異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百八十四話 神殿への道⑮
「メアリー・ホープキンの御託はどうだっていいんだよ、フル・ヤタクミ」
バルト・イルファが思い出したかのように、僕に問い掛けた。
「……どうだっていい、ですって……!」
メアリーはバルト・イルファに噛み付くかのように前に出て、反論した。確かに彼女からしてみれば、自分の意見を真っ向から否定された、否、切り捨てられたのだから怒るのも致し方無いのかもしれない。
バルト・イルファはそんなメアリーの感情剥き出しの反論にも冷静に対処する。
「だって、そうだろう? メアリー・ホープキン、今の君にフル・ヤタクミを諭すことなど出来ない。出来るはずがない。何故なら私利私欲のために、本来開示すべき情報を意図的に伏せていたのだから。それはこちらにとってアドバンテージとなってしまう。そうではないかな?」
「何をさっきから……。フル! バルト・イルファの言っていることはすべてまったくのでたらめ! 嘘よ!」
「果たしてほんとうかなあ? その焦りが証拠になっているのではないかな?」
メアリーは何も答えてはくれなかった。
なあ、メアリー。どうして答えてくれないんだ。どうして僕の目線からそらすようにしているんだ?
「……バルト・イルファ。さっきから聞いていれば、でたらめを言っているのは君ではないかな?」
そう言ったのは、メアリーの隣でずっと見守っていたルーシーだった。
僕的にはルーシーはずっと静観しているものかと思っていたが――メアリーが一方的に叩かれている状況を続けるのは流石に不味いと思ったのだろう。だから、ここで助太刀したのかもしれない。
ルーシーの話は続く。
「君の考えも解る。けれど、僕たちの考えも間違ってはいない。つまり、どちらかが歴史を曲解させているということになるだろう? しかしながら、君はかつて魔法科学組織シグナルに所属していた。反社会的勢力だ。その組織に所属していた君と、僕たち。世間は結局どちらを信じるだろうね?」
「世間がどうだっていいだろう? ルーシー・アドバリー。それは議題のすり替え、というものだよ。問題は僕と君たちの話を聞いて、フル・ヤタクミがどちらにつくか。それが問題ではないかな? 彼が僕たちの話を理解して、最終的にどちらの味方になるか、というのが問題だろう?」
そこで、バルト・イルファは僕のほうを見つめた。
「さあ、予言の勇者クン。審判の時だよ。君がどちらを選択するか、世界の未来は君に託されていると言っても過言ではない。では、問題だ。この世界を救うためには僕かメアリー・ホープキンか。どちらを信じるかな? ああ、一応言っておくけれど、十年前の関係性については無視しておいたほうがいいと思うよ。それに漬け込んで噓を吐いている可能性だって、十分考えられるだろう?」
審判の時。
バルト・イルファはそう言った。
メアリーの考えも、バルト・イルファの考えも、客観的に考えていかねばならない。
そうして、僕がどう行動していかないといけないか、それも判断しないといけないだろう。
だが、僕はそれについて――一つの考えを決めていた。
「メアリー……。僕は僕の成すことをやっていくことにするよ」
それを聞いたメアリーは、目を丸くした。
そりゃそうだろうね。それは君が考えていたことの中で最悪のパターンになるのだから。
メアリーはゆっくりと言葉を紡いでいく。
「それって、もしかして……。いや、いや! どうしてあなたが犠牲にならないといけないの! どうしてあなたが死ぬ必要があるの! オリジナルフォーズは確かに封印しないといけない。けれど、あなたが死ぬ必要はない。誰一人として死ななくていい、そんなハッピーエンドの方法があるはず! それまで、それが完成するまでは、あなたは死んではいけない」
「でも、その方法が直ぐ完成するとも限らない。そうしてその間人々はこの世界で不自由に暮らす必要がある。ストレスもたまるだろう。予言の勇者がオリジナルフォーズを目覚めさせてしまったからこんなことになってしまったということはみんな知っているのだろう? なら、予言の勇者がそのけじめをつけるべきだ、という意見もきっと出ているはずだ。そして、君はきっとそれを理解しているのだと思う」
メアリーは何も言わなかった。正確には、何も言い出せなかったのかもしれない。
僕は話を続ける。
メアリーに右手を差し出して、
「メアリー。花束を僕に差し出してくれないか?」
「……、」
その言葉にメアリーは答えてくれなかった。
「メアリーが花束をくれないと、何も始まらない。第三の道、とでも言えばいいだろうか。このまま皆絶望の世界を暮らしていくことになる、ということだ。それははっきり言ってだれも望んじゃいない。その世界を救うためには、一番簡単な手段をとったほうが楽だと思うんだよ」
「でも、それじゃフルが……フルが死んじゃう……!」
メアリーは大粒の涙を流していた。
僕はそれを見て、ただただ何も言えず佇んでいた。
メアリーの話は続く。
「確かにあなたが世界を救ったほうが一番簡単だったかもしれない。けれど、それによってあなたという犠牲を払うほど、世界を救うのが難しいのならば、私はこの世界がこのままであっていいと思っている。それだけじゃない。十年間あなたはずっと封印されていた。私は、ルーシーもだけれど、ずっと追い続けていた。あなたがどこにいるのか、あなたを追いかけていたのよ。……十年前のあの答えも、きちんと聞けていないし」
バルト・イルファが思い出したかのように、僕に問い掛けた。
「……どうだっていい、ですって……!」
メアリーはバルト・イルファに噛み付くかのように前に出て、反論した。確かに彼女からしてみれば、自分の意見を真っ向から否定された、否、切り捨てられたのだから怒るのも致し方無いのかもしれない。
バルト・イルファはそんなメアリーの感情剥き出しの反論にも冷静に対処する。
「だって、そうだろう? メアリー・ホープキン、今の君にフル・ヤタクミを諭すことなど出来ない。出来るはずがない。何故なら私利私欲のために、本来開示すべき情報を意図的に伏せていたのだから。それはこちらにとってアドバンテージとなってしまう。そうではないかな?」
「何をさっきから……。フル! バルト・イルファの言っていることはすべてまったくのでたらめ! 嘘よ!」
「果たしてほんとうかなあ? その焦りが証拠になっているのではないかな?」
メアリーは何も答えてはくれなかった。
なあ、メアリー。どうして答えてくれないんだ。どうして僕の目線からそらすようにしているんだ?
「……バルト・イルファ。さっきから聞いていれば、でたらめを言っているのは君ではないかな?」
そう言ったのは、メアリーの隣でずっと見守っていたルーシーだった。
僕的にはルーシーはずっと静観しているものかと思っていたが――メアリーが一方的に叩かれている状況を続けるのは流石に不味いと思ったのだろう。だから、ここで助太刀したのかもしれない。
ルーシーの話は続く。
「君の考えも解る。けれど、僕たちの考えも間違ってはいない。つまり、どちらかが歴史を曲解させているということになるだろう? しかしながら、君はかつて魔法科学組織シグナルに所属していた。反社会的勢力だ。その組織に所属していた君と、僕たち。世間は結局どちらを信じるだろうね?」
「世間がどうだっていいだろう? ルーシー・アドバリー。それは議題のすり替え、というものだよ。問題は僕と君たちの話を聞いて、フル・ヤタクミがどちらにつくか。それが問題ではないかな? 彼が僕たちの話を理解して、最終的にどちらの味方になるか、というのが問題だろう?」
そこで、バルト・イルファは僕のほうを見つめた。
「さあ、予言の勇者クン。審判の時だよ。君がどちらを選択するか、世界の未来は君に託されていると言っても過言ではない。では、問題だ。この世界を救うためには僕かメアリー・ホープキンか。どちらを信じるかな? ああ、一応言っておくけれど、十年前の関係性については無視しておいたほうがいいと思うよ。それに漬け込んで噓を吐いている可能性だって、十分考えられるだろう?」
審判の時。
バルト・イルファはそう言った。
メアリーの考えも、バルト・イルファの考えも、客観的に考えていかねばならない。
そうして、僕がどう行動していかないといけないか、それも判断しないといけないだろう。
だが、僕はそれについて――一つの考えを決めていた。
「メアリー……。僕は僕の成すことをやっていくことにするよ」
それを聞いたメアリーは、目を丸くした。
そりゃそうだろうね。それは君が考えていたことの中で最悪のパターンになるのだから。
メアリーはゆっくりと言葉を紡いでいく。
「それって、もしかして……。いや、いや! どうしてあなたが犠牲にならないといけないの! どうしてあなたが死ぬ必要があるの! オリジナルフォーズは確かに封印しないといけない。けれど、あなたが死ぬ必要はない。誰一人として死ななくていい、そんなハッピーエンドの方法があるはず! それまで、それが完成するまでは、あなたは死んではいけない」
「でも、その方法が直ぐ完成するとも限らない。そうしてその間人々はこの世界で不自由に暮らす必要がある。ストレスもたまるだろう。予言の勇者がオリジナルフォーズを目覚めさせてしまったからこんなことになってしまったということはみんな知っているのだろう? なら、予言の勇者がそのけじめをつけるべきだ、という意見もきっと出ているはずだ。そして、君はきっとそれを理解しているのだと思う」
メアリーは何も言わなかった。正確には、何も言い出せなかったのかもしれない。
僕は話を続ける。
メアリーに右手を差し出して、
「メアリー。花束を僕に差し出してくれないか?」
「……、」
その言葉にメアリーは答えてくれなかった。
「メアリーが花束をくれないと、何も始まらない。第三の道、とでも言えばいいだろうか。このまま皆絶望の世界を暮らしていくことになる、ということだ。それははっきり言ってだれも望んじゃいない。その世界を救うためには、一番簡単な手段をとったほうが楽だと思うんだよ」
「でも、それじゃフルが……フルが死んじゃう……!」
メアリーは大粒の涙を流していた。
僕はそれを見て、ただただ何も言えず佇んでいた。
メアリーの話は続く。
「確かにあなたが世界を救ったほうが一番簡単だったかもしれない。けれど、それによってあなたという犠牲を払うほど、世界を救うのが難しいのならば、私はこの世界がこのままであっていいと思っている。それだけじゃない。十年間あなたはずっと封印されていた。私は、ルーシーもだけれど、ずっと追い続けていた。あなたがどこにいるのか、あなたを追いかけていたのよ。……十年前のあの答えも、きちんと聞けていないし」
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