あの御言葉が本当にドグ様の言葉かどうかも定かでは無いし」
「それは、あなたも知っているでしょう。オール・アイの言葉はずっと正しいものでした。預言と言ってもいいでしょう。あの言葉をいかに打ち負かすか、それが私たちに出来ることです。でも、それも難しい話ですね。オール・アイは今までの預言の正確さにより得た信頼と力を使って……オリジナルフォーズという神の使いを使おうとしている。それは、由々しき事態です。それはあなたにだって理解できる話でしょう?」
レイシャリオはオール・アイを見つめる。
今の発言はレイシャリオにとって耳を疑う発言だった。しかしながら、オール・アイが嘘を吐くようにも思えない。となると、やはり真実の発言となるのだろう。
オール・アイの話はなおも続く。
「そう。あなたに未来を託す……言い方だけは聞こえがいいかもしれませんが、実際にはあなたは私の手となり足となり動いていただきたいのですよ。……この言葉を、どこまで理解してもらえるかどうかそれはあなたに託されていますが」
「オール・アイ……。あなたはいったい何をお考えに……?」
「さあ、どうでしょうね?」
オール・アイはただ微笑むだけだった。
それを見て不気味に思ったレイシャリオだったが――例にもれずそれもまた表情に出すことは無かった。
レイシャリオは一人神殿を歩いていた。
オール・アイはレイシャリオとの会話を終えた後、『祈祷』に入るために別れることとなった。オール・アイは祈祷を実施する際、特定の部屋で実施する必要があり、その間は誰一人として入ることを許されない。そして先程、二人が会話していた部屋こそ、オール・アイが祈祷の際に使用する部屋だった。
「……あのお方はいったい何を考えているのだろうか」
レイシャリオはひとりごちる。一応どこで誰が聞いているか解らないから、最低限の言葉遣いは気にしているが、それでもオール・アイへの不信感は消えることは無い。
とはいえオール・アイを嫌っている人間は神殿協会内部に少ないわけではない。
それにレイシャリオほどの立場を持った人間であれば――彼女に逆らうことの出来る人間も多くはない。枢機卿という立場に居る人間は彼女を含めて三人。その三人がそれぞれ中立の立場をとって指揮をしているからこそ、神殿協会は今の立ち位置まで進むことが出来たと言われているためだ。
だから、本来であれば――枢機卿の立場に立っているレイシャリオが堂々とオール・アイへの不信感を発言してはいけないのだが、そんなこと今の彼女には関係なかったし、それはある意味どうでもいいことでもあった。
オール・アイという突然姿を現して、神殿協会をわがものにした存在。それが彼女にとってどうしても許せなかった。
いかにしてオール・アイを失脚させるか――最近の彼女にとってそれがもっとも重要なトピックスとなっていた。
「オール・アイの考えをこのまま浸透させ続けるわけにもいかない……。ともなれば、問題はどうやってオール・アイを引き摺り落とすか、だが……」
レイシャリオの考えは、そう簡単に言えることだが、対照的にそれを行動に示そうとしても簡単なことではない。
しかしながら、そんな簡単なことでは無いと解っているからこそ、レイシャリオはどうにかしてその作戦を実行したかった。
すべては自身の手で――神殿協会を掌握するために。
そのためにも表向きにはオール・アイの命令に従っている形にしておく必要があった。そうでなければあらぬ疑いをかけられかねない。ただでさえ権力争いが酷くなりつつある上層部を上手く生き残るためには、そういう『信頼』が絶対敵に必要だった。
「レイシャリオ様」
声が聞こえた。
そこに居たのは、その風景にまさに合致しているような恰好だった。百人がその恰好を見ればそう答えるはずだった。
シスター。
白を基調にした修道着に青いマントのようなものを身に着けている少女は、レイシャリオよりも僅かに幼く見える。ナース帽のような帽子には十字架をかたどった神殿協会のマークがしるされている。
「ティリア。あなた、どうしてこちらに?」
カツン、とティリアが履いているブーツが音を立てる。
「……別に大した問題じゃないっすよ。ただ、一つ問題があると思ったもんですから」
ティリアは直属の上司であるレイシャリオを前に、崩した口調でそう言った。
というよりも、それが彼女のポテンシャルと言ってもいいだろう。実際問題、彼女は相手がどんなに偉い人間でもそのような特有な喋り方をする。それは別に彼女の世代で流行っている喋り方ではなくて、彼女特有の崩した喋り方なのだった。
ティリアの話は続く。
「どうやら、敵さんは感づいてるらしいっすよ。私たちがあの国に何をするか、ということについて」
「ティリア。私たちがすることではない。あれはオール・アイの命令よ」
「でも実行するのは私たち部隊っすよ?」
「それはそうですが……」
「いずれにせよ、私たちはあの命令をこなすつもりはないっすよ? いくら、オール・アイが……神様から得た御言葉だからといって。あの御言葉が本当にドグ様の言葉かどうかも定かでは無いし」
「それは、あなたも知っているでしょう。オール・アイの言葉はずっと正しいものでした。預言と言ってもいいでしょう。あの言葉をいかに打ち負かすか、それが私たちに出来ることです。でも、それも難しい話ですね。オール・アイは今までの預言の正確さにより得た信頼と力を使って……オリジナルフォーズという神の使いを使おうとしている。それは、由々しき事態です。それはあなたにだって理解できる話でしょう?」
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