異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百九十二話 神殿と試練⑤
「お母さん?」
神様にお母さんなんて居るのか――そこまで聞くと、ほんとうに人間か何かと変わらないように見えてくる。
ガラムドの話は続く。
「うん。ボクにはお母さんがいるんだよ。まさか神様は突然姿を見せたと思っているのかな? だとすればそれは大きな間違いだよ。あくまで、この世界には『創造主』がいるんだよ。万物を作る創造主。……その人が始まりを作り、終わりを作るともいわれている。けれど、あくまでもその人は『モノ』を作るだけに過ぎない。管理をするのは、神に一括している、というわけ」
「要は、業務委託ということか」
「ぎょうむいたく?」
ガラムドは目を丸くして、首を傾げる。
おっと、この単語は『あの世界』での単語だから――ガラムドは知らない単語だったか。
「うん。いいや、こっちだけの話。忘れてもらって構わない」
「……そう。まあ、いいや。ボクもここを長々と掘り下げるつもりはないからさ」
そう言って、ティーポッドに残った紅茶をティーカップに注ごうとしたのか、ティーポッドを持つガラムドだが――そこでティーポッドにお湯が入っていないことに気付いたのか、またそれをテーブルの上に置いた。
僕はそれについて何か質問するつもりは無かった。なぜならガラムドがそのまま念じ始めたからだ。目を瞑って、右手をティーポッドに当てている状態。それが数秒続くと――気が付けば、ティーポッドから湯気が出てきていた。
「……どういうことだ?」
「解りませんか。まあ、別にいいですけれど。これくらい簡単ですよ。空気中の水素と酸素から水を作り出して、その温度を高めただけの話です。錬金術と魔術の融合……正確に言えば組み合わせ、ですかね? それで何とかやっているだけの話。まあ、あくまでもこのように酸素と水素のバランスがうまく構成されている空気が充満されている空間ではないといけませんが」
「……成る程。錬金術と魔術を組み合わせた……、それって別のジャンルになるんじゃないのか?」
「そうですね。錬金術と魔術を組み合わせた学問、錬金魔術とでもいえばいいのかしら。それが流行る世界も、もしかしたらあったのかもしれない。けれど、今の時系列ではそれはきっと永遠に組み込まれることはないのでしょうね。恐らく、だけれど」
「……何をいったい言っている?」
「ああ、こっちの話だよ。ごめんね、面倒なことになってしまっているけれど。神様というのは様々な可能性を見つめることができる。けれどあくまで監視がその目的だから、世界を滅ぼすような危険思想をどうにか修正しようとシリーズにお願いすることしかできない。お願い、というよりは命令に近いかな。いずれにせよ、その手段ではどうにもできないことは……今までにはなかった」
「なら、なぜシリーズは反抗する意思を示した?」
僕は、気づけば力の封印、その解除よりもそちらが気になってしまって仕方がなかった。実際のところ、神様が作り出した――時系列がほかの世界のどれとも違う空間に居るというならば、きっとここで永遠に近い時間を過ごしたところで何ら問題はないのだろう。そう勝手に思い込んでいた。しかしながら、時間は有限に扱わないといけないこともまた事実。いずれにせよ、ガラムドからできる限り情報を仕入れておきたかった。そしてそれを、僕の優先事項の一つに数えていた。
ガラムドは僕の思惑を知ってか知らずか、大きく頷くと――僕に顔を近づけた。
「……シリーズはボクとともにずっと観測者としてその立場を保っていた。観測者兼何かあったら世界に行動を働きかける実働部隊としてね……。実際の命令はボクが行っている。だから何ら問題はない。そう思っていた」
吐き捨てるように、ガラムドは言った。
「でもボクは気づかなかった。何千年も行動していくうちに、シリーズには『思念』が蓄積されていった。それはボクの思念かもしれない。それとも世界を滅ぼさないために闇に葬った存在の思念かもしれない。いずれにせよ、その思念の出どころが解らない以上、どうとでもいえることではあるけれど、ボクが気づかないうちにシリーズには欲求が生まれていた。……正確に言えば『強欲』だ」
強欲。
ガラムドはシリーズをそう評価した。シリーズという存在がどういう存在であるか解らない以上、それ以上僕から言及することは出来なかったけれど、その表情から見るに、シリーズが独自の観念を持って行動していることについてはとても悔しそうに見えた。悔しい、というよりも名残惜しいという意味が正しいのかもしれない。
ガラムドの話はさらに続く。
「本来であれば、これはあなたに話すべきことではないのかもしれない。けれど、あなたと話しているとある程度深く話が進んでしまう。……仕方がないことといえば、そうよね。仕方ないことだと受け取ってほしい。これは、ボクの意思でもあるけれど、ある意味あなたにも一因があるのだから」
「僕にも……その原因があるって?」
いったいガラムドは何を言っているんだ。僕が何をした、と? 予言の勇者だったから? この世界で救世主ではなく、主犯者として捕まえようとしているから? ……思考を張り巡らせたところで、その答えを見出すことはできなかった。そう簡単な話じゃない。第一、ヒントとか情報とかがあまりにも少なすぎる。そんな状況で一つの解を求めること自体が間違っているのだから。
神様にお母さんなんて居るのか――そこまで聞くと、ほんとうに人間か何かと変わらないように見えてくる。
ガラムドの話は続く。
「うん。ボクにはお母さんがいるんだよ。まさか神様は突然姿を見せたと思っているのかな? だとすればそれは大きな間違いだよ。あくまで、この世界には『創造主』がいるんだよ。万物を作る創造主。……その人が始まりを作り、終わりを作るともいわれている。けれど、あくまでもその人は『モノ』を作るだけに過ぎない。管理をするのは、神に一括している、というわけ」
「要は、業務委託ということか」
「ぎょうむいたく?」
ガラムドは目を丸くして、首を傾げる。
おっと、この単語は『あの世界』での単語だから――ガラムドは知らない単語だったか。
「うん。いいや、こっちだけの話。忘れてもらって構わない」
「……そう。まあ、いいや。ボクもここを長々と掘り下げるつもりはないからさ」
そう言って、ティーポッドに残った紅茶をティーカップに注ごうとしたのか、ティーポッドを持つガラムドだが――そこでティーポッドにお湯が入っていないことに気付いたのか、またそれをテーブルの上に置いた。
僕はそれについて何か質問するつもりは無かった。なぜならガラムドがそのまま念じ始めたからだ。目を瞑って、右手をティーポッドに当てている状態。それが数秒続くと――気が付けば、ティーポッドから湯気が出てきていた。
「……どういうことだ?」
「解りませんか。まあ、別にいいですけれど。これくらい簡単ですよ。空気中の水素と酸素から水を作り出して、その温度を高めただけの話です。錬金術と魔術の融合……正確に言えば組み合わせ、ですかね? それで何とかやっているだけの話。まあ、あくまでもこのように酸素と水素のバランスがうまく構成されている空気が充満されている空間ではないといけませんが」
「……成る程。錬金術と魔術を組み合わせた……、それって別のジャンルになるんじゃないのか?」
「そうですね。錬金術と魔術を組み合わせた学問、錬金魔術とでもいえばいいのかしら。それが流行る世界も、もしかしたらあったのかもしれない。けれど、今の時系列ではそれはきっと永遠に組み込まれることはないのでしょうね。恐らく、だけれど」
「……何をいったい言っている?」
「ああ、こっちの話だよ。ごめんね、面倒なことになってしまっているけれど。神様というのは様々な可能性を見つめることができる。けれどあくまで監視がその目的だから、世界を滅ぼすような危険思想をどうにか修正しようとシリーズにお願いすることしかできない。お願い、というよりは命令に近いかな。いずれにせよ、その手段ではどうにもできないことは……今までにはなかった」
「なら、なぜシリーズは反抗する意思を示した?」
僕は、気づけば力の封印、その解除よりもそちらが気になってしまって仕方がなかった。実際のところ、神様が作り出した――時系列がほかの世界のどれとも違う空間に居るというならば、きっとここで永遠に近い時間を過ごしたところで何ら問題はないのだろう。そう勝手に思い込んでいた。しかしながら、時間は有限に扱わないといけないこともまた事実。いずれにせよ、ガラムドからできる限り情報を仕入れておきたかった。そしてそれを、僕の優先事項の一つに数えていた。
ガラムドは僕の思惑を知ってか知らずか、大きく頷くと――僕に顔を近づけた。
「……シリーズはボクとともにずっと観測者としてその立場を保っていた。観測者兼何かあったら世界に行動を働きかける実働部隊としてね……。実際の命令はボクが行っている。だから何ら問題はない。そう思っていた」
吐き捨てるように、ガラムドは言った。
「でもボクは気づかなかった。何千年も行動していくうちに、シリーズには『思念』が蓄積されていった。それはボクの思念かもしれない。それとも世界を滅ぼさないために闇に葬った存在の思念かもしれない。いずれにせよ、その思念の出どころが解らない以上、どうとでもいえることではあるけれど、ボクが気づかないうちにシリーズには欲求が生まれていた。……正確に言えば『強欲』だ」
強欲。
ガラムドはシリーズをそう評価した。シリーズという存在がどういう存在であるか解らない以上、それ以上僕から言及することは出来なかったけれど、その表情から見るに、シリーズが独自の観念を持って行動していることについてはとても悔しそうに見えた。悔しい、というよりも名残惜しいという意味が正しいのかもしれない。
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