異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百六十四話 終わりの世界、始まりの少年⑪
『まあ、そんな緊張するなよ』
対して、少女は砕けた口調になって溜息を吐いた。
そしてルーシーの周りを一周くるりと回転すると、ゆっくりと床に着地した。
『私はただ、あなたに協力しようって言っているんだからさ。私と手を組めば、いろいろと楽だぞ。少なくとも、あなたが今思っていることはいずれ達成することが出来るぞ』
それを聞いたルーシーは耳を疑った。
なぜそのことを知っているのか。誰にも言っていないはずだったからだ。
シリーズと名乗った少女は指を振った。
『その表情は、なぜ解ったのか……って表情だね。まあ、それくらい簡単だよ。心を読めるからね。心を読めば何だって解るよ。今日のおかずのこととか、今一番考えていること。例えば、そう! ……思い人を奪われるかもしれない、っていう悩みもね』
「なぜ……それを……」
『だから言ったじゃないか。何度も言わせないでくれよ。それとも、記憶障害でも抱えているのかい?』
くるり、と回転して不敵な笑みを浮かべるシリーズ。
「なあ。聞いているのか? お前はなぜそれを知っているのか。……そして、僕に何をさせたいのか」
『解っているじゃないか。自分が何をすべきか、その意味を』
シリーズはルーシーに近づく。あと少しで顔と顔がくっつきそうなくらいに。
そして、囁くような声でシリーズはルーシーに言った。
『教えてやるよ。お前がすべてを手に入れる、その方法を』
◇◇◇
僕はバルト・イルファとともに部屋にいた。
答えは簡単で、バルト・イルファが突然部屋に入ってきたからだ。そして僕はそれを断ることが出来なかった。
「……なあ、バルト・イルファ。どうして君は、一緒に行動するようになったんだ?」
「裏切られたからだよ」
絞り出すように、バルト・イルファは答えを言った。
「……裏切られた? いったい、誰に」
「君だって解っているだろう。僕にとって、誰に裏切られれば、僕が『裏切られた』と考えるか」
それは、解っていた。
僕の知っている限りで、バルト・イルファが仕えている存在はただ一人。
「……リュージュが、君を裏切ったというのか?」
「そうだよ。そうでなければ、誰が裏切った? 僕はずっとリュージュ様に仕えていたのだから。……裏切られ、途方に暮れていた僕を拾ったのは、サリーだったよ」
「サリー……先生が、なぜ君を拾った」
何だか尋問のようになってきたが、今さらここで踏みとどまるわけにもいかない。
先ずはできる限り情報を収集していかないと、何も始まらないのだから。
僕の質問に対して、バルト・イルファは少し考えるような素振りをして、首を数回横に振った。
「……なぜだろうね。それははっきりとしていないよ。いまだに理由もきいたことがない 。それは僕が怖いと思っているからかもしれないな。なぜ、サリーが僕を拾ったのか、ということについて。もしかしたら、君ならその真実に近づけるかもしれないけれど」
「僕ならそれに近づける、か……」
確かに、僕なら聞けることができるかもしれない。バルト・イルファをなぜ助けたのか、ということについて。
けれど、それを聞いたところでどうなる? 何が変わる? 何も変わらないように見える。
だが、バルト・イルファはどうやら自分が助け出された理由を知らずにずっとここまでやってきたらしい。怖くて、その理由を聞くこともできずに、ただ一人でそれを抱え込んできたというのだ。
何というか、それだけ聞いていれば可愛らしいように見えるが、でも、葛藤を生みだしていることは感じられる。
ならば、どうすればよいか。このまま問題を解決していけば、何か得られるかもしれない。
それに、サリー先生に出会って話をすることで、この世界に何が起きていて、今から何をしなければならないのか――その決断が出来るかもしれない。今はバラバラになってしまっている内容も、ある程度整理をつけられるかもしれない。
そう思って、僕は腰かけていたベッドから立ち上がった。
「……どこへ向かうつもりだい?」
バルト・イルファの言葉を聞いて、僕はしっかりと頷いた。
「ちょっと、話を聞きに。直談判、ではないけれど、先ずは今の状況をもう一度整理したい。そのためにも、話すべき人間が居る」
「サリーに会いに行くつもりか? 彼女は多忙を極めていて、会うことはできないぞ。それに、彼女の部屋へ向かうには幾つかのパスコードを居住区と繋がる唯一の扉に打ち込まないといけない。でもそのパスコードを知っているのはルチアだけだ。僕は知らないよ、一切それについては。きっと、もともとは敵だったから仕方ないかもしれないが、警戒されているのだろうね」
ならば都合がいい。もう一人話を聞いておきたい人物がいた。ルチアにもある程度この世界の謎について知っている情報を引き出しておきたかった。
だから、僕は問題ないと一言だけ告げて、部屋の出口、その扉を開けるのだった。
そして僕はバルト・イルファに目をくれることもなく、部屋を後にした。
◇◇◇
一人残った部屋で、バルト・イルファは溜息を吐いた。
「いつまでも、思い通りにはいかないね。フル・ヤタクミ。君がどう動こうったって、世界の仕組みは変えられない。それとも君は望んで、自分の身体を滅ぼしに向かおうとしているのか。だとすれば、頭の悪い話だ。そんなこと、望んでする必要はないのに」
立ち上がり、伸びをする。そしてバルト・イルファは小さく舌打ちをしたのち、部屋を後にした。
「フル・ヤタクミ。君はどこまで愚かな存在なんだ?」
吐き捨てるように、その言葉を口にして。
対して、少女は砕けた口調になって溜息を吐いた。
そしてルーシーの周りを一周くるりと回転すると、ゆっくりと床に着地した。
『私はただ、あなたに協力しようって言っているんだからさ。私と手を組めば、いろいろと楽だぞ。少なくとも、あなたが今思っていることはいずれ達成することが出来るぞ』
それを聞いたルーシーは耳を疑った。
なぜそのことを知っているのか。誰にも言っていないはずだったからだ。
シリーズと名乗った少女は指を振った。
『その表情は、なぜ解ったのか……って表情だね。まあ、それくらい簡単だよ。心を読めるからね。心を読めば何だって解るよ。今日のおかずのこととか、今一番考えていること。例えば、そう! ……思い人を奪われるかもしれない、っていう悩みもね』
「なぜ……それを……」
『だから言ったじゃないか。何度も言わせないでくれよ。それとも、記憶障害でも抱えているのかい?』
くるり、と回転して不敵な笑みを浮かべるシリーズ。
「なあ。聞いているのか? お前はなぜそれを知っているのか。……そして、僕に何をさせたいのか」
『解っているじゃないか。自分が何をすべきか、その意味を』
シリーズはルーシーに近づく。あと少しで顔と顔がくっつきそうなくらいに。
そして、囁くような声でシリーズはルーシーに言った。
『教えてやるよ。お前がすべてを手に入れる、その方法を』
◇◇◇
僕はバルト・イルファとともに部屋にいた。
答えは簡単で、バルト・イルファが突然部屋に入ってきたからだ。そして僕はそれを断ることが出来なかった。
「……なあ、バルト・イルファ。どうして君は、一緒に行動するようになったんだ?」
「裏切られたからだよ」
絞り出すように、バルト・イルファは答えを言った。
「……裏切られた? いったい、誰に」
「君だって解っているだろう。僕にとって、誰に裏切られれば、僕が『裏切られた』と考えるか」
それは、解っていた。
僕の知っている限りで、バルト・イルファが仕えている存在はただ一人。
「……リュージュが、君を裏切ったというのか?」
「そうだよ。そうでなければ、誰が裏切った? 僕はずっとリュージュ様に仕えていたのだから。……裏切られ、途方に暮れていた僕を拾ったのは、サリーだったよ」
「サリー……先生が、なぜ君を拾った」
何だか尋問のようになってきたが、今さらここで踏みとどまるわけにもいかない。
先ずはできる限り情報を収集していかないと、何も始まらないのだから。
僕の質問に対して、バルト・イルファは少し考えるような素振りをして、首を数回横に振った。
「……なぜだろうね。それははっきりとしていないよ。いまだに理由もきいたことがない 。それは僕が怖いと思っているからかもしれないな。なぜ、サリーが僕を拾ったのか、ということについて。もしかしたら、君ならその真実に近づけるかもしれないけれど」
「僕ならそれに近づける、か……」
確かに、僕なら聞けることができるかもしれない。バルト・イルファをなぜ助けたのか、ということについて。
けれど、それを聞いたところでどうなる? 何が変わる? 何も変わらないように見える。
だが、バルト・イルファはどうやら自分が助け出された理由を知らずにずっとここまでやってきたらしい。怖くて、その理由を聞くこともできずに、ただ一人でそれを抱え込んできたというのだ。
何というか、それだけ聞いていれば可愛らしいように見えるが、でも、葛藤を生みだしていることは感じられる。
ならば、どうすればよいか。このまま問題を解決していけば、何か得られるかもしれない。
それに、サリー先生に出会って話をすることで、この世界に何が起きていて、今から何をしなければならないのか――その決断が出来るかもしれない。今はバラバラになってしまっている内容も、ある程度整理をつけられるかもしれない。
そう思って、僕は腰かけていたベッドから立ち上がった。
「……どこへ向かうつもりだい?」
バルト・イルファの言葉を聞いて、僕はしっかりと頷いた。
「ちょっと、話を聞きに。直談判、ではないけれど、先ずは今の状況をもう一度整理したい。そのためにも、話すべき人間が居る」
「サリーに会いに行くつもりか? 彼女は多忙を極めていて、会うことはできないぞ。それに、彼女の部屋へ向かうには幾つかのパスコードを居住区と繋がる唯一の扉に打ち込まないといけない。でもそのパスコードを知っているのはルチアだけだ。僕は知らないよ、一切それについては。きっと、もともとは敵だったから仕方ないかもしれないが、警戒されているのだろうね」
ならば都合がいい。もう一人話を聞いておきたい人物がいた。ルチアにもある程度この世界の謎について知っている情報を引き出しておきたかった。
だから、僕は問題ないと一言だけ告げて、部屋の出口、その扉を開けるのだった。
そして僕はバルト・イルファに目をくれることもなく、部屋を後にした。
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立ち上がり、伸びをする。そしてバルト・イルファは小さく舌打ちをしたのち、部屋を後にした。
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