異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第百六十七話 終わりの世界、始まりの少年⑭

 ハンターのメリット。それはルーシーが聞いてみればよく理解し難いものであったが、そうであったとしても、やはり簡単に信じるものではない。
 そう思っていたからこそ、ハンターはさらにルーシーに話を続ける。

『あなたが何を考えているのかさっぱり解らない。というのは嘘になる。さっきも言った通り、私はあなたの考えていることが手を取るように解っている、ということ。だとすれば、あなたが何を言ったところであなたの本心が解る、ということよ』
「……長々と語っているが、要は、隠し事は不要というスタンスだろう?」

 溜息を吐いたのち、ルーシーはハンターに目線を向ける。
 ハンターに対する不信感は未だに募っていた。だからこそいろいろと話さないでおこう。自分の手の内は隠しておこうというスタンスで何とかハンターとの会話を終えていこうと考えていた。
 しかしながら、ハンターはそれに先手を打つ形で『何でも解る』と言った。

「とにかく、話を続けよう。君は楽しいことを知りたい。僕は……彼女の向ける目線が欲しい。そういうことでよかったか?」
『お前が何を望んでいるか、私から言及するつもりはないがね。まあ、それであっているというのならあっているのではないかな』

 遊んでいるように、楽しんでいるかのように、弄んでいるかのように。

「……いずれにせよ、話をしていく必要はあるだろう。メリットと、デメリットの話し合いをする必要があるだろうよ」

 ルーシーはまだその意味に気付いていなかった。
 目の前に居るハンターとやらの実力は未知数だ。対してルーシーは十年間組織の参謀として頭脳担当の立ち回りをしてきた。メアリーはリーダーであるとするならば、ルーシーは影のリーダーという認識で間違いではないだろう。それに影のリーダーであるという認識はほかのメンバーもそう認識していた。
 メアリーは表向きにはリーダーとなっているが、実際指示を送るのはメアリーではなくルーシーだ。正確に言えばメアリーとルーシーが話し合って決めた内容をメアリーが代読する形となる。結果として、メアリーが指示をしていると表向きには見えているが、実際にはメアリーはルーシーの操り人形と化している、という認識が多い。
 そしてルーシーもそれを自負していた。メアリーは知識については豊富に持っているが、リーダーになる器は無かった。そして、メアリーもそれを理解していた。理解していたからこそ、もっとも信頼できるルーシーにその地位を委譲していた。
 ならばメアリーではなくルーシーをリーダーに置くという考えもあるが、それはメアリーの血統が問題となっている。メアリーは祈祷師を母親に持つ、『神の一族』と呼ばれる存在だ。神の一族は例外なく王家、祈祷師、それ以外であっても貴族や豪族など、ある程度この世界のパワーバランスに影響をもたらしている。それを考えると、メアリーがリーダーになるのは至極もっともなことだった。
 しかしながら戦術を考えるのはメアリーであったとしても、求心力を掴むため、正確に言えば人を上手く使うのはルーシーのほうが得意だった。
 だからこそ、ルーシーの努力はもう少し認められてもいいはずなのだが……。

『しかしながら、あなたの努力は認められることは無かった。理由は単純明快、メアリーの統率能力が秀でているとこの組織の人たちは思っているから。……そうよね?』

 それにこたえることはできなかった。
 或いは、それをルーシーは自覚していたからかもしれない。自覚していたからこそ、いざそれを言われると痛いところを突かれた気分になる。だから、何も言えない。
 それを知っていたからこそ、さらにハンターは話を続けていく。ルーシーへの言葉の猛攻を続けていく。

『……結論を先延ばしにする必要は、私の中でも無いわけだよ。それくらい理解しているだろう? 結論を先延ばしにしたところでメリットは何もない。今は、スピードが重視される時代だよ。そうは思わないか?』
「つまり、結論を急げ、ということか」

 その通り、と言わんばかりにウインクを一つするハンター。

『結論を急ぎ過ぎるのも悪い。だからといって慎重に行き過ぎるのも駄目だ。ちょうどいい感じで行こうじゃないか。別に私はせかしているつもりはない。けれど、このままでいいのかなー? このまま進んでいけば、確実にあなたの思い人はそいつと接触するぞ。そして、あなたは蚊帳の外。どうする? しいて言えばこれが最後のチャンスだ。しかも、何も出来ないあんたに対して力まで与えてやろうというんだ。これ以上の好機があると思っているのか?』

 ルーシーは考えた。自分はどう行動するべきかを。しかし、このままでは紛れもなくメアリーはフルを追い求めることだろう。十年間、彼女がフルのことを考えなかった時はやってこなかった。それは即ち、いまさら彼が何か言ったところで彼女の心は変わらないことを意味していた。
 それなら、どうすればいい? メアリーに見てもらうには? メアリーに、自分の気持ちを本気で見てもらうには、どうすればいいのか。
 目の前に居るハンターはにたりと笑みを浮かべていた。
 そして、ルーシーは一つの決断を下し――大きく頷いた。

『決めたようだな。どうするのか。自分がどういう道を歩むのが正解か、を』

 それを聞いたルーシーは、再び頷いたのち、

「ああ。よろしく頼むよ、ハンター」

 そしてハンターが差し伸べた手を、強く握った。

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