異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百六話 偉大なる戦い⑦
言葉の意味が理解できなかった。
いったいどうして木隠はその『戦争』が起きることについて理解できていたのか。それと、どうして僕をリーダーに任命したのか。その二つがどうしても気になってしまって仕方なかった。出来ることならさっさとその疑問を消化してしまいたかった。
しかしながら、僕の質問をするタイミングを奪ってもなおさらに話は続けられていく。
「……はっきり言って、疑問を浮かべていることでしょう。なぜあなたが、そしてなぜそんなことが解るのか。まあ、もしかしたら後者についてはそこまで気になっていないかもしれぬの。なぜなら、私はかつて『神』と呼ばれた存在。今は使徒と名前を変えてしまっているが……世界の仕組みそのものについては人間以上に理解しているつもりだよ」
「いや、そう言われてもさっぱり話が理解できないし、呑み込めないのですが」
「だから、言っているだろう」
すっくと立ちあがる木隠。
僕はそのまま正座をしている形で、その木隠を見上げる形になっている。
木隠はさらに話を続ける。
「あなたは、あなた自身があまり抱いていないかもしれませんが、力を持っているのですよ。その力がどういう力であれ……、あなたはこの世界を守る必要がある。それは『使徒』全員の話し合いで決定した事項だよ。おぬしには拒否権はあるが、しかしながらそのあとはどうなるか……残念ながら」
首を振って、木隠は言った。
とどのつまり、今のうちに素直に首を縦に振っておけば強硬手段に出ることは無い、と。
「……何というか、汚いやり方ですね。それって提案というよりも脅迫じゃないですか?」
「受け取り方はどうだっていいのだよ、この際。はっきり言わせてもらおうか。昔は、神の言うことはだいたい信じていた人々が多かった。それはなぜか? 我々神が人々を安寧へ導いていたからだよ。正しい方向へと導いていたからだ。しかし、人間が勝手にくだらないことをやってのけた。それはまあ、言わずとも解るだろう? 人間がいったい何をしてしまったのか、そしてどうしてこのような世界になってしまったのか」
はっきり言って、解らなかった。
偉大なる戦い以前の歴史は確か教科書でも曖昧にしか書かれていなくて、その理由が文献が殆ど残っていないから――だったはずだ。それでいてあの教科書は今になっていろいろと情報がアップデートされているから少し古い教科書だと言っていた。だったらそんなものを学生に買わせるのではない(僕ははじめ知らなかったがラドーム学院の教科書は全員購入するスタイルだった)、と言いたかったが、それは今言わないでおこう。
「……おぬしが悪いことでは無い。ただ、人間がしでかしたことであることは間違いない。それによって、神の中でも議論がなされた。それは、どういう議論であるかこの話の流れで察しが付くだろう?」
「――人間をこのまま、神の監視に置くべきかどうか、ですか?」
その言葉に木隠はゆっくりと頷く。
「その通り。しかしながらそれにはある問題も絡んでいる。我々がこの世界に存在し続けられるのは、神として人間が信仰しているから。人間が神を信仰しなければ、その神は存在し続けられなくなる。それが神話であり、それがルールとなっている」
「……でも、あなたは今目の前に居るじゃないですか」
「それは我々が『使徒』という新たなジャンルで生きることを望んだからだ。神は人々の信仰が無ければこの世界に顕在することはできない。ならばどうすればいいか? 選択肢としては二つ存在していた。一つ、この世界を捨てもともとの神が住む世界……我々はそれを『神界』と呼んでいるがね、そこに移り住むことだった。しかしながら私のようなハグレモノはそこに住むことすら許されん。日ノ本に住んでいたのならば、あの神の名前は知っているだろう?」
そして、木隠は一息おいてその名前を言った。
「――『アマテラス』。人間も我々もそう呼んだ。日ノ本創始の神として言われている。正確には高天原を治めた神だったな。そしてその高天原を取り囲むように神界は存在する。そのアマテラスに認められなければ、その神はハグレモノとなる。言ってしまえば追放者の烙印を押されたようなものだ。そうなったらあの世界には行けない。となれば、どうすればいいか? 簡単だ。もう一つの方法を試すほか無かった」
「もう一つの方法……それはいったい何だっていうんですか?」
僕の問いに、木隠は笑みを浮かべて――軈て答えた。
「神の地位を捨て、この世界に永住すること。神の存在意義が消失し、代わりに別の存在意義が誕生する。神だったころに得ていた特殊な力はすべて消えてしまうことは無いが、殆ど抜け落ちてしまうと言っていいだろう。なぜなら、神は人間に信仰されて存在することが出来る。そして、その力というのも人間に信仰されることで得られるものばかりだ。その信仰を失ってしまえば、もともと持っていた力しか使うことが出来ない。……そうやって世界各地のハグレモノどうしが集まったのを、我々は新たにこう呼んだ。『使徒』、と」
いったいどうして木隠はその『戦争』が起きることについて理解できていたのか。それと、どうして僕をリーダーに任命したのか。その二つがどうしても気になってしまって仕方なかった。出来ることならさっさとその疑問を消化してしまいたかった。
しかしながら、僕の質問をするタイミングを奪ってもなおさらに話は続けられていく。
「……はっきり言って、疑問を浮かべていることでしょう。なぜあなたが、そしてなぜそんなことが解るのか。まあ、もしかしたら後者についてはそこまで気になっていないかもしれぬの。なぜなら、私はかつて『神』と呼ばれた存在。今は使徒と名前を変えてしまっているが……世界の仕組みそのものについては人間以上に理解しているつもりだよ」
「いや、そう言われてもさっぱり話が理解できないし、呑み込めないのですが」
「だから、言っているだろう」
すっくと立ちあがる木隠。
僕はそのまま正座をしている形で、その木隠を見上げる形になっている。
木隠はさらに話を続ける。
「あなたは、あなた自身があまり抱いていないかもしれませんが、力を持っているのですよ。その力がどういう力であれ……、あなたはこの世界を守る必要がある。それは『使徒』全員の話し合いで決定した事項だよ。おぬしには拒否権はあるが、しかしながらそのあとはどうなるか……残念ながら」
首を振って、木隠は言った。
とどのつまり、今のうちに素直に首を縦に振っておけば強硬手段に出ることは無い、と。
「……何というか、汚いやり方ですね。それって提案というよりも脅迫じゃないですか?」
「受け取り方はどうだっていいのだよ、この際。はっきり言わせてもらおうか。昔は、神の言うことはだいたい信じていた人々が多かった。それはなぜか? 我々神が人々を安寧へ導いていたからだよ。正しい方向へと導いていたからだ。しかし、人間が勝手にくだらないことをやってのけた。それはまあ、言わずとも解るだろう? 人間がいったい何をしてしまったのか、そしてどうしてこのような世界になってしまったのか」
はっきり言って、解らなかった。
偉大なる戦い以前の歴史は確か教科書でも曖昧にしか書かれていなくて、その理由が文献が殆ど残っていないから――だったはずだ。それでいてあの教科書は今になっていろいろと情報がアップデートされているから少し古い教科書だと言っていた。だったらそんなものを学生に買わせるのではない(僕ははじめ知らなかったがラドーム学院の教科書は全員購入するスタイルだった)、と言いたかったが、それは今言わないでおこう。
「……おぬしが悪いことでは無い。ただ、人間がしでかしたことであることは間違いない。それによって、神の中でも議論がなされた。それは、どういう議論であるかこの話の流れで察しが付くだろう?」
「――人間をこのまま、神の監視に置くべきかどうか、ですか?」
その言葉に木隠はゆっくりと頷く。
「その通り。しかしながらそれにはある問題も絡んでいる。我々がこの世界に存在し続けられるのは、神として人間が信仰しているから。人間が神を信仰しなければ、その神は存在し続けられなくなる。それが神話であり、それがルールとなっている」
「……でも、あなたは今目の前に居るじゃないですか」
「それは我々が『使徒』という新たなジャンルで生きることを望んだからだ。神は人々の信仰が無ければこの世界に顕在することはできない。ならばどうすればいいか? 選択肢としては二つ存在していた。一つ、この世界を捨てもともとの神が住む世界……我々はそれを『神界』と呼んでいるがね、そこに移り住むことだった。しかしながら私のようなハグレモノはそこに住むことすら許されん。日ノ本に住んでいたのならば、あの神の名前は知っているだろう?」
そして、木隠は一息おいてその名前を言った。
「――『アマテラス』。人間も我々もそう呼んだ。日ノ本創始の神として言われている。正確には高天原を治めた神だったな。そしてその高天原を取り囲むように神界は存在する。そのアマテラスに認められなければ、その神はハグレモノとなる。言ってしまえば追放者の烙印を押されたようなものだ。そうなったらあの世界には行けない。となれば、どうすればいいか? 簡単だ。もう一つの方法を試すほか無かった」
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僕の問いに、木隠は笑みを浮かべて――軈て答えた。
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