異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百十四話 偉大なる戦い⑮
「……遅い」
気付けば僕は、床に倒れこんでいた。
理由は単純明快。実際どうなったかは解っていないけれど、恐らくこの感じからして僕は負けたのだ。しかもボロボロに。そうでなければこのようにぶっ倒れてなどいないだろう。
「何で?」
「何故か、って。それは愚問だな」
そう言ったのは哀歌だった。
「おまえの剣には心がこもっていない。心のこもっていない攻撃など、避けるのは容易いことだ。……それも解らずに今までやってきたのか?」
心。
心がこもっていない、と彼女は言った。しかし、それはそれとして、その意味についてはいくらか吟味しなくてはならないのだろう。
確かに今まで僕はずっと、ただ戦うだけだった。相手が悪いから、倒さねばいけない存在だからと、ただただ剣を振り続けた。
今まではそれで何とかなった。それはメアリーにルーシーといった、仲間たちが支えてくれていたからだ。
では、今は?
「……真剣を持った経験があると聞いたから少しは期待したのだが、期待外れだったようだな。どうする? このまま女にやられたままで引き下がるつもりか?」
ゆっくりと上半身を起こし、僕は哀歌の言葉を聞いた。
哀歌の言葉は今の事実を淡々と告げていた。しかしながら、それは今の僕にはかなりダメージの大きいものだと言えるだろう。
言葉通りの意味ではない。もっと、それ以上。
つまり僕は今まで仲間たちに助けてもらって何とか乗り越えることが出来たけれど、今はその頼れる仲間が居ない。とどのつまり、僕だけでこれを乗り越えなくてはならない、ということだ。
そのためにも、基本的な僕の能力を上げなくてはならない。もちろん直ぐに上がるなんてことは思っていないけれど、出来る限り上げなければならないこともまた事実。
だったら、僕はどうすればいい?
その答えに至るまで、そう時間はかからなかった。
「ほう、まだ立つか。しかしながら、立ったところで何も変わらないぞ。私を倒すことが出来ないのならば、何も変わりはしない」
僕は立ち上がる。立ち上がった。立ち上がるしかなかった。
「……何も変わらないかもしれない。けれど、立ち上がるしかない。力をつけるしかないんだ」
「無策で挑むのは、無謀だ」
哀歌はばっさりと言い放った。
何というか、さっぱりとした性格だ。嫌いではない。でも好きかと言われると微妙だ。
「無策だ。それは言えているよ。無謀であることも、否定はしない。でもね……男には、立ち上がらないといけないときがあるんだ!」
「……ほう」
哀歌は髪をふぁさ、とかき上げる。
それは僕にとって自信を見せつけているような動作にしか見えなかった。
「それは立派な矜持だね。けれども、達成できなければそれは何の意味も為さない。……どういう意味か解るかな? 無駄とまでは言わないけれど、それに近い状態だということだよ」
哀歌の言葉は、僕を誘導しているようにも見えた。現に、それを聞いて揺さぶられる人間だって、中にはいたかも知れない。そして、その中には前の自分もいたことだろう。
しかし、今は違う。今はそんなことをしている場合ではない。何が何でも、僕は前を向かなくてはならない。この試練を、乗り越えなくてはならない!
「……まあ、それならいいですが。私は別に、何度だってあなたの前に立ってみせますよ。修行が目的でしたか、強くなりたいがためにここにやってきた、と。一体何の目的でここまで来たのかは知りませんが……、あなたがそうでありたいなら、私はただそれを打ちのめすのみ!」
哀歌はそう言うと、再び木刀を構える。
まったく面識のない相手なのに、こうも冷酷で居られるものなのだろうか。いや、或いは面識がないからこそ冷酷であれるのかもしれないが、それについてはどこまで正しいかは、目の前の哀歌にしか解らないことだ。
であるならば。
哀歌にも哀歌の矜持があって、僕にも僕の矜持がある。そして今回はその矜持のぶつかり合いだと言っていいだろう。
だとすれば、絶対に負けられない。
負けることなんて許されない。
「……まだ、立ち上がるというのか。諦めないというのか」
哀歌は溜息を一つ吐いて、
「まあ、もしそれで諦めていたのなら、私はとっくにあなたを外に出していたけれどね。才能なんてない、無能だということを思い知ったかと思ったわ。口だけの存在、とでも言えばいいかしら?」
「何で……! 何で、そこまで言われなきゃなんねえんだよ! あんたに、あんたに……何が解るって言うんだ」
「ならば、その剣を構えなさい」
哀歌は冷たく言い放った。
「ならば、あなたの意思を示しなさい。少なくとも、今のあなたでは私は何もしようとは思いません。いや、正確に言えば何もしたくありません。……お解りですか? つまり、今のあなたには二つの選択肢が提示されているということです。意思を示すか、そのまま引き下がるか。どちらかにしなさい。ただし、グズグズせずにさっさと決めること」
気付けば僕は、床に倒れこんでいた。
理由は単純明快。実際どうなったかは解っていないけれど、恐らくこの感じからして僕は負けたのだ。しかもボロボロに。そうでなければこのようにぶっ倒れてなどいないだろう。
「何で?」
「何故か、って。それは愚問だな」
そう言ったのは哀歌だった。
「おまえの剣には心がこもっていない。心のこもっていない攻撃など、避けるのは容易いことだ。……それも解らずに今までやってきたのか?」
心。
心がこもっていない、と彼女は言った。しかし、それはそれとして、その意味についてはいくらか吟味しなくてはならないのだろう。
確かに今まで僕はずっと、ただ戦うだけだった。相手が悪いから、倒さねばいけない存在だからと、ただただ剣を振り続けた。
今まではそれで何とかなった。それはメアリーにルーシーといった、仲間たちが支えてくれていたからだ。
では、今は?
「……真剣を持った経験があると聞いたから少しは期待したのだが、期待外れだったようだな。どうする? このまま女にやられたままで引き下がるつもりか?」
ゆっくりと上半身を起こし、僕は哀歌の言葉を聞いた。
哀歌の言葉は今の事実を淡々と告げていた。しかしながら、それは今の僕にはかなりダメージの大きいものだと言えるだろう。
言葉通りの意味ではない。もっと、それ以上。
つまり僕は今まで仲間たちに助けてもらって何とか乗り越えることが出来たけれど、今はその頼れる仲間が居ない。とどのつまり、僕だけでこれを乗り越えなくてはならない、ということだ。
そのためにも、基本的な僕の能力を上げなくてはならない。もちろん直ぐに上がるなんてことは思っていないけれど、出来る限り上げなければならないこともまた事実。
だったら、僕はどうすればいい?
その答えに至るまで、そう時間はかからなかった。
「ほう、まだ立つか。しかしながら、立ったところで何も変わらないぞ。私を倒すことが出来ないのならば、何も変わりはしない」
僕は立ち上がる。立ち上がった。立ち上がるしかなかった。
「……何も変わらないかもしれない。けれど、立ち上がるしかない。力をつけるしかないんだ」
「無策で挑むのは、無謀だ」
哀歌はばっさりと言い放った。
何というか、さっぱりとした性格だ。嫌いではない。でも好きかと言われると微妙だ。
「無策だ。それは言えているよ。無謀であることも、否定はしない。でもね……男には、立ち上がらないといけないときがあるんだ!」
「……ほう」
哀歌は髪をふぁさ、とかき上げる。
それは僕にとって自信を見せつけているような動作にしか見えなかった。
「それは立派な矜持だね。けれども、達成できなければそれは何の意味も為さない。……どういう意味か解るかな? 無駄とまでは言わないけれど、それに近い状態だということだよ」
哀歌の言葉は、僕を誘導しているようにも見えた。現に、それを聞いて揺さぶられる人間だって、中にはいたかも知れない。そして、その中には前の自分もいたことだろう。
しかし、今は違う。今はそんなことをしている場合ではない。何が何でも、僕は前を向かなくてはならない。この試練を、乗り越えなくてはならない!
「……まあ、それならいいですが。私は別に、何度だってあなたの前に立ってみせますよ。修行が目的でしたか、強くなりたいがためにここにやってきた、と。一体何の目的でここまで来たのかは知りませんが……、あなたがそうでありたいなら、私はただそれを打ちのめすのみ!」
哀歌はそう言うと、再び木刀を構える。
まったく面識のない相手なのに、こうも冷酷で居られるものなのだろうか。いや、或いは面識がないからこそ冷酷であれるのかもしれないが、それについてはどこまで正しいかは、目の前の哀歌にしか解らないことだ。
であるならば。
哀歌にも哀歌の矜持があって、僕にも僕の矜持がある。そして今回はその矜持のぶつかり合いだと言っていいだろう。
だとすれば、絶対に負けられない。
負けることなんて許されない。
「……まだ、立ち上がるというのか。諦めないというのか」
哀歌は溜息を一つ吐いて、
「まあ、もしそれで諦めていたのなら、私はとっくにあなたを外に出していたけれどね。才能なんてない、無能だということを思い知ったかと思ったわ。口だけの存在、とでも言えばいいかしら?」
「何で……! 何で、そこまで言われなきゃなんねえんだよ! あんたに、あんたに……何が解るって言うんだ」
「ならば、その剣を構えなさい」
哀歌は冷たく言い放った。
「ならば、あなたの意思を示しなさい。少なくとも、今のあなたでは私は何もしようとは思いません。いや、正確に言えば何もしたくありません。……お解りですか? つまり、今のあなたには二つの選択肢が提示されているということです。意思を示すか、そのまま引き下がるか。どちらかにしなさい。ただし、グズグズせずにさっさと決めること」
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