異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百四十六話 目覚めへのトリガー⑯
「権限を……盗む? そんなこと、簡単にできるのか……!」
タイソン・アルバはリュージュに激昂する。
しかしながら、そんなことを他所にリュージュは笑みを浮かべる。
リュージュにとってみれば、そんなことは知ったことではない、ということなのだろう。
「権限を盗む。はっきり言って、これは簡単に出来る話ではないわね。けれど、だからこそ、やってやろうという気になれる。しかしながら、私の目的とこれはイコール。どうやればいいのかも、計画は出来ている」
「計画は出来ている……だって? 一体全体、どうやって……」
「それはあなたに教える必要があるのかしら?」
リュージュは踵を返し、タイソン・アルバに背を向ける。
「とにかく、今のあなたには何もできない。これ以上、私の計画を話したところで、あなたにはこれを止めることは出来ない」
「……じゃあ、教えてもらってもいいのではないかな?」
その言葉に、リュージュは答えることは無かった。
◇◇◇
メアリーたちは城塞の中を走っていた。城塞の中は入り組んでおり、まるで迷路だ。そう簡単に脱出することは出来ないだろう。
「……それにしても、正しい方向にきちんと進めているのかしら……? 人が出てこないことも、はっきり言って怪しいけれど」
メアリーは独りごちる。確かにそう言っても仕方ないことかもしれない。
メアリーは苛立っていた。苛立っただけでは何も変わらないかもしれない。しかしながら、そうであったとしても、フルを助けたいがために――少し焦っていたのかもしれない。
「メアリー」
言ったのは、ルーシーだった。
もしかしたらメアリーの異変に気づいたからかもしれない。そして、メアリー自身もルーシーに異変を気づかれたと思ったかもしれない。
「……どうしたの、ルーシー?」
「メアリー。少し落ち着いて考えてみよう。大変なことは十分に理解できる。フルを助けたい気持ちはみんな一緒だ。けれど、そうかもしれないけれど、落ち着いてみないと何も考えられないと思う。そうとは思わないかな?」
「……確かに、そうかもしれない」
メアリーはあっさりとそれを受け入れて、俯いた。
「けれど、フルを助けないと……! フルは、私たちにとって……!」
「大切な存在、かな?」
声が聞こえた。
そちらを向くと、そこに立っていたのは明らかに一言で言えば異質、といえるような存在だった。
スリングショットに身を包み、褐色の肌を思いきり露出している。しかしながらそれだけではなく、半透明のローブを被っている。ただそれだけでは彼女の肌を隠すことは到底出来ることはなく、その姿を露わにしているのだが。
少女は笑った。
「予言の勇者。ああ、何て面白い存在なのかな? 世界を助けるために、弱い人間を助けるために、それだけのために生まれた存在。それはどんなに特別で、どんなに優秀だったのかな? ……うん、まあ、それでも予言の勇者というのは張りぼてじゃあない。結局のところ、予言の勇者はそれなりに体力があるわけだからね。まあ、それを理解しているとはいえ、どうも面倒なことではあるけれど……」
ウェーブがかった銀髪だった。蝋燭の明かりを浴びて銀髪がほのかに輝いている。
少女は妖艶な笑みを浮かべて、話を続けた。
「システムとフェーズをとっかえひっかえしているうちに、物語の主題が解らなくなってきた……そんなところかな。問題は、それをどうすればいいかと考えることも出来ていないことだけれど。プログラムはミステイクばかり続いていたけれど、結局のところ別のプログラムで進めているようだし。結局、修正力、ということなのかな?」
「何を言いたい……! 何が言いたいんだ!」
ルーシーは弓を構え、少女に向ける。
しかしながら、少女はそれを見ても表情一つ変えることなかった。
「その弓で私を殺そうとしているのなら無駄だと思うよ。もっと考えたほうがいいと思うけれどね」
そう言って。
少女は持っていた小瓶の蓋を開けて、そこから何かを取り出した。
それが金平糖であることに気付くまで、ルーシーたちはそう時間はかからなかった。
金平糖を三つ程手に取ってそれを口に放り投げる。
ゴリゴリと噛み砕きながら、なおも笑みを浮かべたまま、
「つーか、物語に対するエクセプションってとっても面倒なことなのだよね。要は常識が通用しないということになるのだから。まあ、それが面倒であればあるほど遣り甲斐があるといえばあるのだけれど」
ジャキ、という音が聞こえてメアリーたちはそちらを注視した。
少女は巨大な武器を構えていた。彼女のか細い手に余るほど巨大な槍だった。金属の槍はところどころ切れ目があり、その切れ目は分解できるようになっているようにも見えた。組み立て式、とでも言えばいいだろうか。いずれにせよ、その武器は彼女たちがあまり見たことのないタイプの武器だといえるだろう。
なおも少女は語る。
「結局のところ、物語におけるファクターとはいったい何を指すのだろうね? 魔術におけるファクター、錬金術におけるファクターは円だ。円は力の循環を示す重要な意味を示していて、それに構成要素として魔術を組み込んでいく。それが魔法陣の基本要素だった。そうだったよね?」
槍を見つめながら、少女は言った。
メアリーは杖を、ルーシーは弓を構えながら、相手の出方を窺う。攻撃をどうしてくるか、ということが解らなかったこともありメアリーもルーシーもいつでも攻撃が出来るように準備を進めていたのだった。
タイソン・アルバはリュージュに激昂する。
しかしながら、そんなことを他所にリュージュは笑みを浮かべる。
リュージュにとってみれば、そんなことは知ったことではない、ということなのだろう。
「権限を盗む。はっきり言って、これは簡単に出来る話ではないわね。けれど、だからこそ、やってやろうという気になれる。しかしながら、私の目的とこれはイコール。どうやればいいのかも、計画は出来ている」
「計画は出来ている……だって? 一体全体、どうやって……」
「それはあなたに教える必要があるのかしら?」
リュージュは踵を返し、タイソン・アルバに背を向ける。
「とにかく、今のあなたには何もできない。これ以上、私の計画を話したところで、あなたにはこれを止めることは出来ない」
「……じゃあ、教えてもらってもいいのではないかな?」
その言葉に、リュージュは答えることは無かった。
◇◇◇
メアリーたちは城塞の中を走っていた。城塞の中は入り組んでおり、まるで迷路だ。そう簡単に脱出することは出来ないだろう。
「……それにしても、正しい方向にきちんと進めているのかしら……? 人が出てこないことも、はっきり言って怪しいけれど」
メアリーは独りごちる。確かにそう言っても仕方ないことかもしれない。
メアリーは苛立っていた。苛立っただけでは何も変わらないかもしれない。しかしながら、そうであったとしても、フルを助けたいがために――少し焦っていたのかもしれない。
「メアリー」
言ったのは、ルーシーだった。
もしかしたらメアリーの異変に気づいたからかもしれない。そして、メアリー自身もルーシーに異変を気づかれたと思ったかもしれない。
「……どうしたの、ルーシー?」
「メアリー。少し落ち着いて考えてみよう。大変なことは十分に理解できる。フルを助けたい気持ちはみんな一緒だ。けれど、そうかもしれないけれど、落ち着いてみないと何も考えられないと思う。そうとは思わないかな?」
「……確かに、そうかもしれない」
メアリーはあっさりとそれを受け入れて、俯いた。
「けれど、フルを助けないと……! フルは、私たちにとって……!」
「大切な存在、かな?」
声が聞こえた。
そちらを向くと、そこに立っていたのは明らかに一言で言えば異質、といえるような存在だった。
スリングショットに身を包み、褐色の肌を思いきり露出している。しかしながらそれだけではなく、半透明のローブを被っている。ただそれだけでは彼女の肌を隠すことは到底出来ることはなく、その姿を露わにしているのだが。
少女は笑った。
「予言の勇者。ああ、何て面白い存在なのかな? 世界を助けるために、弱い人間を助けるために、それだけのために生まれた存在。それはどんなに特別で、どんなに優秀だったのかな? ……うん、まあ、それでも予言の勇者というのは張りぼてじゃあない。結局のところ、予言の勇者はそれなりに体力があるわけだからね。まあ、それを理解しているとはいえ、どうも面倒なことではあるけれど……」
ウェーブがかった銀髪だった。蝋燭の明かりを浴びて銀髪がほのかに輝いている。
少女は妖艶な笑みを浮かべて、話を続けた。
「システムとフェーズをとっかえひっかえしているうちに、物語の主題が解らなくなってきた……そんなところかな。問題は、それをどうすればいいかと考えることも出来ていないことだけれど。プログラムはミステイクばかり続いていたけれど、結局のところ別のプログラムで進めているようだし。結局、修正力、ということなのかな?」
「何を言いたい……! 何が言いたいんだ!」
ルーシーは弓を構え、少女に向ける。
しかしながら、少女はそれを見ても表情一つ変えることなかった。
「その弓で私を殺そうとしているのなら無駄だと思うよ。もっと考えたほうがいいと思うけれどね」
そう言って。
少女は持っていた小瓶の蓋を開けて、そこから何かを取り出した。
それが金平糖であることに気付くまで、ルーシーたちはそう時間はかからなかった。
金平糖を三つ程手に取ってそれを口に放り投げる。
ゴリゴリと噛み砕きながら、なおも笑みを浮かべたまま、
「つーか、物語に対するエクセプションってとっても面倒なことなのだよね。要は常識が通用しないということになるのだから。まあ、それが面倒であればあるほど遣り甲斐があるといえばあるのだけれど」
ジャキ、という音が聞こえてメアリーたちはそちらを注視した。
少女は巨大な武器を構えていた。彼女のか細い手に余るほど巨大な槍だった。金属の槍はところどころ切れ目があり、その切れ目は分解できるようになっているようにも見えた。組み立て式、とでも言えばいいだろうか。いずれにせよ、その武器は彼女たちがあまり見たことのないタイプの武器だといえるだろう。
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