異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第百五十六話 終わりの世界、始まりの少年③

「……取り敢えず、君は休みなさい。それに、やることもたくさんあるだろう? 今、甲板では作戦会議を開いているよ。そして、君にも何かやれることがあるはずだ。招集されていたはずだったから、君も向かうといいよ」
「かしこまりました!」

 そう言ってナディアは敬礼すると、そのまま部屋を出ていった。

「さて、」

 ナディアが居なくなったタイミングでルーシーは話を始めた。
 僕はずっと横になっていたままだったが、それでもルーシーは気にしていなかった。

「……彼女のことを、悪く思わないでくれよ。あれでも被災者の中ではかなり元の生活を取り戻したほうなんだよ。まあ、家屋と家族は戻ってこないままではあるけれどね」
「……というと?」
「オリジナルフォーズ」

 端的にルーシーは告げる。

「君も当然のことながら知っているだろう? この世界、最初の出来事として知られている『偉大なる戦い』、それに登場するメタモルフォーズの王だ。正確に言えば、プロトタイプのようなものでもあるが、実際にそれがイコールであるという事実ははっきりとしていない。まあ、それは今の君には関係のない話か」
「関係ない話……になるのか? オリジナルフォーズは、あの後無力化出来たんじゃないのか。さっきの……ええと、」
「ナディアがそう言ったのか」
「そう。彼女がそう言っていた」

 それを聞いてルーシーは溜息を吐いた。何か不味いことでも言ってしまっただろうか――と慌てて口をふさぐ仕草をしてみるが時すでに遅し。口は禍の元とも言ったものだ。
 それを見たルーシーは首を横に振る。

「別に君は悪くないよ。悪いのは、彼女だ。オリジナルフォーズを無力化と言ったが、正確にはそうじゃない。無力化したのは確かだったが、リュージュはさらに馬鹿馬鹿しいことをしでかした」
「馬鹿馬鹿しいこと?」
「世界の再構築、だよ。オリジナルフォーズは世界を破壊しつくしたのち、入眠した。科学者の推測からして、『飽きたのではないか』と言っていたが……、きっと僕もそう思う。まあ、でもそんなことは人間には関係のないことではあるけれどね。最初に世界を破壊したのはそちらだ。それを飽きたからやめるなどまったく勝手なことだと思うよ」
「世界の再構築っていったい何をしたんだ。それによって、世界はどうなった?」
「それは――」

 ルーシーの言葉に僕が耳を傾けていた――ちょうどその時だった。
 背後を見つめながらルーシーは笑みを浮かべる。

「……いや、ちょっと待ってもらおうか。フル。それについては未だ話すのはやめておこう」
「なぜだ?」
「上客が来てしまったからね」

 ルーシーの言葉を聞いた直後――そこで僕は違和感に気付いた。
 ルーシーの背後に立っているのは一人の少女だった。そして、僕はその少女の姿に見覚えがあった。第一に、その少女の姿はルーシーと瓜二つだったことも、彼女が何者であるかを確定づけることだと言えるだろう。

「……ルチア。まさかまた君に会う機会が生まれるとは思いもしなかったよ」

 そちらを見ることなく、ルーシーは言った。
 対してルチアは不敵な笑みを浮かべたまま、

「それは私も、よ。お兄ちゃん。結局のところ、面倒な話になるのは仕方ないことなのかもしれないけれど、未来のためには仕方ないことなのかな。受け入れて」
「受け入れる……いったい何を?」
「予言の勇者、フル・ヤタクミの確保……かな?」

 視界が眩んだ。
 そうしてゆっくりと僕の視界は、縮まっていく。闇におおわれていく。

「……ルチア。いったい君は何をしたというのかな。まあ、フルの状況を見れば何をしたかは何となく判明する事実ではあるけれど……。そうだとしても、これは許せないよ。ルチア、君はいったいどちらの味方だ?」
「面白いほうの味方ですよ、私は。私にとっての、面白いと思えるかどうか。それが味方になる条件なのですから」

 そして、その言葉を最後に、僕の視界は完全に闇へと消えた。


 ◇◇◇


 ルーシーとルチアの会話は、フルが眠りについたあとも続いていた。

「ルチア。君はフルを眠らせてどうするつもりだ? まさか、兄妹の秘密の会話をするためにフルは邪魔だったから、なんて半分ロマンティックなことは言わないでおくれよ?」
「そんなこと、私が言うとでも思っていたのですか?」

 ルチアは鼻で笑うと、指を弾いた。
 それは何かの合図にも思えたが、しかしながら何かが起きることは無かった。
 ルチアの挙動に構えていたルーシーは肩透かしを食らった気分だったが、

「……ルチア。考えてみれば解る話だろう。リュージュと僕たち、どちらが世界のためであるかということだ。人間のことを考えているのは、紛れもなく僕たちのほうだ。世界にとってベターな選択を出来るのはリュージュじゃない、僕たちだよ」

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