異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第百七十一話 神殿への道②

「……どう選択するか、それは僕の勝手だろ」

 寝転がり、僕は考える。
 確かにバルト・イルファのいう通り、何もしなくていいという選択もある。しかしながら、それによって生まれるのは拘束と強制。その先に僕の自由はほぼ無いだろう。

「選択は勝手だ。それこそ、それに伴う責任もね。けれど、それを勝手と思い込まないことだ。君の世界を守ることが出来るのが君だけ、ということ。それを理解してもらいたいものだね」
「……出て行ってくれないか。少し、一人で考えたい」
「……了解した」

 そうして、バルト・イルファは部屋から出て行った。
 再び僕の部屋はまた僕一人きりになった。



 一人きりになった僕は、孤独になってしまった僕は、考えることにした。
 正確に言えば、今までに得た僅かな情報を整理することにした。情報はあまりにも少な過ぎて、この情報だけでどうにか出来るとは思っていないけれど、情報を意味もなくインプットし続けるのは意味がない。ここで情報を整理しておく必要があるだろう。そうすればきっと、見えてくるものもあるはずだ。
 先ず、この世界について。今、この世界は僕が知っている世界そのものとは大きく変わってしまっている。それは単純に十年という時間経過だけでは補い切れないものがある。

「……いったい、どうなってしまっているんだろうか」

 次に、考えの変化。
 ルーシーは前とあまり変わらないように見える。問題はメアリーだ。何だか以前よりも過保護に見えるような気がする。彼女を十年の間に、そこまで変えてしまう出来事があったのかと。
 しかしながら、彼女の考えを変えることはそう簡単なことじゃない。もっと根本的な原因があるはずで、それを変えないと何も出来ないだろう。
 けれど、僕が原因でオリジナルフォーズが復活してしまったこと、これも事実だ。
 これを受け入れるには時間が足りないけれど、そんな甘言を言っている場合ではない。それくらい僕だって理解している。
 けれど、そうだったとしても。
 受け入れがたいことがあることも、当然解ってもらいたいのが性分だ。
 とはいえ、僕はどう動けばいいのか――考えただけじゃ何も生まれなかった。
 サリー先生にバルト・イルファは僕の意志を尊重してくれた。してくれたとはいえ、僕の考えが百パーセント通るとは限らない、そういうニュアンスの回答だった。
 ならば、どうすればいいか。
 答えは明確に見えていた。

「……それが、僕の罪滅ぼしになるなら」

 そうして、僕は一つの結論を見出した。
 それが、とても時間のかかることになろうとも、僕はそれを成し遂げなければならない。
 そう思いながら。


 ◇◇◇


 次の日。
 僕はサリー先生に、自ら進言した。
 それは、改めて、自らの意志でオリジナルフォーズを封印すると決めたこと。
 もともとサリー先生から言われていたことであるとはいえ、僕自身の口から実施するとは言っていなかった。だから、今回それを改めて自分の口から言った形になる。
 それを聞いたサリー先生はただ頷いてくれるだけだった。
 それだけでいい。それだけでいいんだ。
 僕の犠牲で、世界が幸せになるならば。
 僕は、それだけで良かった。


 ◇◇◇


「それじゃ、神殿までの道のりを説明しよう」

 午後。バルト・イルファとルチア、それに僕は会議室のような広い空間に集まっていた。
 理由は、バルト・イルファが進んで提言した、神殿までの道のりの説明会だ。それを知らないとどう進めばいいか解らなかったから、それについては大変有り難かった。

「先ず、神殿へ向かうには長い道のりになるだろう。十年間で地形が大きく変わってしまった関係上、そこまで向かうにはかなりの時間を要する。それに結界が張られてしまっているから、そこまでの道のりは一筋縄ではいかない」

 結界に地形変化。確かに簡単にはいけなさそうだ。
 けれど、結界はいったい誰が張ったものなのか? まさかその神殿にだれか住んでいるのだろうか。できればあまり考えたくないけれど、食べ物とかどうしているのだろう。

「……だが、結界の周囲まではホバークラフトを使うことが出来る。それで向かえば、そう時間はかからないだろう。問題は、結界を解除する方法」
「解除する……方法?」
「『花束』を手に入れる必要がある」

 花束。
 また聞いたことない単語が出てきた。それにしても、十年後の世界を殆ど知らない僕にそれを探索せよ、と言いたいのか?

「花束が何であるのか、残念ながら判明していない。だからそれを探すところから始まると思う」

 それってどういうことだよ。
 バルト・イルファやルチアが知らないものを、僕が探し出せ、と?
 そんなこと、無理に決まっている。
 無茶だ。無理難題過ぎる。

「……まあ、無理だと思う気持ちはあるが、私たちも付いていく。だから、戦闘に関しては問題ないだろう。……貴様はやりたくないとは思っているかもしれないが、メアリー一派と一戦交える可能性も充分に考えられる。それだけは避けたいところではあるが……、まあ、そうもいかないだろう。だから、戦う準備、その心持ちは持っていたほうがいい」

 ルチアの言葉を聞いて、僕は頷く。
 確かにそれは仕方がないことかもしれない。
 だが、問題はやはりある。それは僕の中でいまだにメアリーたちが悪いことをしているとは思っていない、ということだ。メアリーたちもメアリーたちでこの世界をどうにかしよう、ということは解る。だからこそ、彼女たちを敵とするのはどうなのか、と僕は思っていた。

「……メアリー一派を敵と思いたくない気持ちは解る。かつて貴様はメアリー一派を味方として旅をしていたのだからな。けれど、それは仕方ないと割り切ってほしい。メアリー一派も確かにこの世界を救おうという気持ちをもって行動している。そして、我々も、だ。だが、だからこそ、対立してしまうのは致し方ないこと。彼女たちが『花束』について気づいていなければいいのだが」

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