異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百九十三話 神殿と試練⑥
「まあ、それについては後できっといやでも解ると思う。今はあなたが何をすべきか、それについてきちんと吟味すべきではなくて?」
「吟味、って……。もう決まっているよ。僕がしないといけないこと、それは……この世界を救うことだ。そのために僕は『予言の勇者』としてこの世界に召喚されたんだし。というか、召喚したのはガラムド、あなたではないのか?」
「確かに」
ガラムドは云々と頷いて、目を瞑る。
「確かに、この世界にあなたを召喚したのは他ならないボクだよ。なぜなら、この世界が大変なことになるって解っていたから。それは、昔からある石板に記載されてきた」
「石板?」
いよいよきな臭くなってきたような気がする。
しかしながら、ガラムドの話は聞いておいたほうがいいだろう。きっとこれから何かに役立つはずだ。というか、役立つだろうという前提で聞いておかないと今までの時間が無駄になるし、それを考えたくない。
「……まあ、それについては後で話すことになるでしょう。恐らくは、それよりも前にあなた自身の手でその知識をつかみ取るかもしれませんが、それについてはまだ話すべき内容ではないでしょうね」
「さっきから回りくどく話しているようだが、もう少し単刀直入に話しちゃくれないものかね?」
「面倒かもしれないが、このほうが一番やり方としては簡単なのですよ、アンダスタン?」
さっきから神様に煽られている気がするが、これは気のせいだろうか。
いいや、絶対に『気のせい』などでは片づけられない問題のような気がする。
この世界について、神様について、もっともっと知りたい事実がたくさんある。
正確にいえば、知らなければいけない事実――なのかもしれないけれど。
「……ガラムド、お願いだ。いろいろと話を教えてくれないか。僕はこの世界に来るまで……、あまりにも無知だった」
「無知でした。そうでしょうねえ。あなたはあまりにも無知で、愚かな存在だといえるかもしれない。けれど、それを悲しむ必要はないのですよ? あなたは知る権利があった。けれど、それを行使するタイミングが今まで無かった。それについては致し方ないのだと、思うしかありません」
「つまり、どういうことだ? 知る権利があったけど、行使するタイミングが無かった……。つまり、そのタイミングが今だと?」
「今でしょうね。今だと思いますよ? まあ、あなたがどれくらい話を知りたいのか、それによりますが」
ガラムドはそう言って、紅茶を啜る。
僕はガラムドのその仕草を見て、何も言うことが出来なかった。
考え付くことがなかった、ということかもしれない。
或いは今の状況で、脳内のキャパシティーがオーバーしていたか。
いずれにせよ、どうすればいいのか。今の僕には考えられない。
それを見ていたのか――きっと神様だ。僕の状況なんて簡単に解るのだろう。それこそ、掌で踊らされているように。ガラムドは小さく微笑んで、こちらにティーカップを差し出す。
しかしそれは、差し出すといっても実際にこちらに出すような状況ではなくて――。
「……さあ、結局何をするのか解らないといった状況かな? 状況の整理がつかなくて、的な感じか。いずれにせよ、このチャンスを無駄にするのは非常に勿体ないと思うけれど?」
「解っている。解っているよ……。確かに、今のチャンスは貴重だ。無駄にしたくない。けれど、何を質問すればいいか、解らないんだよ。あまりにも解らないことが多すぎて……」
「じゃあ、解りました。こうしましょうか。今、あなたがしたいことは情報を入手したいことと、シルフェの剣の封印を解くこと、でしたね。簡単なことですよ。それを同時に行うことの出来る――たった一つある手段を使いましょうか」
ガラムドは指をパチンと弾いた。
ただ、それだけのことだった。
今まで自分たちがいた世界がぐにゃりと歪んだ。いや、それだけじゃない。椅子やテーブル、ティーカップやティーポッドまで今まで現実に実在していたものがその形を成さなくなり、ただの幻影に姿を変えてしまった。
そのまま地面に尻餅をつく形になってしまったが、不思議と痛みはなかった。
そして、この世界が歪んで――どこか一点に収束した。
残されたのは、僕とガラムドだけ。背景も地面も空も、すべて黒一色に染まってしまった。
自分がどこを向いているのか解らない。今自分が立っている場所がほんとうに地面なのか、実は寝そべっているのか、浮かんでいるのか、逆立ちをしている形なのか、重力がたとえ動いている今であったとしても理解することは出来なかった。
「ようこそ、フル・ヤタクミ。……いいや、今は古屋拓見と呼ぶべきでしょうか。別にあなたとボクしか居ない状況だから、元の世界での名前で言っても別に問題はないよね」
「それは別に構わないが……、ここはいったいどこだ?」
立ち上がり、ガラムドを見つめる。
ガラムドは首を傾げ、僕を見つめる。見つめあう状況になっているけれど、何かが生まれるわけではない。
「簡単に言えば、ここがこの世界の真の姿だよ。でもあまりにも殺風景過ぎるから、ボクは普段違うスペースに姿を変えているだけ。あまり姿を変えるのもよろしくないけれどね。シリーズたちはここを『世界の終わり』と呼ぶけれど、別にボクにとってはどうだっていい。この場所の名前を決めたところで、めったに呼ぶことはないからね」
まるで歌を歌うようにすらすらと言うガラムド。
そして、ガラムドは僕を指さすと、再び指を弾いた。
「ボクがもう一回指を弾けば、君はある試練に挑むことになる。簡単なことだ。シミュレーションゲームをプレイするものだと思ってもらっていい。そのシミュレーションゲームをクリアすればシルフェの剣は真の力を取り戻す」
「クリア……出来なかったら?」
「簡単なことだよ」
ガラムドは溜息を吐いて、僕の質問に答えた。
「クリアするまで――挑むまでだ」
そして、ガラムドは三度指を弾いた。
僕の意識は――そこで途絶えた。
「吟味、って……。もう決まっているよ。僕がしないといけないこと、それは……この世界を救うことだ。そのために僕は『予言の勇者』としてこの世界に召喚されたんだし。というか、召喚したのはガラムド、あなたではないのか?」
「確かに」
ガラムドは云々と頷いて、目を瞑る。
「確かに、この世界にあなたを召喚したのは他ならないボクだよ。なぜなら、この世界が大変なことになるって解っていたから。それは、昔からある石板に記載されてきた」
「石板?」
いよいよきな臭くなってきたような気がする。
しかしながら、ガラムドの話は聞いておいたほうがいいだろう。きっとこれから何かに役立つはずだ。というか、役立つだろうという前提で聞いておかないと今までの時間が無駄になるし、それを考えたくない。
「……まあ、それについては後で話すことになるでしょう。恐らくは、それよりも前にあなた自身の手でその知識をつかみ取るかもしれませんが、それについてはまだ話すべき内容ではないでしょうね」
「さっきから回りくどく話しているようだが、もう少し単刀直入に話しちゃくれないものかね?」
「面倒かもしれないが、このほうが一番やり方としては簡単なのですよ、アンダスタン?」
さっきから神様に煽られている気がするが、これは気のせいだろうか。
いいや、絶対に『気のせい』などでは片づけられない問題のような気がする。
この世界について、神様について、もっともっと知りたい事実がたくさんある。
正確にいえば、知らなければいけない事実――なのかもしれないけれど。
「……ガラムド、お願いだ。いろいろと話を教えてくれないか。僕はこの世界に来るまで……、あまりにも無知だった」
「無知でした。そうでしょうねえ。あなたはあまりにも無知で、愚かな存在だといえるかもしれない。けれど、それを悲しむ必要はないのですよ? あなたは知る権利があった。けれど、それを行使するタイミングが今まで無かった。それについては致し方ないのだと、思うしかありません」
「つまり、どういうことだ? 知る権利があったけど、行使するタイミングが無かった……。つまり、そのタイミングが今だと?」
「今でしょうね。今だと思いますよ? まあ、あなたがどれくらい話を知りたいのか、それによりますが」
ガラムドはそう言って、紅茶を啜る。
僕はガラムドのその仕草を見て、何も言うことが出来なかった。
考え付くことがなかった、ということかもしれない。
或いは今の状況で、脳内のキャパシティーがオーバーしていたか。
いずれにせよ、どうすればいいのか。今の僕には考えられない。
それを見ていたのか――きっと神様だ。僕の状況なんて簡単に解るのだろう。それこそ、掌で踊らされているように。ガラムドは小さく微笑んで、こちらにティーカップを差し出す。
しかしそれは、差し出すといっても実際にこちらに出すような状況ではなくて――。
「……さあ、結局何をするのか解らないといった状況かな? 状況の整理がつかなくて、的な感じか。いずれにせよ、このチャンスを無駄にするのは非常に勿体ないと思うけれど?」
「解っている。解っているよ……。確かに、今のチャンスは貴重だ。無駄にしたくない。けれど、何を質問すればいいか、解らないんだよ。あまりにも解らないことが多すぎて……」
「じゃあ、解りました。こうしましょうか。今、あなたがしたいことは情報を入手したいことと、シルフェの剣の封印を解くこと、でしたね。簡単なことですよ。それを同時に行うことの出来る――たった一つある手段を使いましょうか」
ガラムドは指をパチンと弾いた。
ただ、それだけのことだった。
今まで自分たちがいた世界がぐにゃりと歪んだ。いや、それだけじゃない。椅子やテーブル、ティーカップやティーポッドまで今まで現実に実在していたものがその形を成さなくなり、ただの幻影に姿を変えてしまった。
そのまま地面に尻餅をつく形になってしまったが、不思議と痛みはなかった。
そして、この世界が歪んで――どこか一点に収束した。
残されたのは、僕とガラムドだけ。背景も地面も空も、すべて黒一色に染まってしまった。
自分がどこを向いているのか解らない。今自分が立っている場所がほんとうに地面なのか、実は寝そべっているのか、浮かんでいるのか、逆立ちをしている形なのか、重力がたとえ動いている今であったとしても理解することは出来なかった。
「ようこそ、フル・ヤタクミ。……いいや、今は古屋拓見と呼ぶべきでしょうか。別にあなたとボクしか居ない状況だから、元の世界での名前で言っても別に問題はないよね」
「それは別に構わないが……、ここはいったいどこだ?」
立ち上がり、ガラムドを見つめる。
ガラムドは首を傾げ、僕を見つめる。見つめあう状況になっているけれど、何かが生まれるわけではない。
「簡単に言えば、ここがこの世界の真の姿だよ。でもあまりにも殺風景過ぎるから、ボクは普段違うスペースに姿を変えているだけ。あまり姿を変えるのもよろしくないけれどね。シリーズたちはここを『世界の終わり』と呼ぶけれど、別にボクにとってはどうだっていい。この場所の名前を決めたところで、めったに呼ぶことはないからね」
まるで歌を歌うようにすらすらと言うガラムド。
そして、ガラムドは僕を指さすと、再び指を弾いた。
「ボクがもう一回指を弾けば、君はある試練に挑むことになる。簡単なことだ。シミュレーションゲームをプレイするものだと思ってもらっていい。そのシミュレーションゲームをクリアすればシルフェの剣は真の力を取り戻す」
「クリア……出来なかったら?」
「簡単なことだよ」
ガラムドは溜息を吐いて、僕の質問に答えた。
「クリアするまで――挑むまでだ」
そして、ガラムドは三度指を弾いた。
僕の意識は――そこで途絶えた。
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