異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百八十七話 神殿への道⑱
(ならば、どうして殺さなかった?)
ルーシーの疑問はただそれだけのことだった。
それだけのことだったわけだけれど、しかしながらルーシーは疑問を思いながらも怒りを抱いていた。
『……問題は、あなたが考えているたった一つの問題は、そこだよね。けれど、私にとってもそれは及第点だと思っている。理解していることは確か。問題として、解決できないことは、私にとっても重大な情報があったからこそ』
ハンターの発言はところどころしどろもどろになっていて、理解することは難しかった。
けれど、ルーシーはどことなくその発言の趣旨を理解することが出来た。
(とどのつまり、フルを殺すよりも重大なことが起きた。だから、殺さなかったのか?)
『ええ、その通り。我々の目的はあくまでもこの世界を監視することだった。しかし、その障壁となったのは予言の勇者……そう考えられていた。しかし、我々の中で考えるようになった。予言の勇者はほんとうに殺すに値するべき存在なのか、と』
(なんだ、それは……。僕が言ったときは、利益が合致する……そう言っていただろ? だのに、どうしてそんなことを言い出すんだよ。それって、詐欺じゃないのか!)
『詐欺……。ええ、そういうかもしれませんね。けれど、私たちはあくまでも「監視者」。そしてそのために、世界に必要な存在ではない、その存在を排除する役割もある……。そして、この世界に不要と判断されたものは速やかに排除しなければならない。そう認定されたのが、予言の勇者であるフル・ヤタクミ。彼は世界のために、必要な犠牲なのですから』
(必要な犠牲なのは……解る。だが、どうして僕の意見を通してくれない。僕の意見と君の意見が合致したからこそ、そうやってどうにか出来たのではないのか?)
「ルーシー、どうしたの。ずっと考え事をしているようだけれど」
ルーシーとハンターの会話は脳内で長らく続けられていたが、メアリーの言葉を聞いて我に返った。
メアリーはずっとルーシーを見つめて首を傾げている。ルーシーがずっと考え事をしている表情を見て、心配しているようだった。
だからルーシーはメアリーの心配を出来る限り早く解きたいと思っていたから、首を大きく横に振った。
それも、一度だけではなく何度も。
それは彼女の不安をいち早く取り除くために。
「メアリー。大丈夫だよ、少し考え事をしていただけだ。それよりも、メアリーは大丈夫かい? ……どうやら、フルはバルト・イルファに洗脳されているようだけれど」
実際にそうではないだろう。それはルーシーも感づいていた。
しかし、今の状況を鑑みるにそうしておいたほうが彼にとって都合が良かった。
だから出来る限りフルを悪い方向にもっていきたかった。それがルーシーの思惑だった。
そして、メアリーはルーシーの言葉を聞いてゆっくりと頷く。
「……そうだね。バルト・イルファがどうやってフルを洗脳したかどうか解らないけれど、実際のところ、フルをどうにかしないといけないのも確か。でも、バルト・イルファもどうやらオリジナルフォーズを倒しておきたいようだけれど……」
「もしかして、バルト・イルファとリュージュは今別の組織に居るか、或いは別の思惑が動いているのか。そのどちらかなのかな? 実際のところ、確証は掴めないけれど。でも……、フルが洗脳されている可能性を考慮したとしても、僕たちが考えている方向に進んでいることは確かだよ」
ルーシーにとってもそれはラッキーだった。
バルト・イルファとリュージュたちが別の方向を進んでいることは明らかだ。それがどういう思惑の元進んでいるかどうかは彼らの知る由ではない。しかしながら、それはそれで彼らの考えていた『世界を元に戻そう計画』には狂いのない方向だったということは間違いないだろう。
しかしながら、ルーシーは考える。
このまま進んでいくことで、メアリーは彼に心を傾けてくれるのだろうか?
フルはこのまま生き続けている。そして花束を使うことで神殿へのバリアを解除し、神殿へと向かうことになっている。力を開放し、オリジナルフォーズを倒す。それは彼自身の命が犠牲になることは間違いないのだが、いずれにせよ、彼自身がそういう理想的な死を遂げることでメアリーはそのまま一生フルを愛し続けてしまうのではないか――そう考えていた。
それはルーシーにとっては最悪の結末だった、ということは間違いないだろう。
そう考えたからこそ、今のルーシーにはフルをいかにして殺すか――それしか考えられなかった。
だから、ルーシーは提言した。
「メアリー。向かおう、神殿へ。神殿で力を開放する前に……フルを僕たちの手に取り戻すんだ。それによって、僕たちはまだやり直せる。そうだろう? そうとは思わないか?」
それを聞いたメアリーは、その手があったかと急いで振り返る。
メアリーの目は輝いていた。
「……そうか。その手があったわね。……有難う、ルーシー。取り戻しましょう、フルを、私たちの手に」
ルーシーとメアリーは、思惑は違えど方向性は一つ。
神殿でフルと出会う。
そうしてフルとバルト・イルファも、世界を救うために神殿へ足を踏み入れる。
その神殿で、何が待ち受けているのか――今は誰にも解らない。
ルーシーの疑問はただそれだけのことだった。
それだけのことだったわけだけれど、しかしながらルーシーは疑問を思いながらも怒りを抱いていた。
『……問題は、あなたが考えているたった一つの問題は、そこだよね。けれど、私にとってもそれは及第点だと思っている。理解していることは確か。問題として、解決できないことは、私にとっても重大な情報があったからこそ』
ハンターの発言はところどころしどろもどろになっていて、理解することは難しかった。
けれど、ルーシーはどことなくその発言の趣旨を理解することが出来た。
(とどのつまり、フルを殺すよりも重大なことが起きた。だから、殺さなかったのか?)
『ええ、その通り。我々の目的はあくまでもこの世界を監視することだった。しかし、その障壁となったのは予言の勇者……そう考えられていた。しかし、我々の中で考えるようになった。予言の勇者はほんとうに殺すに値するべき存在なのか、と』
(なんだ、それは……。僕が言ったときは、利益が合致する……そう言っていただろ? だのに、どうしてそんなことを言い出すんだよ。それって、詐欺じゃないのか!)
『詐欺……。ええ、そういうかもしれませんね。けれど、私たちはあくまでも「監視者」。そしてそのために、世界に必要な存在ではない、その存在を排除する役割もある……。そして、この世界に不要と判断されたものは速やかに排除しなければならない。そう認定されたのが、予言の勇者であるフル・ヤタクミ。彼は世界のために、必要な犠牲なのですから』
(必要な犠牲なのは……解る。だが、どうして僕の意見を通してくれない。僕の意見と君の意見が合致したからこそ、そうやってどうにか出来たのではないのか?)
「ルーシー、どうしたの。ずっと考え事をしているようだけれど」
ルーシーとハンターの会話は脳内で長らく続けられていたが、メアリーの言葉を聞いて我に返った。
メアリーはずっとルーシーを見つめて首を傾げている。ルーシーがずっと考え事をしている表情を見て、心配しているようだった。
だからルーシーはメアリーの心配を出来る限り早く解きたいと思っていたから、首を大きく横に振った。
それも、一度だけではなく何度も。
それは彼女の不安をいち早く取り除くために。
「メアリー。大丈夫だよ、少し考え事をしていただけだ。それよりも、メアリーは大丈夫かい? ……どうやら、フルはバルト・イルファに洗脳されているようだけれど」
実際にそうではないだろう。それはルーシーも感づいていた。
しかし、今の状況を鑑みるにそうしておいたほうが彼にとって都合が良かった。
だから出来る限りフルを悪い方向にもっていきたかった。それがルーシーの思惑だった。
そして、メアリーはルーシーの言葉を聞いてゆっくりと頷く。
「……そうだね。バルト・イルファがどうやってフルを洗脳したかどうか解らないけれど、実際のところ、フルをどうにかしないといけないのも確か。でも、バルト・イルファもどうやらオリジナルフォーズを倒しておきたいようだけれど……」
「もしかして、バルト・イルファとリュージュは今別の組織に居るか、或いは別の思惑が動いているのか。そのどちらかなのかな? 実際のところ、確証は掴めないけれど。でも……、フルが洗脳されている可能性を考慮したとしても、僕たちが考えている方向に進んでいることは確かだよ」
ルーシーにとってもそれはラッキーだった。
バルト・イルファとリュージュたちが別の方向を進んでいることは明らかだ。それがどういう思惑の元進んでいるかどうかは彼らの知る由ではない。しかしながら、それはそれで彼らの考えていた『世界を元に戻そう計画』には狂いのない方向だったということは間違いないだろう。
しかしながら、ルーシーは考える。
このまま進んでいくことで、メアリーは彼に心を傾けてくれるのだろうか?
フルはこのまま生き続けている。そして花束を使うことで神殿へのバリアを解除し、神殿へと向かうことになっている。力を開放し、オリジナルフォーズを倒す。それは彼自身の命が犠牲になることは間違いないのだが、いずれにせよ、彼自身がそういう理想的な死を遂げることでメアリーはそのまま一生フルを愛し続けてしまうのではないか――そう考えていた。
それはルーシーにとっては最悪の結末だった、ということは間違いないだろう。
そう考えたからこそ、今のルーシーにはフルをいかにして殺すか――それしか考えられなかった。
だから、ルーシーは提言した。
「メアリー。向かおう、神殿へ。神殿で力を開放する前に……フルを僕たちの手に取り戻すんだ。それによって、僕たちはまだやり直せる。そうだろう? そうとは思わないか?」
それを聞いたメアリーは、その手があったかと急いで振り返る。
メアリーの目は輝いていた。
「……そうか。その手があったわね。……有難う、ルーシー。取り戻しましょう、フルを、私たちの手に」
ルーシーとメアリーは、思惑は違えど方向性は一つ。
神殿でフルと出会う。
そうしてフルとバルト・イルファも、世界を救うために神殿へ足を踏み入れる。
その神殿で、何が待ち受けているのか――今は誰にも解らない。
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